米国歯科医師会(ADA)の資料を紹介するウェブサイトはエビデンスをわかりやすくまとめてくれていて、オススメです。その中のチューイングガムのページを読んでいたところ、“sugar-free” のチューイングガムは唾液の分泌量を増やし、齲蝕リスクを下げる働きがあると明記しています。ところが、米国食品医薬品局(FDA)が定義している “sugar-free” 食品の条件は、1回の使用量について、0.5g未満の糖類が入っていても許されるということを知りました。 “As defined by the Food and Drug Administration (FDA) in the Code of Federal Regulations (CFR) a food or food substance such as chewing gum, can be labeled as “sugar-free” if it contains less than 0.5 g of sugars per serving.11" https://www.ada.org/resources/research/science-and-research-institute/oral-health-topics/chewing-gum ということは、例えば、米国ではチューイングガム1枚に0.49 g の砂糖が入っていても“sugar-free”と表現して良いことになります。チューイングガム1枚は製品によりますが、例えば3 g ならばおよそ16%も! 飲料の場合はたとえ1%でも砂糖が入っていると齲蝕原性があるというのに、そんなチューイングガムを齲蝕予防に推奨してしまっていいのでしょうか? 西 真紀子、桃井保子、Dowen Birkhed「ニューノーマル 口腔ケアはどう変わる? 第9回 糖濃度が低くてもむし歯のリスクあり」よぼう医学2022年夏号 p. 14 https://www.yobouigaku-tokyo.or.jp/yobou/pdf/2022_03/05.pdf 上述の記事の共同著者としてご指導をいただいたカリオロジーの大家、Dowen Birkhed 先生にそう質問してみると、飲料とチューイングガムでは状況は異なり、チューイングガムの場合は唾液量の増加と緩衝能の働きによって、齲蝕原性は相殺されるのだそうです。そして、その製品に多少の砂糖が含まれていたとしても、咀嚼時間が長ければ長いほど、砂糖濃度が徐々に低下するとプラークのpHがエナメル質や象牙質の臨界pHを超えて急速に上昇するため、齲蝕リスクは低くなるとのこと。したがって、1)咀嚼時間と2)唾液の刺激が重要なポイントです。根拠となる下の論文も教えていただきました。 Fejerskov O, Scheie AA, Birkhed D, Manji F. Effect of sugarcane chewing on plaque pH in rural Kenyan children. Caries Res. 1992;26(4):286-9. その後、日本の「シュガーレス」、「ノンシュガー」、「無糖」などの表記にも砂糖が含まれている可能性があるかどうかを調べると、100 gあたり 0.5 g以下(0.5%)の含有はゼロとみなして許容されるそうです。 <事業者向け>食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン 第4版 令和4年5月 消費者庁 食品表示企画課 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/nutrient_declearation/business/assets/food_labeling_cms206_20220531_08.pdf ちなみに、先のADAのウェブサイトによると、齲蝕予防になる代替甘味料として、アスパルテーム、アセスルファム K、ネオテーム、サッカリン、スクラロース、ステビアなどの高甘味度甘味料や、エリスリトール、イソマルト、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコールが挙げられています。ソルビトールもわずかに齲蝕原性があるとはされていますが、こちらも唾液の威力で大丈夫なのですね。 Birkhed D, Bär A. Sorbitol and dental caries. World Rev Nutr Diet. 1991 Jan 1;65:1-37. 本記事は、2023年5月28日の「日曜のフィーカ」 の内容に基づいています。
著者西 真紀子
NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー
略歴
- 1996年 大阪大学歯学部卒業
- 大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
- 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
- 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
- 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
- 2018年 同大学院修了 PhD 取得
- NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP):
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