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地域とともに歩む高齢者・障がい者への歯科治療 第1回:地方都市における訪問歯科診療の普及を目指して

地域とともに歩む高齢者・障がい者への歯科治療  第1回:地方都市における訪問歯科診療の普及を目指して
地域とともに歩む高齢者・障がい者への歯科治療 第1回:地方都市における訪問歯科診療の普及を目指して
筆者の住んでいる徳島県および徳島市は全国でも比較的高齢化が進んでいる地域です。全国平均の高齢者(65歳以上)割合は約29%ですが、徳島県は約35%で、全国で3番目に高い高齢者割合となっています。また、徳島市は約32%で、県庁所在地としては6番目に高い高齢者割合です。

しかし、とりわけ特殊な地域にかぎらず、多くの地方都市は遠からず同じような高齢者割合となっていくと考えられます。全国でもいち早く高齢化率上昇という問題に直面している徳島県・市では、国内でもモデルケースとなるような高齢者を中心とする訪問歯科診療体制を模索する役割もあると感じています。

高齢化が進むなかで、高齢者の健康管理はいっそう重要性を増しており、その中でも口腔ケアは高齢者の生活の質を大きく左右する重要な要素です。高齢者の中には身体的な制約や交通手段の問題から、定期的な歯科受診が難しい人も多く存在します(図1)。

図1 定期的な歯科受診が難しい患者さんに歯科診療を行う筆者。

訪問歯科診療では、患者さんの自宅や介護施設を訪問し、必要な歯科治療や口腔ケアを提供します。単に歯科治療を提供するだけではなく、口腔内の状態を継続的にモニタリングすることで、早期の問題を発見し迅速に対応することが可能となります。それ以上に、訪問時に他の健康問題や生活環境の問題を発見することもでき、包括的なケアの提供や高齢者の生活の質の向上が期待できる側面もあるかと考えられます。

もちろん、訪問歯科診療の普及にはいくつかの課題が存在します。まず、訪問歯科診療を提供する歯科医師や歯科衛生士の確保です。徳島県のような地方では、歯科医療従事者が不足しており、人材確保も課題となります。また、訪問診療に対応できる設備や資材の整備も重要です。これには、移動用の歯科ユニットや滅菌器具、ポータブルエックス線装置などが含まれます。さらに、訪問歯科診療の費用負担も問題となります。現在、訪問歯科診療の多くは保険適用となっていますが、すべてのサービスがカバーされているわけではありません。高齢者やその家族にとって、経済的な負担が大きい場合もあります。このため、行政や保険制度のサポートが期待される面もあると考えられます。

高齢化を早い段階で迎える地方都市において、訪問歯科診療の体制を整備することは重要な取り組みです。地域の医療機関や行政、介護施設が連携し、訪問歯科診療を推進するための具体的な計画を立てることが必要です。たとえば、地域の歯科医師会と協力して訪問診療に関する研修プログラムを実施し、新たな訪問歯科医師を育成することや、訪問診療に必要な設備の導入支援を行うことなども検討課題として考えられます。

また、地域住民への啓発活動が不可欠です。訪問歯科診療のメリットや利用方法について広く周知し、高齢者やその家族が積極的に利用できる環境を整えることが求められます。具体的には、地域のコミュニティセンターや介護施設での説明会の開催や、広報誌やインターネットを活用した情報提供などが挙げられます。

訪問歯科診療の普及は、高齢者の健康維持だけでなく、地域全体の医療費削減や介護負担の軽減にも寄与する可能性があります。高齢化が進む日本において、訪問歯科診療の体制を整えることは、持続可能な社会を実現するための重要なステップとなるでしょう。訪問歯科診療は、これからの超高齢社会において欠かせない医療サービスです。地方都市が率先してこの取り組みを進めることで、高齢者が安心して暮らせる地域づくりが進むことを願っています。

著者高野 栄之

喜多デンタルクリニック、徳島赤十字ひのみね医療療育センター歯科

略歴
  • 2002年 徳島大学歯学部卒業
  • 同年 徳島大学歯学部第一口腔外科入局
  • 2010年 口腔内科学分野
  • 2015年 口腔科学教育部博士課程修了
  • 2016年 徳島大学病院口腔管理センター副センター長
  • 2024年 喜多デンタルクリニック、徳島赤十字ひのみね医療療育センター歯科
高野 栄之

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