椿の季節、霜が降りた落ち葉を踏みしめながら、蕾の開き具合を確認するのが日課となっている。両手に息を吹きかけると、日本海側での大雪被害の報道が思い出された。 午後車で南に向かうと、正面からは春のような日差しが降り注ぐ。太平洋側では、記録的な小雨状態が続いており、一部ではすでに給水制限が始まっている。気象庁によると、1月の降水量は1946年の統計開始以降最少で、今後も少雨傾向が続くと予想されている。 眩しい。とにかく季節を問わず、紫外線が年ごとに強くなっていることが実感できる。車道の両脇にはあいかわらずゴミが捨てられ、観光客が増えるとその数も増していく。そのゴミを見て思い出すのは、物干しで劣化、崩壊していく洗濯バサミの姿だ。車窓からポイ捨てされたペットボトルなどは、洗濯バサミと同じように、紫外線で劣化し、化学組成はそのままでマイクロプラスチック、さらにはナノプラスチックとなり、環境へと広がっていく。 今世界中では、年間約4億トンのプラスチックが生産され、年間約3,000万トン以上が水中、海中、陸上に投棄されているらしい。5mm(ミリメートル)から1μm(マイクロメートル)の粒子であるマイクロプラスチックや、1nm(ナノメートル)から1,000nm(1μm)のナノプラスチックとなり、地球上のいたるところに偏在していると報告されている。ちなみに毛髪の太さは約70μmであることを知れば、その粒子の細かさが実感できる。 昨年末、母校である長崎大学の総合生産科学研究科(水産学系)から「マイクロプラスチックより厄介なナノプラスチック―餌(えさ)を介した摂取で魚の赤ちゃんの致死率が急上昇―」という注目すべき研究結果が報告された。その報告では、海洋に広がるマイクロプラスチックおよびナノプラスチックが、海産魚のマダイの初期生存にどのような影響を与えるかを、摂取経路の違いに着目して検証されている。その中で、ナノプラスチックを摂取したマダイ仔魚の生存率は大きく低下し、特に餌(プランクトン)を介してナノプラスチックを取り込んだ場合に、もっとも生存率が低下するということが確認されている。そして「プラスチックの大きさ(マイクロ/ナノ)」だけでなく「どう摂取されたか(直接/餌経由)」が影響していたと結論づけられていた。 年が明けた1月には「脳に忍び込むナノプラスチック」と題したテレビ番組が放送された。これまで脳には、非常に厳格でほとんどの薬剤すら通過できない血液脳関門という厳重なバリアがあるため、異物は入り込めないと考えられていた。しかし、プラスチックが脳内に蓄積されていることを示した論文が衝撃を与えているという。神経科学者は「マイクロサイズであれば、仮に飲んだり大気から吸収したりしても、細胞内に取り込まれることは細胞生物学的に認識できなかったので、それほど人体に影響はないと考えていたが……」とその事実を驚きとして語っていた。 動物実験により、ナノサイズのプラスチックが血管周辺部、脳室周辺部に特に迅速に蓄積していくことが示された。さらにはプラスチックが脳内に侵入できるメカニズムが紹介されていく。血管内にあるプラスチック粒子をコレステロールが覆ってしまうと、脳がこれをプラスチック粒子だと認識できなくなり、「コレステロール分子」と間違えて侵入させてしまうのだという。 環境中のナノプラスチックの研究を続けている学者は、プラスチックが機械的に破壊できる大きさよりもさらに小さくなっていくことがわかってきたこと、加えて生産されたプラスチックの9割がどこに行ったかわからないという。培養細胞への影響や酸化劣化したナノプラスチックの有害性も紹介していた。 大気、水など私たちの身の回りにすでにナノプラスチックは存在する。食べ物や飲み物を含め、私たちはナノプラスチックを取り込みながら生きていると考えた方が妥当だろう。 学者は「有害性やリスクは、ナノプラスチックがどの濃度を超えると、どの生物に、どういう影響があるかはわからない、わかってからこうだよねってなってももう遅い」と口にした。 ゴミを捨てる人々は、この事実をどう捉えるのだろう。世界のプラスチック生産量は急拡大し、累積生産量は2015年に83億トン、2050年には340億トンになるという。 プラスチック製品なくして医療は成り立たない。ただ歯科医療に関して言えば、予防歯科の普及こそがもっともプラスチック製品の減少に貢献できる方策だと断言できるのではないだろうか。
著者浪越建男
浪越歯科医院院長(香川県三豊市)
日本補綴歯科学会専門医
略歴
- 1987年3月、長崎大学歯学部卒業
- 1991年3月、長崎大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)
- 1991年4月~1994年5月 長崎大学歯学部助手
- 1994年6月、浪越歯科医院開設(香川県三豊市)
- 2001年4月~2002年3月、長崎大学歯学部臨床助教授
- 2002年4月~2010年3月、長崎大学歯学部臨床教授
- 2012年4月~認定NPO法人ウォーターフロリデーションファンド理事長。
- 学校歯科医を務める仁尾小学校(香川県三豊市)が1999年に全日本歯科保健優良校最優秀文部大臣賞を受賞。
- 2011年4月の歯科健診では6年生51名が永久歯カリエスフリーを達成し、日本歯科医師会長賞を受賞。
- 著書に『父母ヶ浜2000日』(近著)をはじめ『季節の中の診療室にて』『このまま使えるDr.もDHも!歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本』(ともにクインテッセンス出版)がある。
- 浪越歯科医院ホームページ
https://www.namikoshi.jp/













