まず嚥下時の舌運動について考えてみよう。 矢状方向から見ると、舌尖はスポットに当たり、続いて蠕動様運動により食塊を後方に移送する。 次に水平方向から口蓋を見ると、舌尖がスポットに当たった後には側方へ広がる。(図1) 続けて舌の外側縁は、前方から順次歯頸部に当たり、食塊を口蓋中央部に寄せつつ移送する。 その後、舌を口蓋に押し当て嚥下力を作り出す。 この力は、同時に口蓋を広げるように作用する。(図2) 第2世代の閉鎖型歯列弓の増加は、嚥下力と関係する可能性がある。 さて筆者は、ミミを切った玉子サンドを、何回咀嚼し嚥下するかを試したことがある。 すると、一切れ130回で食べ終えた。 次に、ミミ付きのもの、ミミを切って焼いたもので比較した。(図3) 個人的には、ミミ付きの咀嚼回数の方が多いだろうと予測していた。 しかし、予想に反した結果となったのである。 ミミ付きは202回で約1.5倍。 ところが、ミミを切っても焼けば236回と約1.8倍になったのだ。(図4) そこで理由を考えてみた。 この実験に際し、手元に飲み物がなかったのである。 パンを焼き水分を飛ばすと、飲み込み難い。 そこで、唾液と混ぜ合わすことが必要だ。 唾液を出すため、咀嚼回数が増えていたのだ 食物中の水分摂取は、咀嚼回数に影響することがわかる。 今、手元に 水分が多いヨーグルトと水分の少ないパンがあったとする。(図5) ヨーグルトは、水分が多いので簡単に飲み込める。 しかしパンは、咀嚼した後、舌を口蓋に押しつけ強い嚥下圧が必要となる。 だから水分の少ない食物は、咀嚼回数が増えることがわかる。 食物中の水分摂取は、舌を介して歯列にも影響する可能性がある。 ちなみに、ミミ付きで焼いたサンドイッチを食べてみた。 噛む回数は、一気に260回となり約2倍となっていた。(図6) 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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