TOP>コラム>「人口減少・過疎化が進行する地域社会に対する歯科遠隔診療への挑戦」 第5回:歯科の遠隔連携診療、ICT活用のモデル事業へ

コラム

「人口減少・過疎化が進行する地域社会に対する歯科遠隔診療への挑戦」 第5回:歯科の遠隔連携診療、ICT活用のモデル事業へ

「人口減少・過疎化が進行する地域社会に対する歯科遠隔診療への挑戦」 第5回:歯科の遠隔連携診療、ICT活用のモデル事業へ
「人口減少・過疎化が進行する地域社会に対する歯科遠隔診療への挑戦」 第5回:歯科の遠隔連携診療、ICT活用のモデル事業へ
前回ご紹介させていただきましたとおり、初回の診察によって得られた課題を少しずつ解決しながら、気仙沼市立病院と東北大学病院との遠隔連携診療は月に1~2回のペースで続いていきました。そのように継続して進むことで患者さん側からの意見も届くようになり、何しろ診察のための移動が大幅に削減されることの効果が著しいことがよくわかりました。

多くの患者さんは約120kmの移動を車で利用するか、または高速バスを利用するため、片道約2~2.5時間はかかります。診察を含めれば丸一日かかるところを、遠隔連携診療では約1/4の30分程度の拘束時間で済むこと、そして移動にかかる金銭的負担も軽減できることでとても喜ばれました。

また、高齢者の患者さんの場合、一人では移動できず、子どもや親戚などに付き添いと運転をお願いして通院することから、そのような周囲の人たちへの負担も軽減できます。これは過疎化が進む地域では切実な問題で、将来的には現役世代といわれる働く世代が今後ますます減少する地域では、そのような担い手となる人たちをいかに活用するかが重要であり、高齢者の通院などに人手を取られるのは好ましくありません。

個人的には自動運転、ロボット技術、ドローンなどという先進技術は過疎化していく地域でこそ早く運用される必要があると考えています。今回の遠隔連携診療についても、診療を行っていくなかで、さまざまなサービスへのアクセスが良い大都市ではなく、このような地方都市でこそ早く適応されるべきということを痛感しました。

前述したような遠隔連携診療の効果を実感している際に、ある学会の学術大会で厚生労働省の歯科担当者にご挨拶する機会がありました。その際に気仙沼市立病院との取り組みや遠隔連携診療の効果を説明したところ、たいへん興味をもっていただき、後日、厚生労働省の歯科担当部署に対して説明する機会をいただけることになりました。

そして2022年10月に東京・霞ヶ関の厚生労働省まで赴き、われわれが行っている遠隔連携診療の概要を説明し、さまざまな意見交換をさせていただきました。まだ歯科での遠隔診療というのは手探りの状態であるなか、実際に診療を行っていることに興味をもっていただけた印象がありました。

その後も月に1、2回の頻度で説明や意見交換を行っていると、厚生労働省の担当者から「ICTを活用した医科歯科連携等の検証事業」というモデル事業と「ICTを活用した歯科診療等に関する検討会」に参加しないかという打診を受け、われわれの取り組みが評価されていることを実感しました(図1、2)。実際にこのようなプロジェクトに参加してみると、われわれ以外にも摂食嚥下訓練や訪問診療などで遠隔医療に取り組んでいる他のグループの活動を知ることができ、歯科と遠隔診療の将来的な可能性を感じるものでした。


図1 われわれが取り組んでいる遠隔診療の概要。「第3回 ICTを活用した歯科診療等に関する検討会」での公開資料(構成員提出資料2)から抜粋。


図2 口腔がん治療における遠隔診療での取り組み。「第3回 ICTを活用した歯科診療等に関する検討会」での公開資料(構成員提出資料2)から抜粋。

著者山内健介

東北大学大学院歯学研究科 顎顔面口腔再建外科学分野 教授

経歴
  • 2001年3月 東北大学歯学部卒業
  • 2001年4月 九州歯科大学口腔外科学第二講座研究生
  • 2001年11月 香川県立中央病院歯科口腔外科嘱託医
  • 2003年4月 九州歯科大学口腔外科学第二講座助手
  • 2011年4月 オランダ・マーストリヒト大学頭蓋顎顔面口腔外科講座留学
  • 2012年9月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野助教
  • 2013年4月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野講師
          東北大学病院 歯科インプラントセンター副センター長 (兼任)
  • 2017年3月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野准教授
  • 2022年10月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面口腔再建外科学分野教授
  • 現在に至る

歯学博士
日本口腔外科学会専門医・指導医
日本口腔インプラント学会専門医・指導医
日本顎顔面インプラント学会指導医
日本顎変形症学会認定医・指導医
日本がん治療認定医機構認定医(歯科口腔外科)

山内健介

tags

関連記事