TOP>NEWS>2024年6月のピックアップ書籍

NEWS

2024年6月のピックアップ書籍

2024年6月のピックアップ書籍
2024年6月のピックアップ書籍

今後、的確な対応が求められる口腔機能障害治療のバイブル! 口腔機能障害のリハビリテーション臨床マニュアル 機能・態癖・力を考慮した口腔機能回復歯科治療

筒井照子/国賀就一郎・編著 咬合療法研究会/日本包括歯科臨床学会・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 24,200円(本体22,000円+税10%)・300頁 評 者 小出 馨 (日本歯科大学名誉教授) 本書は、多くの歯科医師が対応に苦慮し、安易には介入できない口腔機能障害の治療に、長年にわたり先頭に立って真正面から取り組んで来た筒井照子先生の貴重な実践的臨床指南書である。今後、日常臨床で歯科医師の誰も的確な対応を求められるのがこの口腔機能障害である。検査、診断と治療は、通常極めて複雑で難解、広範囲で深いといえる。タイムリーに上梓された本書を、この分野のバイブルとして座右の書にされることをお薦めする。 私は本稿を書くにあたり、22年前に拝読した筒井先生の前著『包括歯科臨床』(2003年)をはじめ、『態癖─力のコントロール』(2010年)、『包括歯科臨床Ⅱ 顎口腔機能の診断と回復」(2015年)、『スプリントに強くなろう!』(2017年、いずれもクインテッセンス出版刊)の5冊をじっくりと読み返してみた。そこには、40年以上前から歯科臨床で人を包括的にとらえ、患者がそれまでいくつもの医療機関を受診しても理解してもらえなかったさまざまな不定愁訴を傾聴し、自然体で根気よく患者に寄り添い続けて来られた証しが映し出されていた。 すでに前書には、機能的咬合系の力のバランス、態癖の診断、生活習慣の改善指導と行動変容、下顎位と全身、気道、咬合診断と偏心位ガイド、個体差、顎関節、口腔周囲筋、顔貌、頭位と体幹姿勢、足圧と重心動揺、筒井照子先生が考案されたティーアライナーの少数残存歯症例への応用、病態に応じたアプライアンス療法、これらの詳細な解説と治療手順が示されていた。今回の新刊には、前書の膨大な内容の要点がわかりやすく1冊に整理されており、臨床家の方々が治療困難な口腔機能障害患者に対処する際の、誠に有益な臨床マニュアルとなっている。構成は「Ⅰ。口腔機能を診る」「Ⅱ。顎口腔機能障害」「Ⅲ。多様な顎口腔機能障害への対応」から成っており、各章には項目ごとに重要事項の解説がなされ、続いて臨床で参考になる具体的な治療成功例へと移行する。 本書で展開されているのは、まさしく、患者の訴えや話す些細なことにまで注意深く傾聴するナラティブ・ベースド・メディスンと、さまざまな診査・検査に基づくエビデンス・ベースド・メディスンの双方を合体させた医療である。筒井先生により決まった手順に従い患者情報を集積し、悩み抜いたところからもつれた糸を少しずつ解いていき、現在の治療とメインテナンスの基本形がつくりあげられた。このシステムに従うことで、筒井先生だけでなく、共著者33名が基本的に同じ手順でさまざまな難症例に適正な対処ができ、口腔機能障害患者60症例以上、300ページに及ぶ症例集が完成したのである。読者の方々の使いやすさにも十分配慮されており、上梓に7年の歳月を要したこともうなずける。 このたび本書を通して、私もまた筒井先生の歯科医師としての強い使命感と覚悟、人としての誠意と優しさに触れることができて、本当にありがたく感じた次第である。

再評価の重要性からプロビジョナルレストレーションを考察! ザ・プロビジョナルレストレーションズⅡ 補綴治療の長期的成功を得るための基礎と革新

伊藤雄策/髙井基普・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 19,800円(本体18,000円+税10%)・264頁 評 者 本多正明 (大阪府・本多歯科医院) 本書は、伊藤雄策先生と伊藤先生の教え子である髙井基普先生によって、2006年に出版された『ザ・プロビジョナルレストレーションズ』の第二弾として上梓された。伊藤先生が恩師であるDr. Raymond Kim(U.S.C.)から学ばれた、包括的歯科治療における再評価の重要性が、プロビジョナルレストレーションを通して整理されている。本書は、これから歯科臨床を担っていく先生方にとって、臨床実践学のバイブルとなるであろう。今日まで評者が知る限り、プロビジョナルレストレーションが、これほど広範囲にわたってまとめられた成書はないと思う。 序章では、Dr. Kimの臨床の足跡を中心にプロビジョナルレストレーションの起源が述べられ、その後は6つの章に詳細かつ分かりやすくまとめられている。第1章では概念が、第2章ではその役割について、歯周治療の側面、咬合・補綴治療の側面、支台歯形成デザインの変遷から述べられている。第3章では、オーバーレイプロビジョナルレストレーションの目的と臨床における手順を長期症例から考察し、診断用ワックスアップから前歯のカップリングと咬合挙上の診断を行っている。第4章で製作法、第5章ではデジタルデンティストリーでの役割を、前歯部の審美性、および歯の位置と形態から整理している。最後の第6章に、伊藤先生のインプラント治療におけるプロビジョナルレストレーションへの強い想いが込められており、これだけの成書になっているのだろう。 ここでは、評者から読者の先生方に、テンポラリーレストレーションとプロビジョナルレストレーションについて伝えておきたいことがある。評者は、1974年にDr. Kimからテンポラリーという言葉を使うべきではないと教えられた。当時のテンポラリーは、既製のアルミキャップとレジンキャップを、補綴歯1本でも数本でも口腔内で直接調整していたので、支台歯との適合が悪く、歯肉の炎症やう蝕になりやすい環境でもあった。また、当時はバンド冠や無縫冠が製作しやすい支台歯形成になっていた。伊藤先生らは本書の中で、テンポラリーレストレーションとプロビジョナルレストレーションを同じ意味で使われており、それをプライマリー・プロビジョナルレストレーションと表している。つまり、プロビジョナルレストレーションは、プライマリー・プロビジョナルレストレーション、セカンダリー・プロビジョナルレストレーション、ファイナル・プロビジョナルレストレーションとなっていることを知っておいていただきたい。 本書の内容は、現在のQOLを大切にする歯科臨床の現場において、永遠に継承されていくであろう。臨床に向かう誠実で良心的な姿勢、患者さんへの熱い想いをもっている伊藤先生の精神所以である。髙井先生には、その精神を繋いでいってほしい。伊藤雄策先生と、兄弟のように一緒にここまで歩んでこられたことを誇りに思っている。

DXに関する巻頭特集を含め、インプラント業界の“今”を知る一冊 別冊ザ・クインテッセンス インプラントYEARBOOK 2024 インプラント治療におけるDX ─臨床応用の現状・課題・近未来展望─

公益社団法人日本口腔インプラント学会・監修 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 7,700円(本体7,000円+税10%)・320頁 評 者 栗田 浩 (信州大学医学部歯科口腔外科学教室) 「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という概念は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された。彼は、DXとは「ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させることである」と述べている。現在、DXという概念は急速に社会に拡がっている。しかし、DXとは一体何なのか? ぼんやりと意味は理解しているつもりであるが、DXを正確に説明できる人は少ないであろう。   2018年、経済産業省は「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を発表している。それによると、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されている。すなわちDXとは、単に業務プロセスをデジタル化・IT化することではなく、データおよびデジタル技術を活用しビジネスモデルや企業文化などを根本から変革していくことである。 デジタル化とDXは似て非なる概念である。歯科医療において考えると、デジタル化は、口腔内写真やエックス線写真などがアナログ画像からデジタル画像へ置き換わったことであろう。また、コミュニケーションツールは、電話やFAXからインターネットに変わった。デジタル化によって業務の効率性を高め生産性をアップさせることができた。一方DXは、データとデジタル技術を使って歯科医療そのものを変革したり生み出したりすることである。デジタル技術を活用して、歯科医療そのものを変革するという考えかたが重要である。意識したいのは、「業務の改革」である。歯科医療はDXによって大きく変わろうとしている。 長々とDXについて書いてしまったが、さて書評である。本書の巻頭特集では、インプラント治療におけるDXについてわかりやすく解説されている。特に、インプラント治療における臨床応用の現状を説明しているだけではなく、DXの課題や近未来展望も解説されており、DXに取り組もうとしている方々に大変役立つ内容となっている。重要なキーワードとして、「医療安全の強化」、「可視化・共有化」、「従来法とデジタルワークフローのハイブリッド」が挙げられているので、ぜひ巻頭特集を読んで理解を深めてほしい。 また本書はインプラント関連企業23社の協力を得て、各社が扱う製品の紹介欄と、それらを著名な臨床家たちが実際に用いた臨床リポートからなる「Product Information & Clinical Report」が掲載されている。インプラントシステムや器材の最新知識を得るために役立つ一冊となっている。

トップランナー達の経験や症例から、気づきが得られる貴重なテキスト 別冊ザ・クインテッセンス マイクロデンティストリー YEARBOOK 2024 多分野におけるマイクロスコープ活用法~歯内療法、コンポジットレジン修復から根面被覆術、歯間乳頭再建術まで~

日本顕微鏡歯科学会・編 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 6,380円(本体5,800円+税10%)・152頁 評 者 山口文誉 (神奈川県・山口歯科医院) 日本顕微鏡歯科学会(JAMD)が2004年に設立され、会員数の増加とともにマイクロスコープを導入される先生方が増加傾向にある。また、患者にとっても、“マイクロスコープを用いた精密歯科治療”の認知度は年々あがってきている。 同時に、マイクロスコープの臨床への応用も多岐にわたってきている。評者がマイクロスコープを臨床に導入してから十数年、現在は低侵襲歯周外科治療をライフワークとして日々精進しているが、マイクロスコープとの出会いによって明らかに臨床の精度はあがり、現在ではなくてはならないツールとなっている。 本別冊では、多分野にわたるマイクロスコープの活用法から次のステージへの道が示されており、4つのPARTから構成されている。 PART1では、「New Topics」として「大学教育における歯科用顕微鏡の活用と現状」と題し、本別冊編集委員長である鈴木真名先生、東京医科歯科大学の興地隆史先生、日本大学松戸歯学部の辻本恭久先生、日本歯科大学の北村和夫先生の4名のマイクロスコープのトップランナーの先生方で行われた対談が掲載されている。現在は、“マイクロネイティブ”と呼ばれるほど学生教育とマイクロスコープは近しいものとなっている。そうした時代を前提としながら、大学教育における現状、役割、展望が語られており、感染予防やデジタルデンティストリーという現在の潮流を踏まえた、たいへん興味深い内容となっている。また、2023年に開催されたJAMD第19回学術大会において「大会長賞受賞記念」、「最優秀ポスター受賞記念」で講演された内容が再掲されている。 PART2では、「マイクロスコープ Up-to-Date」と題して、歯内療法、歯周形成外科分野の“マスター達の臨床”の症例が供覧されている。これからマイクロスコープを始めようとしている、もしくは始めたばかりで目標とする姿がみえていない若手の先生にとっては、この症例に触れることができるのは僥倖といえる。さらに、JAMD学会誌である「THE INTERNATIONAL JOURNAL OF MICRODENTISTRY」に掲載された4本の論文を全訳して掲載されている。こちらも非常に興味深い内容となっており、知見を深める良い機会となることであろう。 PART3では、ケースプレゼンテーションとしてすばらしい6症例が提示されている。動画で症例を見ることもでき、新たな気づき、発見にあふれ、必ずや先生方の臨床の助けになることだろう。 PART4「Products Information&Case Presentation」では、最新の製品情報とその製品を用いたすばらしい症例が示されており、マイクロスコープのアップデートには必須の情報となっている。 このように、本別冊は非常に濃い内容であり、マイクロスコープのトップランナー達の経験や症例からいろいろな気づきが得られる、貴重なテキストといえる。

tags

関連記事