遠隔連携診療について具体的に進めるうえでは、既に実績のある気仙沼市立病院との実施が現実的でした。 というのも、「病院」対「病院」で行う場合は、ドクター間での合意では進めることができず、互いの病院内での了承や事務の協力なくして進められないからです。前回述べたとおり、気仙沼は仙台から120kmも離れていることから、市民の負担軽減となるこの取り組みには理解が得られ、まだ歯科では保険収載されていない診療体系でもあり、まずは大学での臨床研究として立ち上げるのが第一歩でした。 すぐに倫理申請準備にかかり、機器の準備を始めましたが、やはり口の中の情報をいかに共有するのかが問題でした。通常、PCに付属するカメラは、互いの診療室内の環境をシェアするには十分であり、医療面接のような診察は直ぐに行えること確認できたものの、その状況で患者さんに口を開けてもらって診察を行うというレベルにはまったく不十分でした(図1)。 図1 PC付属のカメラでは口腔内の前歯部は明瞭だが、後方は暗く視認しにくい状態である。 次に試みたのがタブレット端末であり、付属するカメラを口元に持っていき、口腔内を撮影して共有したところ、歯や唇側の歯肉は驚くほど鮮明に視認することができ、最近のスマートフォンやタブレット端末のカメラ機能の高性能さを再認識しました。これは良いと思って、さまざまな部位を撮影してみるとすぐに問題点が浮かび上がりました。 じつは、このような機器に付属するカメラはオート機能が基本であり、マニュアル操作が難しく、近接しすぎた場合のピントの問題、そして明るさの調整も不十分であることがわかったのです。 特に口腔内という暗い環境では、内部を明るく撮影しようとすれば、自動的にISO感度が上がることで内部の映像が粗くなってしまう現象が発生し、唇などの体表の明るい部位が入ってしまうと、そちらにピントも光量の調整も引っ張られることで、口腔内が暗くて視認できないということが起こりました。 もちろん、それを解決しようとして、端末を口のすぐ前まで持っていくこと自体が診療としての違和感をもたずにはいられませんでした。今回の遠隔連携診療の対象は口腔がんや難治性口内炎、そして薬剤関連顎骨壊死の経過観察となります。その場合に診察する部位としては口腔内粘膜や歯肉が主であり、なおかつ、表面性状の形態と色調が十分確認できる必要があります。 ただ見えるのではなく、それらの状況を遠隔地からでも確認できることが必須であると考えれば、やはり口腔内カメラを別に用意して臨むことが必要であり、そこで使用したのが医療機器としての認証を受けているペンビュアーでした(図2)。 図2 ペンビュアーを用いて口腔内粘膜を撮影しながら遠隔連携診療を行っている。
著者山内健介
東北大学大学院歯学研究科 顎顔面口腔再建外科学分野 教授
経歴
- 2001年3月 東北大学歯学部卒業
- 2001年4月 九州歯科大学口腔外科学第二講座研究生
- 2001年11月 香川県立中央病院歯科口腔外科嘱託医
- 2003年4月 九州歯科大学口腔外科学第二講座助手
- 2011年4月 オランダ・マーストリヒト大学頭蓋顎顔面口腔外科講座留学
- 2012年9月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野助教
- 2013年4月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野講師
東北大学病院 歯科インプラントセンター副センター長 (兼任) - 2017年3月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野准教授
- 2022年10月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面口腔再建外科学分野教授
- 現在に至る
歯学博士
日本口腔外科学会専門医・指導医
日本口腔インプラント学会専門医・指導医
日本顎顔面インプラント学会指導医
日本顎変形症学会認定医・指導医
日本がん治療認定医機構認定医(歯科口腔外科)