DentalLifeDesign

デンタルライフデザインに掲載している情報は、歯科医師、歯科技工士、歯科衛生士等の歯科医療従事者の方を対象にしたものです。一般の方に対する情報提供サイトではありません。

あなたは歯科医療従事者ですか?

はいいいえ

「いいえ」の場合は、運営会社の「企業情報」ページへリンクします。

TOP>コラム>歯科が立ち上げた「食べる」を支えるカフェで 地域と医療をつなげる新たなチャレンジ<Part1>

コラム

歯科が立ち上げた「食べる」を支えるカフェで 地域と医療をつなげる新たなチャレンジ<Part1>

歯科が立ち上げた「食べる」を支えるカフェで 地域と医療をつなげる新たなチャレンジ<Part1>
歯科が立ち上げた「食べる」を支えるカフェで 地域と医療をつなげる新たなチャレンジ<Part1>
近石病院の歯科・口腔外科が中心となり、2022年12月に立ち上げたカフェ「カムカムスワロー」。味や見た目にこだわった嚥下調整食が楽しめるほか、医療と地域をつなぐ新しい取り組みが認められ、グッドデザイン賞グッドデザイン・ベスト100を受賞するなど、現在、話題となっています。カフェ誕生の舞台裏や、その効果について、近石病院の法人本部長であり、カムカムスワロー代表も務める近石壮登先生と同病院歯科・口腔外科診療部長の森田達先生に伺いました。

地域を巻き込みながらカフェを立ち上げ

-- はじめに、「カムカムスワロー」の特徴について教えてください 管理栄養士が常駐する認定栄養ケア・ステーションとコミュニティスペースを兼ね備えたカフェになります。当院の歯科・口腔外科が中心となり、栄養科、リハビリテーション科などの医療専門職のメンバーとともに立ち上げました。食や栄養を通して地域の方々の健康をサポートし、さらには地域の方々との交流の場としても活用できるスペースになっています。 カムカムスワローは認定栄養ケア・ステーションとコミュニティスペースを兼ね備えたカフェ。店名は「噛む」「come(来る)」「燕(スワロー)」に由来している。「SWALLOW」は一般的に「ツバメ」と訳されるが、「飲み込む」という意味もあり、嚥下にもつながっている。 -- カフェをつくろうと思った経緯を教えてください 私は長く歯科訪問診療や摂食嚥下リハビリテーションの領域に携わっています。そうした中、訪問先で脳梗塞後の80歳の患者さんから「お寿司屋さんでマグロが食べたい」と言われたことがありました。その方は普段、ペースト食を召し上がっていました。確かにその食事形態は医学的には正しい選択です。ただ、その方の生活や人生を考えたときに、歯科医師として食べる楽しみまで関わりきれているのか、考えさせられました。 それからもうひとつ、気づいたことがありました。普通食を召し上がれない方々は外食の機会が限られ、その結果、家族以外との交流が減っているという点です。そこで、飲み込みに困難がある方でも気軽に外食が楽しめる場所をつくれないかと考え、カフェの設立につながりました。 写真左はカルシウムがたっぷり摂取できる「骨活ランチ」。予約は必要だが、通常メニューに見た目を近づけた嚥下調整食も提供可能。他にモーニングメニューやデザートなど、本格的なカフェと変わらない多彩なメニューが用意されている。(メニューは取材時のもの) -- コミュニティスペースとしては、どのような取り組みをされているのでしょうか 当院の言語聴覚士や理学療法士といった専門職のスタッフと協力して介護予防教室を開いたり、日本料理屋さんと連携して嚥下食の教室を開いたりするなど、食や健康に関するさまざまなイベントを開催しています。単にカフェを運営しているということではなく、「食」をテーマに地域の人々が関わりを持てる場を提供できたらと考えています。また、日頃から地域の人々が医療に触れられる場所、気軽に立ち寄れる場所をつくりたいという思いがありました。そのため、さまざまな方がワイワイとにぎやかに交流ができるような空間を目指しています。 カムカムスワローで開催されたイベントの様子 -- そのようなスタイルは、どのようにして決まったのでしょうか モデルケースとなる事例がなかったため、最初に身近な人たちに声をかけてワークショップを開きました。参加したのは病院の関係者だけではなく、福祉の仕事をされている方や学校の先生、街づくりに興味がある地域の方々など、さまざまな職種や立場の方です。回を重ねるごとに、知り合いがさらに知り合いに声をかけ、輪が広がっていきました。そのうち、設計士や飲食店の経営者なども加わり、話し合いを重ねる中で、今の形にたどり着きました。 -- 地域の方々を巻き込みながらつくり上げていったのですね 一人だけで考えていたら、今のような形にはなっていませんでした。ワークショップに参加してくださった方たちとは、今でもさまざまな形で連携を取っています。

カムカムスワローが生んだ多くの出会いと発展

-- カフェをつくると聞いて歯科や医科の先生たちは驚かれたのではないでしょうか 副業でも始めたのかと思った先生もいらっしゃったと思います(笑)。ただ、訪問診療に携わっている先生方は、在宅患者の「食べる」という問題についてすぐにご理解いただき、応援してくださる方が多かったです。カフェの運営にあたっては、「医療」とは異なる分野のため、新たに法人を立ち上げるなど、ハードルがいくつもありましたが、着想から2年でオープンまでこぎつけることができました。 -- 2022年12月の開店から2年ほどが経ちますが、どのような成果がありますか 予想以上に多くの方々との出会いがありました。例えば、お客さんの中には周辺地域だけではなく、他県などの遠方からいらっしゃる方も多く、「こういう場所が自宅の近所にも欲しい」という声をよくいただきます。また、講演会で知り合った都内の高校生と一緒に嚥下食の啓発活動や新しい嚥下食を考える取り組み、北海道の企業と共同で高齢者でも食べやすいタンシチューの開発など、カムカムスワローの取り組みがさまざまな活動に発展しています。さらには、カムカムスワローをきっかけに出会った医科の先生が、当院で新たに「嚥下・サルコペニア外来」を開設してくださりました。 -- そうした成果が2023年度グッドデザイン賞グッドデザイン・ベスト100(公益財団法人日本デザイン振興会主催)の「グッドデザイン・ベスト100」の受賞につながったんですね 先日も厚生労働省とスポーツ庁が主催する「健康寿命をのばそう!アワード」で、カムカムスワローが厚生労働省健康・生活衛生局長優良賞を受賞しました。このように評価していただけることで、「これまでの取り組みは間違っていなかったんだ」と自信につながりました。また、地域と医療を結ぶ活動は世の中から求められていることをあらためて実感しています。今後はカムカムスワローのような場所をさまざまな地域で展開できないかという展望も持っています。そのためにも、事業として成り立たせるためのノウハウをしっかりと確立したいと考えています。 「グッドデザイン・ベスト100」の授賞式の様子 -- 近石先生は歯科の枠を超えた活動をされているように感じます 自分でも時々、何が専門なのかわからなくなることがあります(笑)。でも、歯科だからこそ社会に貢献できることはまだまだたくさんあると感じています。歯科の可能性を広げ、その結果が、より良い地域や健やかな社会を築く一助になれば嬉しいです。そのためにも新しい挑戦をこれからも続けていきたいと思っています。 →近石病院 森田 達先生の記事『歯科が立ち上げた「食べる」を支えるカフェで 地域と医療をつなげる新たなチャレンジ<Part2>』はこちら インタビュイー 近石 壮登 医療法人社団登豊会 近石病院 歯科・口腔外科 法人本部長・歯科医師 カムカムスワロー 代表  略歴 2011年 学習院大学法学部政治学科 卒業 2016年 日本歯科大学生命歯学部 卒業 2016年 藤田保健衛生大学病院 臨床研修医 2018年 藤田医科大学医学部歯科・口腔外科学講座 助手 2020年 藤田医科大学医学部歯科・口腔外科学講座 助教 2020年 朝日大学大学院歯学研究科(社会人大学院) 入学 2021年 医療法人社団登豊会近石病院 歯科・口腔外科 2024年 朝日大学大学院歯学研究科(社会人大学院) 卒業

著者近石 壮登

医療法人社団登豊会 近石病院 歯科・口腔外科 法人本部長・歯科医師 カムカムスワロー 代表

略歴
  • 2011年 学習院大学法学部政治学科 卒業
  • 2016年 日本歯科大学生命歯学部 卒業
  • 2016年 藤田保健衛生大学病院 臨床研修医
  • 2018年 藤田医科大学医学部歯科・口腔外科学講座 助手
  • 2020年 藤田医科大学医学部歯科・口腔外科学講座 助教
  • 2020年 朝日大学大学院歯学研究科(社会人大学院) 入学
  • 2021年 医療法人社団登豊会近石病院 歯科・口腔外科
  • 2024年 朝日大学大学院歯学研究科(社会人大学院) 卒業
近石 壮登

tags

関連記事