認知症予防では、運動や社会参加の促進が重視されますが、忘れてはならないのが「歯の本数」と「噛む力」です。成人は28本(親知らずを含めれば32本)が基本ですが、高齢者では歯の喪失が進むほど認知症リスクが高まることが、多くの研究で明らかとなっています。 2024年歯科疾患実態調査では、8020の達成者率が前回(2022年)調査の結果の51.6%を大幅に上回り、ついに61.5%に到達しました(図1)。これは国民全体の口腔環境が大きく向上している証拠であり、健康寿命の延伸にも直結する重要な指標です。しかし一方で、「歯の本数が少ない」「噛める食品が限られてきた」といった状態の方は、認知症の前段階である“プレフレイル”に陥っている可能性があります。図1 8020達成者率の推移。 噛む刺激は脳の前頭前野を活性化させ、思考・計画・記憶などの高次機能を維持するうえで不可欠です。特に高齢者ではその効果が顕著で、ガム咀嚼による脳血流増加が科学的に示されています。また、ペンフィールドマップが示すように、口や手は頭頂葉における体性感覚野・運動野の広い領域を占めており、口腔刺激は脳の健康維持に大きく寄与します。 では、薬剤師は日常業務の中でどのようなサインに気づけるのでしょうか。薬局には地域の歯科医院と同様に、「噛みにくい」「食事に時間がかかる」「最近柔らかいものばかり食べている」といった、生活の中の小さな変化を抱えた方が多く来局されると思います。これらはオーラルフレイルの代表的なサインであり、放置すると〈栄養低下 → 筋力低下 → 認知症リスク増加〉という負の連鎖へとつながります。生活背景をていねいに聴取している薬剤師だからこそ、早期に気づけるポイントといえるでしょう。 さらに気づきやすいのが、“口腔乾燥”の訴えです。多くの薬剤(抗コリン薬、抗うつ薬、降圧薬など)が唾液分泌を低下させ、食べにくさや飲み込みにくさを増悪させます。口腔乾燥は口臭やう蝕の増加につながるだけでなく、嚥下機能の低下や誤嚥性肺炎も引き起こす要因の一つで見逃せない初期症状です。 地域の薬局で始められる第一歩は、「変化に気づき、歯科受診につなげること」です。特に「噛めない」「飲み込みにくい」「口が乾く」といった訴えは、歯科が早期に介入することで改善する場合が多くあります。薬剤師による生活背景の聴取を生かしたアドバイス、そして歯科との連携強化により、適切な医療につながり、地域全体の認知症予防に大きく寄与することができます。 次回は、切っても切れない関係にある「飲み込みにくさ」と「服薬」について解説します。
TOP>コラム>薬剤師×歯科医師がつくる「地域で支えるお口の健康」 第3回:認知症と口腔機能——薬剤師が気づける“初期サイン”とは
著者後藤 大
ごとう歯科医院院長(宮崎県宮崎市)
略歴
- 神奈川歯科大学卒業
- 日本歯科医師会災害時対策・警察歯科総合検討会議委員
- 宮崎県歯科医師会 警察歯科及び災害時対策会議副委員長
- 宮崎市郡歯科医師会地域歯科担当理事
- 日本災害時公衆衛生歯科研究会(DPHD)世話人
- 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士
災害時の歯科医療支援体制や警察歯科活動の整備に携わるとともに、地域における口腔保健・嚥下リハの連携強化をつうじて、平時・有事をとおした歯科の社会的機能向上に取り組んでいる。













