ニュースや新聞記事などで人口減少、過疎化、超高齢社会といった言葉を聞いて久しいと思います。そのような変化というのは急に起こるものではなく、ジワジワと変化が起こるものであり、その変化は地方全般に余すところなく起こっているのが現状です。 私のルーツは宮城県本吉郡南三陸町(旧 志津川町)であり、私が東北大学に赴任した2012年以来、定期的に応援歯科医師として南三陸病院(旧 志津川病院)に赴き、現地の患者さんへの診療と常勤歯科医師の先生と交流を続けてきました。 皆さんもご存じのとおり、東北の三陸地域は2011年3月に発生した東日本大震災の津波による甚大な被害を受けました。南三陸町も市街地の多くが倒壊し、多くの住民が他の地域への避難や移住を余儀なくされ、人口減少が急速に進んだ地域でもあります(図1)。 図1 被害を受けた南三陸町「旧防災対策庁舎」。現在は震災遺構として保存されている。 そのような地域での診療の中には、口腔がんや難治性疾患により、地域医療では担えない治療を大学病院などの高次医療機関へ紹介することがありました。メインとなる治療が終われば、患者さんは地域に戻ってくるものの、治療後の定期的な経過観察は約100kmも離れた仙台市まで通院することを必要とし、東北の冬の時期であれば路面凍結や雪による影響で、時には危険をはらんだ移動となります。 そして住民のほとんどが高齢者であり、高齢の患者さん本人が運転することもあれば、そのご家族の方が仕事を休んで通院に付き添う姿を見ていました。そこまで移動してこられた患者さんに対する大学での診療といえば、担当医の診察と各種検査であり、時には短時間で終わることもあるため、どこか申し訳なさと診療体制の改善ができないものかという葛藤がありました。 そのようななかで発生したのが2019年の新型コロナウイルス感染症の流行です。住民の移動は制限され、大学病院での診療にも大きな影響が起こり、さらに地方特有であったものの一つには都市との往来の制限です。過疎地域のような小さな町では、感染症拡大を懸念することで、大都市への往来は地域の中でも嫌がられ、高次医療機関との通院にもさまざまな影響が出ていました。 そのような状況で注目されたのがオンライン診療や遠隔診療です。医科ではリモート環境での診療への取り組みが紹介されていたものの、歯科では大部分の診療が直接口腔内に処置を行う診療のため、わずかな領域でのみ適応されていました。医科でのオンライン診療の情報が入るたびに、口腔外科診療もできる部分があると感じていて、どこかでできないものかと思うようになっていた頃、院内の会議でてんかん科の中里信和教授による「遠隔連携診療」を知りました1,2。それは、遠隔地にいる医師と大学病院にいる医師がオンラインを通じて一緒に患者さんを診るというもので、この体制なら口腔外科でもできるのではないかと直感的に思ったのでした。 参考文献 1.成澤あゆみ, 成田徳雄, 冨永悌二, 岩崎真樹, 神一敬, 中里信和.テレビ会議システムによる遠隔てんかん外来. 脳外誌.2014;23(2):136-41. 2.柿坂庸介, 大沢伸一郎, 成田徳雄, 神一敬, 冨永悌二, 中里信和.てんかん診療における遠隔外来と包括的入院精査の相補的利用. 脳神経外科速報.2020;30(11):1254-61.
著者山内健介
東北大学大学院歯学研究科 顎顔面口腔再建外科学分野 教授
経歴
- 2001年3月 東北大学歯学部卒業
- 2001年4月 九州歯科大学口腔外科学第二講座研究生
- 2001年11月 香川県立中央病院歯科口腔外科嘱託医
- 2003年4月 九州歯科大学口腔外科学第二講座助手
- 2011年4月 オランダ・マーストリヒト大学頭蓋顎顔面口腔外科講座留学
- 2012年9月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野助教
- 2013年4月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野講師
東北大学病院 歯科インプラントセンター副センター長 (兼任) - 2017年3月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野准教授
- 2022年10月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面口腔再建外科学分野教授
- 現在に至る
歯学博士
日本口腔外科学会専門医・指導医
日本口腔インプラント学会専門医・指導医
日本顎顔面インプラント学会指導医
日本顎変形症学会認定医・指導医
日本がん治療認定医機構認定医(歯科口腔外科)