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薬剤師×歯科医師がつくる「地域で支えるお口の健康」 第1回:超高齢社会に求められる新しい連携モデル

薬剤師×歯科医師がつくる「地域で支えるお口の健康」 第1回:超高齢社会に求められる新しい連携モデル
薬剤師×歯科医師がつくる「地域で支えるお口の健康」 第1回:超高齢社会に求められる新しい連携モデル
超高齢社会を迎えた日本は、まもなく高齢化率30%を超え、健康寿命の延伸が国全体の最重要課題となっています。

地域住民の健康を支える現場として、「薬局」と「歯科診療所」はともに地域に密着したヘルスケア拠点でありながら、これまで十分な連携が図られてきたとはいえません。しかし近年、両者が専門性を生かして協働することで、国民の生涯をつうじた健康維持に大きな効果をもたらすことが明らかになりつつあります。

薬局は、地域住民の健康をもっとも近くで見守る「健康のハブ」であり、日々の服薬支援や生活習慣の相談を受ける「一次予防の最前線」の役割があります。一方、歯科は、口腔機能の維持、感染対策、咀嚼・嚥下機能の改善などを専門とする「口腔の専門拠点」です。両者がお互いの専門性を理解し、顔の見える連携を構築することは、地域包括ケアの基盤を支えるうえでもっとも効果的かつ実践的なアプローチと位置づけられています。

また2024年度診療報酬改定では、歯科診療における「診療情報等連携共有料」の連携先に保険薬局が追加され、歯科医師から薬局への服薬情報照会が評価の対象となり、保険制度上でも追い風が吹いています。つまり、薬剤師が日頃管理する「服薬情報」が、歯科医療の安全性にも直結することが制度的に認められたのです。

特に高齢者では多剤併用が一般化し、利尿薬・レニンアンジオテンシン系阻害薬・NSAIDsのいわゆる「トリプルワーミー」(多剤併用時に急性腎障害リスクが上昇する組み合わせ)のように、歯科での処方が急性腎障害の引き金となるケースもあります。今後、薬剤師が処方の安全性をチェックする「医薬分業の価値」は、歯科領域でもますます重要になるでしょう。

また、薬局が担うもう1つの役割として、薬剤による口腔内副作用の早期発見があります。口腔乾燥、嚥下機能低下、味覚障害、カンジダ症、歯肉増殖、顎骨壊死など、多くの薬剤が口腔機能に影響を与えます。日常的に患者さんと接する薬剤師だからこそ、口腔の変化をいち早く察知し、歯科受診につなげることができます。この“気づき”が未病段階での介入となり、重症化予防に寄与する点は非常に大きな意義があります。

さらに、栃木県の薬剤師会と歯科医師会が共同で作成した「口腔ケア用品の継続購入者に対する歯科受診勧奨ガイドライン」は、薬局のカウンターで口腔ケア用品を繰り返し購入する人が、う蝕・歯周病・口腔乾燥など、何らかのお口の悩みを抱えている可能性が高いという、現場の実感をガイドラインとして体系化した好事例です。

今後、「お口の健康を地域で支える」という新たな多職種協働が、明日のどこかの患者さんの笑顔につながることを願っています。
 
次回は、「世界標準の歯磨きについて薬剤師に伝えたいポイント」をテーマに、FDI(世界歯科連盟)のガイドラインを交えて解説します。

参考資料
1.山浦克典.GPが知っておきたい高齢者歯科医療.新聞クイント.2025;357(9):4.
2.山浦克典.GPが知っておきたい高齢者歯科医療.新聞クイント.2025;358(10):4.

著者後藤 大

ごとう歯科医院院長(宮崎県宮崎市)

略歴
  • 神奈川歯科大学卒業
  • 日本歯科医師会災害時対策・警察歯科総合検討会議委員
  • 宮崎県歯科医師会 警察歯科及び災害時対策会議副委員長
  • 宮崎市郡歯科医師会地域歯科担当理事
  • 日本災害時公衆衛生歯科研究会(DPHD)世話人
  • 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士

  • 災害時の歯科医療支援体制や警察歯科活動の整備に携わるとともに、地域における口腔保健・嚥下リハの連携強化をつうじて、平時・有事をとおした歯科の社会的機能向上に取り組んでいる。
後藤 大

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