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歯科医療の歴史を紐解くトリビア 第6回:歯科衛生士の誕生と発展

歯科医療の歴史を紐解くトリビア 第6回:歯科衛生士の誕生と発展
歯科医療の歴史を紐解くトリビア 第6回:歯科衛生士の誕生と発展

歯科衛生士の誕生(アメリカ)

歯科衛生士の歴史は、20世紀初頭のアメリカで始まりました。当時のアメリカでは、急速な都市化と移民の増加により公衆衛生が深刻な課題となり、特にう蝕と歯周病は国民病とされていました。第一次世界大戦では、兵士の約10%が歯科疾患により戦闘不能と報告され、予防歯科の必要性が強く認識されるようになっていました。 1907年、コネチカット州の歯科医師・Alfred Fonesは、oral prophylaxis(口腔清掃)を専門的に行う人材の必要性を感じ、夫人に技術を訓練しました。これが世界初の歯科衛生士とされています。Fonesは、予防処置を行う専門職の必要性を州に働きかけ、法制度を整備しました。 1913年には、世界初の歯科衛生士養成学校「Fones School of Dental Hygiene」が設立され、修了者にはdental hygienistの資格が与えられました(図1)。 図1 歯科衛生士は、はじめ模型を使って歯石除去やブラッシング指導法を学びました(生成AIにて画像作成) その後、アメリカ各州で制度が整備され、1923年にはAmerican Dental Hygienists’ Association(ADHA)が設立され、歯科衛生士は予防歯科の中心的専門職として確立していきました。 この動きは世界にも波及し、1942年にはイギリスでも歯科衛生士の養成が開始されるなど、現在では29カ国がInternational Federation of Dental Hygienists(国際歯科衛生士連盟)に加盟しています。

日本における歯科衛生士の歴史

(1)導入期(1910年代〜戦前) 日本に歯科衛生士の概念が伝わったのは1919年、アメリカに留学していた歯科医師・岡田 満によるとされています。1921年には「歯科衛生婦」としての養成が始まりましたが、資格制度はなく、業務内容は歯科医師の助手的役割にとどまっていました。 (2)制度化と公衆衛生期(戦後〜1960年代) 歯科衛生士が法的資格として認められたのは1948年です(表1)。 戦後の日本は公衆衛生や栄養状態が悪く、う蝕などの口腔疾患で歯を失う人が多い状態でした。そこで、連合国軍総司令部(GHQ)の指導により1947年に保健所法が改正され、歯科衛生が保健所業務に組み込まれました。当時の歯科衛生士は保健所でフッ化物塗布などの歯科予防処置を行うなど、口腔衛生の知識を広めることが主な役割でした(図2)。 図2 戦後誕生した歯科衛生士の主な仕事は、フッ化物塗布や口腔衛生指導でした(生成AIにて画像作成) 当初の修業年限は1年で、保健所に併設された養成所で教育が行われました。しかし人材不足が深刻であったため、専門学校制度へ移行し、1983年には修業年限が2年に延長されました。 (3)業務拡大と専門職化(1980年代〜2000年代) 歯科衛生士の業務は当初予防処置が中心でしたが、1955年の法改正で歯科診療補助が追加され、1989年には歯科保健指導も業務に加わりました。これにより歯科衛生士は「予防」「診療補助」「保健指導」の三本柱を担う専門職として位置づけられました。 1992年には資格試験が全国統一となり、専門職としての質の保証が強化されました。2004年の制度改正により、すべての養成機関が3年制以上となり、教育内容の高度化が進みました。また、2014年には歯科衛生士の定義が「女子」から「者」に変更され、男性歯科衛生士の増加を背景に性別に依存しない専門職として再定義されました。

諸外国における歯科衛生士制度

イギリス(Dental Hygienist / Dental Therapist) 1942年に制度が開始しました。NHS(国民保健サービス)の中で重要な役割を担い、Dental Therapistは乳歯の充填や簡易抜歯など、限定的な治療行為も可能です。大学での3年制教育が主流です。 カナダ 州ごとに免許制度があり、多くの州で独立開業(Independent Practice)が認められています。公衆衛生領域での活動が盛んで、学士課程(4年制)が一般化しています。 オーストラリア Dental HygienistとDental Therapistが統合されOral Health Therapistとして教育されています。3~4年制大学教育で、小児の治療行為も可能です。公衆衛生プログラムが非常に充実しています。 スウェーデン(北欧) 予防歯科の先進国で、歯科衛生士は国家資格です。大学で3年制教育が行われ、高齢者ケアや地域保健での役割が大きいです。社会的評価が高く、口腔保健の専門家として確立しています。 韓国 1965年に制度化されました。3年制短大が中心ですが4年制大学も増加しています。歯科医院での診療補助が中心となり、近年は公衆衛生領域も拡大しています。日本と同様に国家試験制度を採用しています。

歯科衛生士の今後の展望

現代の歯科衛生士は、う蝕・歯周病の予防に加え、摂食嚥下障害、周術期口腔管理、高齢者の訪問口腔ケアなど、医科領域との連携が不可欠な業務が増えています。これらの業務には、口腔機能だけでなく全身疾患や薬物療法の理解が求められています。 こうした背景から2004年に4年制教育が開始され、現在では国公私立合わせて14大学で高度教育が行われています。大学院へ進学し、研究者・教育者として活躍する歯科衛生士も増えており、専門職としてのキャリアパスが拡大しています。 今後は医療・保健・福祉の多職種連携の中で、口腔機能管理の専門家としての役割がさらに重要になると考えられます。

著者白砂 兼光

九州大学名誉教授

略歴
  • 1970年 大阪歯科大学卒業。大阪大学歯学部第1口腔外科に入局。
  • 1981年 大阪大学歯学部附属病院講師
  • 1982年 西ドイツビュルツブルグ大学助手
  • 1987年 大阪大学歯学部第1口腔外科助教授
  • 1995年 九州大学第2口腔外科教授
  • 2000年 九州大学大学院教授
  • 2009年~2011年 広島大学大学院特任教授(医歯薬研究科)
  • 2009年 九州大学名誉教授

  • 主な著作 『口腔外科学』(医歯薬出版株式会社)

    所属団体
    • 日本口腔科学会名誉会員 元副理事長
    • 日本口腔外科学会名誉会員
    • 日本頭頸部癌学会 元理事
    • 口腔顔面神経機能学会 元理事長
白砂 兼光

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