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10年先を見据えた未来の歯科のあり方 第1回:掌蹠膿疱症を知っていますか?

10年先を見据えた未来の歯科のあり方 第1回:掌蹠膿疱症を知っていますか?
10年先を見据えた未来の歯科のあり方 第1回:掌蹠膿疱症を知っていますか?
掌蹠膿疱症は、手のひらや足の裏などに膿疱が形成される皮膚疾患です。小さな水ぶくれができ、しばしばかゆみをともない、痂皮となって剥がれ落ちます。見た目はカサカサしており、ひび割れてくると痛みを引き起こします。頭皮に発症し、痛みがある場合は頭を洗うことができず、足の裏の場合は歩くことが痛いなど、生活の質を著しく低下させる女性に多い皮膚疾患です。

この皮膚疾患は、最近の歯科医師国家試験では、掌蹠膿疱症と関連したパッチテストに関する問題が出題され、歯科でも認識されるべき医学的疾患となっています。これは、歯科用の金属アレルギーが主な原因と考えられてきたために、歯科との関連の深いことから取り上げられるようになったと思われます。

しかし、最近の研究では、歯科用金属アレルギーより、根尖病巣や歯周炎が発症に関与する頻度が高いことが明らかになってきました。多くの症例で、根管治療や歯周治療が行われると症状が改善することが示されており、歯科疾患の有無の確認がきわめて重要視されています。同様に、病巣扁桃の摘出でも掌蹠膿疱症が改善することから、病巣感染が発症に重要であるとされています。

このように、掌蹠膿疱症は皮膚疾患ではありますが、歯科や耳鼻科との連携が必要な疾患といえます。特に近年、掌蹠膿疱症の病態の一部が解明され、生物学的製剤の開発が進んでいることから、皮膚科領域でもこの疾患に対する認識が広まり注目されています。そのため、掌蹠膿疱症を専門とする皮膚科医を中心として他科との連携で、掌蹠膿疱症の治療の充実に取り組む動きが始まっています。筆者もその一環として、皮膚科と歯科がどう連携するかなど課題の整理のための検討に加わっています。

その中で、皮膚科と歯科の連携をもっとも妨げている要因の一つは、用語の共通理解が不十分であることがわかってきました。たとえば、医師の間では歯肉炎、歯周炎、歯周病、歯周疾患という用語が混同されている場合があり、歯科医師との意思疎通を阻害しているようです。このため、掌蹠膿疱症の関連学会で歯科の用語について調整が行われています。

一方、歯科側では、掌蹠膿疱症が教育の対象となる機会が非常に限られており、近年では歯周病学の一部として取り上げられていますが、掌蹠膿疱症といえばパッチテストというイメージとなっており、病変に対する理解が不足しています。このようなさまざまな課題がありますが、掌蹠膿疱症を専門とする皮膚科医は、目の前の患者さんをどう治すかに対して歯科との連携を強く望んでいます。この期待に歯科からも応えないといけないのです。

最近、医師が歯科の重要性に気づき発信している機会が増えていると思いませんか? 筆者も医師との対話を通じて、歯科が歯や口の病気だけでなく全身の健康との関連でますます重要性を増していることを実感しています。同様の関心は病気のことだけでなく、災害時の歯科の役割にも向けられています。

歯科ができることを考え、歯科に歯科だけでない新たな世界観を包含することを時代はすでに求めているのではないでしょうか。本連載では、明日の治療に役立つ情報だけでなく、10年先の未来の歯科のあり方についても語りたいと思います。

著者槻木 恵一

1993年 神奈川歯科大学卒業 2007年~ 神奈川歯科大学病理学教授 2013年~ 神奈川歯科大学大学院歯学研究科長(~2023年3 月) 2014年~ 神奈川歯科大学副学長 2023年4 月~ 神奈川歯科大学図書館長 2022年 特定非営利活動法人日本唾液ケア研究会を創設、理事長就任 プレバイオテックスの一種であるフラクトオリゴ糖の摂取による唾液中IgAの分泌量増加とともに、そのメカニズムとして腸管内で短鎖脂肪酸が重要な役割を果たすことを示し、「腸‐唾液腺相関」を発見。唾液の機能性研究を進めている。
槻木 恵一

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