歯科医院経営者や歯科医師の中には、福利厚生を整備すべきか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
福利厚生の整備は、スタッフのモチベーション向上や優秀な人材の採用において大切です。
本記事では、福利厚生とはそもそも何なのかその概要を解説し、歯科医院における主な福利厚生の種類と、福利厚生を整備するメリットについて解説します。
そもそも福利厚生とは
福利厚生とは、歯科医院がスタッフに対して与える給与以外の報酬のことです。
スタッフやその家族の生活の質を向上させ、健康を守るために活用されています。
福利厚生の内容は歯科医院によって異なりますが、スタッフがより安心して勤務できる環境を作るために整備されている点は共通しています。
歯科医院における法定福利厚生
福利厚生には、法律で定められている「法定福利厚生」と各歯科医院が独自に定められる「法定外福利厚生」の2種類があります。
ここでは、以下の法定福利厚生を解説します。
・社会保険(健康保険・厚生年金・介護保険)
・労働保険(雇用保険・労災保険)
社会保険(健康保険・厚生年金・介護保険)
社会保険とは、被保険者や被扶養者に万が一のリスクが発生した時に利用できる制度のことです。
具体的には「健康保険」「厚生年金」「介護保険」の3つが挙げられます。
健康保険とは、病気や入院などにより治療を受ける際、医療費の一部を負担してもらえる保険制度のことです。
健康保険に加入することで、医療費の3割負担で病院が利用できます。
厚生年金とは、会社員や公務員を対象とした公的な年金制度のことです。
全ての人が加入することになっている国民年金に上乗せされる形で保険料を払うことで、老後に老齢厚生年金を受け取ることができます。
介護保険とは、介護が必要となった時に介護費の一部を支給してもらえる制度のことです。
介護保険は、40歳以上の人に加入が義務づけられています。
制度の運営は全国の市区町村となっており、保険料と税金により運営されているのが特徴です。
介護保険を利用することで、介護サービス利用時の負担は原則1割となります。
労働保険(雇用保険・労災保険)
労働保険とは、スタッフの雇用や生活を守るための保険制度で「雇用保険」と「労災保険(労働者災害補償保険)」の2種類からなります。
雇用保険とは、失業や退職により仕事がなくなった人をサポートする制度です。
雇用保険により、失業者・退職者が失業保険を受給することができます。
労災保険とは、スタッフが仕事や通勤の途中に怪我や疾病、障害を負った時に必要な保険給付を行う制度です。
歯科医院における法定外福利厚生の例
法定福利厚生に対して、法定外福利厚生は歯科医院が任意で設定できるため、医院によってその内容は異なります。
ここでは、歯科医院で設定される主な法定外福利厚生として、以下について解説します。
・住宅手当や通勤手当・交通費支給
・資格手当や研修・学会補助
・健康診断・人間ドック補助
・イベント・懇親会費用補助
・出産・育児支援制度
・企業型確定拠出年金(401k)
・賞与や退職金
住宅手当や通勤手当・交通費支給
歯科医院をはじめとして、一般企業でもよく取り入れられているのが住宅手当や通勤手当です。
住宅手当は、歯科医院によって内容が異なりますが、家賃補助や住宅ローンの一部負担、社員寮の用意などが挙げられます。
生活費の中でも住居関連の費用は大きな割合を占めますが、そこを福利厚生でカバーすることで、スタッフは余裕を持って生活することができるでしょう。
また、通勤手当や交通費の支給も、多くの企業や歯科医院で採用されている福利厚生です。
通勤時に使用するバスや電車の定期券代、駐車場代や駐輪場代などを支給します。
資格手当や研修・学会補助
スキルアップや資格取得を目指すスタッフに対して、資格取得費用の補助を行なっているケースもあります。
自身の専門性を深めるために各種セミナーへの参加や資格取得に励むスタッフは少なくないはずです。
一方でこれらの取り組みには費用がかかります。
そこを福利厚生でカバーすれば、スタッフは積極的にスキルアップに努めてくれるでしょう。
また同様に、国内外で行われる学会などの参加費用を福利厚生で負担するケースもあります。
健康診断・人間ドック補助
福利厚生の中には、健康診断や人間ドックにかかる費用を負担するものもあります。
スタッフが日々の業務に全力で取り組むには、健康であることが欠かせません。
そのため、スタッフの健康を管理することは、歯科医院においても重要な課題の1つだといえます。
人間ドックは数万円かかるケースもあるため、なかなか受診しようとする方がいないかもしれませんが、雇用側が費用を負担することで、多くのスタッフが受診してくれるでしょう。
イベント・懇親会費用補助
歯科医院内で行う各種イベントや懇親会の費用を負担することもあります。
歯科医院の中には、スタッフ同士の親睦を目的に懇親会を行うケースも少なくないのではないでしょうか。
このようなイベントを行うと、スタッフにはそれなりの費用負担が発生します。
そのため、中にはあまり参加したくないと考えるスタッフも出てくるかもしれません。
一方で費用を福利厚生でカバーすれば、スタッフの費用負担が軽減・解消されるため、懇親会への参加率アップにつながります。
イベントを通して親睦が深められれば、普段の仕事の質やコミュニケーションの向上が期待できるでしょう。
出産・育児支援制度
歯科医院は、女性スタッフが多いため、出産や育児に関する福利厚生を整備しているケースがよくみられます。
例えば、出産前のスタッフや育児中のスタッフに対して時短勤務制度を設けている歯科医院は多いでしょう。
出産や子育ては、人生の中でも大きなイベントとなるため、そういった部分を福利厚生でサポートしてもらえることは、スタッフにとっても心強いはずです。
そのほかにも、院内に子供を預けられる保育施設が用意されている場合や、保育施設の利用に伴う費用の一部を補助してもらえる場合もあります。
企業型確定拠出年金(401k)
企業型確定拠出年金とは、企業側が掛け金の積立を行い、スタッフが資産運用を行う制度のことです。
スタッフはどの金融商品を運用するか、どのくらいの試算で運用するか、といった判断を行い自ら資産運用を行います。
運用した試算は原則として60歳以降での受け取りとなるため、スタッフに老後資金として活用してもらうことが可能です。
賞与や退職金
多くの歯科医院でみられる賞与や退職金も、実は福利厚生の一種です。
賞与はその年の売り上げなどに左右されますが、給与の数ヶ月分となることも少なくありません。
そのため、貯蓄や大きな買い物を行う際に活用可能です。
また退職金は、退職後の生活を支える資金にもなるため、整備することでスタッフも喜んでくれるでしょう。
求人票を見比べてみるとわかりますが、歯科医院の中にも賞与や退職金を設定していないケースもあります。
賞与や退職金を設定することで、他院と差別化を図ることができ、優秀な人材を集めることができます。
歯科医院における福利厚生充実のメリット
福利厚生を整備するメリットを享受できるのはスタッフだけではありません。
福利厚生に伴う歯科医院が享受できる主なメリットして、以下の点について解説します。
・優秀な人材の採用
・スタッフの満足度・モチベーション向上
・経費計上による節税
優秀な人材の採用
福利厚生を整備することで、優秀な人材の採用につながる可能性があります。
これは、福利厚生を職場選びの基準としている方が少なくないためです。
例えば、家賃補助や賞与、退職金がない歯科医院よりも、ある歯科医院の方が多くの人が興味を持つと考えられます。
多くの人が興味を持つ分、優秀な人材がエントリーしてくる可能性も高くなるため、高いスキルや豊富な経験を持っている人材の採用に繋がりやすくなるでしょう。
スタッフの満足度・モチベーション向上
福利厚生は、スタッフの満足度やモチベーションにも影響します。
例えば家賃補助を用意することで、住居費の負担が減り自分で使えるお金が増えるため、趣味を楽しむことができます。
趣味を楽しむことでプライベートが充実すれば、リフレッシュして仕事に取り組むことができるはずです。
また、子育て中の人が時短勤務できるようになれば、子育てと仕事の両立が可能になり、スタッフの職場に対する満足度も高くなるでしょう。
このように、満足度やモチベーションを向上させられれば、妊娠・出産を機に退職するスタッフやストレスによる離職が減ります。
採用コストや教育コストを抑えることができ、結果的に歯科医院の安定した経営につながります。
経費計上による節税
福利厚生に伴い発生した費用は、一定の条件を満たすことで福利厚生費として経費に計上できます。
経費に計上すれば、法人税を算出する際の根拠となる利益(=売り上げ−経費)が下がるため、結果的に法人税を安くする、つまり節税が可能です。
なお、福利厚生費として計上するための条件は以下の通りです。
・賃金ではないこと
・福利厚生が全てのスタッフを対象としていること
・金額が社会通念上妥当なものであること
福利厚生を導入しようとしている歯科医院経営者や歯科医師の方は、このような点にも気をつけておくといいでしょう。
まとめ
今回は歯科医院における福利厚生に関して、概要から法定福利厚生と法定外福利厚生の内容、さらには福利厚生導入に伴う歯科医院のメリットなどについて解説しました。
福利厚生は、従業員やその家族の健康や生活をより良いものにするために欠かせないものです。
歯科医院にとっても多くのメリットが享受できるため、ぜひ整備してみてください。