筆者が、始めてモンゴルを訪れたのは1992年。 社会制度が変わり、物資不足の波が押し寄せていた。 大学の診療室では、東欧製の旧式チェアーがあるものの、停電ばかりで電気エンジンやスリーウエイシリンジが使えない。バーやセメント等の歯科器材や材料がなく、わずかに大きなビーカーに局所麻酔液のプロカインが入っていた。 疼痛があれば抜歯するしかない状態であった。 大学さえこの状態であるから、地方に行けばなおさらだ。
当然の様に無麻酔で抜歯が行われていたという。 注射針は使い廻しで、世界的にAIDSの流行が問題となっていた時代でもあった。 当時、中国の物価は日本の1/10、さらにモンゴルは中国の1/10。 日本で1本100円の歯ブラシは、1万円となる計算だ。 仮に購入しようとしても、手に入らなかった時代であった。 現在の歯科医療は、インフラや歯科器材が整っていることで、成り立つことを思い知らされた。 しかも、齲蝕予防に対する知識がないままに、菓子類だけは入って来る。 こうして小児の齲蝕は、まず首都のウランバートルに、続けて国境沿いに、さらには幹線道路沿いに増えていった。
2015年にウランバートルの幼稚園(4歳児)で歯科検診を行ったが、齲蝕罹患者率は89.8%、 1人平均dmf歯数は9.14歯であった。 しかも未処置歯保有者率は89.8%、処置歯率はわずか11.8%であった。
ちなみに日本と比較すると、齲蝕罹患者率は2.6倍、dmf歯数は10倍多かった(2016年 厚労省歯科疾患実態調査)。 日本で最も齲蝕が多かったのは1963年の8.5歯であったが、それでもモンゴルより少なかった。
(参考:2022年厚労省歯科疾患実態調査では、4歳児の齲蝕罹患者率は0%である) このように歯科材料の乏しい国で、どのように齲蝕処置を行えば良いのだろう? そこで気が付いたのは、まず乳歯齲蝕の慢性化であった。 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
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