中里教授によるてんかんに関する遠隔連携診療では、気仙沼市立病院側に患者さんと家族、そして現地の主治医が映る状態で、モニターを介して診療が進みました。非常に入念な医療面接を行いつつも、時折、現地の主治医に医学的な見解や検査結果を確認していく形式であり、これがすなわち遠隔診療としてのDoctor to Patient with Doctor(D to P with D)というものです(図1)。モニター映像を介した患者さんの表情、声の聞き取りは十分であり、対面で行うものとほとんど差はないと感じるとともに、現地の主治医とともに診察を行うことで、より効率的かつ精度の高い診療ができているように思いました。 図1 ICTを活用して診療を行うDoctor to Patient with Doctor(D to P with D)の概略(厚生労働省第2回ICTを活用した歯科診療等に関する検討会より)。 現にこの患者さんは、小児期にあった痙攣をきっかけに「てんかん」という診断がついたことで長年悩んでおり、診療中もその不安が感じ取れる言動と表情でした。しかし、中里教授から「あなたはてんかんではないですよ」という一言で、親子が向かい合い、歓喜と戸惑いの表情でその後の説明を食い入るように聞き、最後は満面の笑顔で「ありがとうございました!」と言って遠隔診療が終了したことは本当に印象的でした。疾患の特性もあるとはいえ、120kmという距離を感じさせずに、最終的に長年の悩みを解決する診療を目の当たりにして、同じ医療従事者としてうらやましくも思うとともに、自身がかかわる診療に応用できないものかと考えました(図2)。そして、このてんかんという疾患に制限はあるとはいえ、既に医科での保険診療に「遠隔連携診療料」という項目ができていることにも将来的な可能性を感じたのでした。 図2 東北大学病院と気仙沼市立病院は120kmの距離がある。医科分野の一部の疾患では、その距離の課題を遠隔診療が解決している。 前述のとおり、歯科診療の多くが直接口に手を入れて行う診療、かつ口腔内という狭小空間で行われる環境から、う蝕や歯周病といった大部分の歯科診療を遠隔診療の対象とするのは困難です。また、実際に行うとすれば精細な手指の動きを再現しなければなりません。ロボット手術と同等の精度を、高速通信機器を介して行う環境が必要であることから、まだまだ現実的ではないと判断しました。 一方で、われわれが行う口腔外科診療は、手術自体はもちろん歯科診療と同じく手を動かして行う処置ではあるものの、手術後の経過観察などは、目視による診察と患部などを触って行う触診がメインであり、あとは医療面接と各種検査(血液、画像など)が加わる程度です。そう考えれば、触診以外は遠隔診療でも可能であり、その触診の部分を現地の歯科医師に担ってもらえれば歯科でのD to P with D形式での遠隔診療が可能であり、地域医療機関との連携によるものですので、すなわち遠隔連携診療が成立する公算が立ちました。
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著者山内健介
東北大学大学院歯学研究科 顎顔面口腔再建外科学分野 教授
経歴
- 2001年3月 東北大学歯学部卒業
- 2001年4月 九州歯科大学口腔外科学第二講座研究生
- 2001年11月 香川県立中央病院歯科口腔外科嘱託医
- 2003年4月 九州歯科大学口腔外科学第二講座助手
- 2011年4月 オランダ・マーストリヒト大学頭蓋顎顔面口腔外科講座留学
- 2012年9月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野助教
- 2013年4月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野講師
東北大学病院 歯科インプラントセンター副センター長 (兼任) - 2017年3月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面・口腔外科学分野准教授
- 2022年10月 東北大学大学院歯学研究科 顎顔面口腔再建外科学分野教授
- 現在に至る
歯学博士
日本口腔外科学会専門医・指導医
日本口腔インプラント学会専門医・指導医
日本顎顔面インプラント学会指導医
日本顎変形症学会認定医・指導医
日本がん治療認定医機構認定医(歯科口腔外科)