在宅障がい者には摂食嚥下の問題が頻繁に見られますが、言語聴覚士(ST)の数も限られている(全国では約3万人、徳島県は約130人)ため、必要な訓練やケアを十分に受けられないケースが少なくありません。 歯科医師と歯科衛生士にとっては、嚥下についての治療やリハビリはハードルが高いかもしれません。治療のためには検査・診断が必須となり、水飲みテストや反復唾液嚥下テスト(RSST)、頸部聴診法などは可能ですが、嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)などの検査を独自で行うのは困難だからです。しかし、摂食嚥下の5期(先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期)のうち準備期と口腔期については歯科医師・歯科衛生士でも十分に対応は可能と考えます。 われわれが障がい者施設で行っている嚥下外来では、小児科医師・歯科医師(私)・摂食嚥下障害看護認定看護師・歯科衛生士・言語聴覚士・管理栄養士のチームで診療を行っています(図1)。高齢者は対象外で、初診時で15歳以下(中学3年生以下)のみを対象としていますが、嚥下検査まで必要な症例はなく、以下の8つの項目でほとんどの症例に対応できていました。 図1 言語聴覚士(ST)との摂食嚥下指導。 ①問診や、身長・体重などからの成長段階の把握(エネルギーの過不足チェック、標準偏差からの乖離など) ②普段食事しているものを持参してもらっての食事状態観察 ③ミンチ、ミキサー、粥状、スティック状など、アップできそうな食形態のものを準備して摂取可能かのチェック ④口唇閉鎖の状態確認と訓練(口唇閉鎖力測定、口唇の他動運動訓練、ブローイング訓練などを含む) ⑤舌運動のチェック(食塊が形成できているか、左右運動ができているか) ⑥咀嚼状態のチェック(偏咀嚼の有無、舌すりつぶし、丸飲みなど) ⑦ポジショニング ⑧一口量の調整 摂食嚥下についても予防が大事だと考えます。経口摂取できているからといって、スプーンで流し込むような食事を続けていると、だんだん頭部が後屈して流し込みに適した姿勢に変化していきます。それにともない開口状態が普通になり、前歯は唇側傾斜して噛み切れなくなり、常時開口により口腔内は乾燥、容易に誤嚥性肺炎を引き起こす状態になっていくというような悪循環が起こってきます。 摂食嚥下指導は、食べ物を口に入れて飲み込む過程に問題がある人々に対して重要なサポートを提供するもので、特に障がい者においては重要となります。歯科医師が関与することで、口腔内の健康状態や噛む力の調整を行い、摂食嚥下の改善に寄与します。適切な指導は、栄養不足や誤嚥による肺炎を防ぎ、生活の質を向上させるため、歯科医師の専門知識を活かし、チームで障がい者の健康と安全を守ることが期待されます。
著者高野 栄之
喜多デンタルクリニック、徳島赤十字ひのみね医療療育センター歯科
略歴
- 2002年 徳島大学歯学部卒業
- 同年 徳島大学歯学部第一口腔外科入局
- 2010年 口腔内科学分野
- 2015年 口腔科学教育部博士課程修了
- 2016年 徳島大学病院口腔管理センター副センター長
- 2024年 喜多デンタルクリニック、徳島赤十字ひのみね医療療育センター歯科