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歯科医療の歴史を紐解くトリビア 第2回:ヒポクラテスは今も生きている

歯科医療の歴史を紐解くトリビア 第2回:ヒポクラテスは今も生きている
歯科医療の歴史を紐解くトリビア 第2回:ヒポクラテスは今も生きている

医学の父・ヒポクラテス

医学は、患者さんを診る姿勢などヒポクラテスからの流れを受け継いでいます。エジプト医学は神や宗教の影響を受け、迷信的な部分も多く残されていました。そこで医学を原始的な迷信や呪術から切り離し、観察や経験を重視する客観的、論理的な医療へと改革したのが、古代ギリシアの医師・ヒポクラテスです(図1)。 ヒポクラテスは、健康・病気を自然の現象と考え、科学に基づく医学の基礎をつくったことから「医学の父」と称されています。彼は紀元前5世紀にエーゲ海のコス島で生まれ、医師家系の出身でした。父や祖父から医学を学び、コス島で医療活動ならびに弟子たちへの教育を行いました。コス島の丘には、診療所であったアスクレピオス神殿やヒポクラテス博物館があり、教習所跡には「ヒポクラテスの木」といわれるプラタナスの木も育っています。

医師の倫理指針「ヒポクラテスの誓い」

ヒポクラテスの死後、弟子たちによってまとめられた論文集『ヒポクラテス全集』には、当時の最高峰であるギリシア医学の詳細が記されています。そのなかで医師の職業倫理について書かれた宣誓文が「ヒポクラテスの誓い」です。この誓いには、「生涯を人道的立場で医術に捧げること」「患者の利益を守り有害処置をとらないこと」「患者の差別をしないこと」「安楽死に加担しないこと」「患者の秘密を守ること」そして、医学教育の徒弟制度などの事項が含まれています。 この誓いは現在の医療倫理に指針を与えるもので、これを現在の文化的背景に即して作成されたものが「ジュネーブ宣言」です(表1)。1948年の採択から幾度か改正され、最新版は2017年、米国・シカゴで議決されたものです。医療従事者にとって「医の倫理」や「教育の重要性」が強く叫ばれている現在ですが、ヒポクラテスは紀元前すでにこれらを訴えていたことに驚かされます。

ギリシア医学の特徴「四体液説」

ギリシア医学の特徴として、四体液説が挙げられます。これは血液、粘液、黄疸汁、黒疸汁の4種類を人間の基本体液とし、その調和によって健康が保たれるとする考え方です。また、ヒポクラテスは病気の原因および治癒に自然が深く関与すると考え、自然治癒力を重視しました。 ヒポクラテスのコス派は診断名にこだわらず、病気をもった人を治すという姿勢で治療を行いました。これは全人的アプローチの先駆けといえるでしょう。さらに、ヒポクラテスは患者さんの詳細な観察を重視しました。姿勢、顔、眼、舌、聴覚、呼吸、腹部から排せつ物などを細かく観察し、経過や予後にも注目したのです。「ヒポクラテス顔貌」や「ヒポクラテス指」は、現在も使用されている症候です。

今なお影響を与えるヒポクラテスの偉大さ

ヒポクラテスの影響は、医療倫理、観察重視の医学、全人的医療など、多岐にわたります。彼の医学は、ガレノスによって発展し、ローマ医学から中世のヨーロッパへ広く浸透していきました。多くの国の医学部で「ヒポクラテスの誓い」や「ジュネーブ宣言」が朗読されており、世界中の医学関連施設にヒポクラテスの胸像が設置されているなど、ヒポクラテスの偉大さは今も継続しています。 図1 ヒポクラテスは医術を医学として確立し、患者をみる姿勢をも弟子に教育した(生成AIにて画像作成)。 表1 世界医師会 ジュネーブ宣言2017年(日本医師会・訳)

著者白砂 兼光

九州大学名誉教授

略歴
  • 1970年 大阪歯科大学卒業。大阪大学歯学部第1口腔外科に入局。
  • 1981年 大阪大学歯学部附属病院講師
  • 1082年 西ドイツビュルツブルグ大学助手
  • 1987年 大阪大学歯学部第1口腔外科助教授
  • 1995年 九州大学第2口腔外科教授
  • 2000年 九州大学大学院教授
  • 2009年~2011年 広島大学大学院特任教授(医歯薬研究科)
  • 2009年 九州大学名誉教授

  • 主な著作 『口腔外科学』(医歯薬出版株式会社)

    所属団体
    • 日本口腔科学会名誉会員 元副理事長
    • 日本口腔外科学会名誉会員
    • 日本頭頸部癌学会 元理事
    • 口腔顔面神経機能学会 元理事長
白砂 兼光

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