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コラム

成人用紙おむつ事情と排泄ケアと口腔ケアの接点

成人用紙おむつ事情と排泄ケアと口腔ケアの接点
成人用紙おむつ事情と排泄ケアと口腔ケアの接点
今回の長縄拓哉先生との対談では、医療介護現場でおむつやトイレなど排泄に関わり続ける八木大志さんをお招きし、成人用紙おむつ事情や排泄ケアと口腔ケアの接点、まちづくりにおいて期待される歯科の関わり方などについて、お話を伺いました。


歯科医師・現代美術作家 ⻑縄 拓哉 先⽣ / おむつ宅配便 代表・理学療法士 八木 大志 氏


<八木 大志(やぎ ひろし)氏プロフィール>
理学療法士として4年間の臨床経験を積んだ後、他業種へ転職。転職先では約2年間にわたり、紙おむつの給付事業に携わる。2016年に大阪府で紙おむつの宅配業を開業。2019年に「おむつ情報局」を立ち上げ、オンライン勉強会を積極的に開催。これまでに累計8,000人以上が参加している。同年に旭区トイレ美化委員会として日本トイレひと大賞の準グランプリを受賞。2025年6月24日には、大阪・関西万博にて世界最大規模のおむつイベント「O-MU-TSU WORLD EXPO」を実施。


<長縄 拓哉(ながなわ たくや)先生プロフィール> 
1982 年愛知県生まれの歯科医師(医学博士)であり現代美術作家。2007 年東京歯科大学卒業後、東京女子医科大学病院、デンマーク・オーフス大学での口腔顔面領域の難治性疼痛(OFP)研究を経て、口腔顔面領域の感覚検査器を開発。IADR(ボストン、2015)ニューロサイエンスアワードを受賞。現代美術の特性を応用し、医療や健康に無関心な人々や小児のヘルスリテラシーを向上させ疾病予防をめざす。





理学療法士とおむつの関係

⻑縄:最初に八木さんが理学療法士を目指された理由からお聞かせください。 八木:看護師の母が、6人の子どもには手に職を就かせたいという方針で、兄弟全てが医療関係の専門職に就いています。姉が看護師、兄が薬剤師、3番目の私は理学療法士で、下の弟は栄養士、さらにその下は看護師が二人という医療一家です。 ⻑縄:まるでご家族で病院ができそうですね。 八木:でも肝心の医師がいないんですよ(笑)。母が私には理学療法士を紹介してくれて、資格を取得したのがきっかけです。理学療法士としては、クリニック、病院、訪問リハビリテーション施設などで4年間勤務しました。その後、ふとしたきっかけから理学療法士の仕事からは離れて別の仕事をしていました。 ⻑縄:それからおむつの世界にハマっていくのですね。 八木:はい。主におむつの卸売や小売、またはおむつに関する研修会を行う「おむつ宅配便」という事業を2016年から始めました。 ⻑縄:理学療法士としての業務と並行しておむつに関する事業もされているのでしょうか。 八木:いえ。現在は理学療法士としての業務は全く行っていません。 ⻑縄:理学療法士の業務としておむつを替えることはあるのでしょうか。 八木:ほとんどないと思います。理学療法士の場合は、トイレ動作の練習までが多いのではないでしょうか。 ⻑縄:「トイレ動作の練習」とは具体的にどんな練習ですか。 八木:基本的には、トイレまで安心して歩けるようにするとか、便座に座ったり立ち上がったりする際の動作トレーニングなどです。トイレの動作には回転移動や重心移動が必要になるため、どのように足運びを行うかなどを指導することはありますが、おむつ交換まではほとんどの理学療法士は行っていないと思います。 ⻑縄:なるほど。理学療法士は、おむつに関する知識はほとんど持っていないということですね。 八木:そうですね。授業のカリキュラムでおむつについて学んだ記憶もありませんし、理学療法士として勤務した4年間でおむつの選定業務には一度も携わることがありませんでした。ですから、基本的にはノータッチに近い分野だと思います。

排泄ケアと口腔ケアの共通項

八木:おむつを含めた排泄ケアの分野は、人の尊厳の部分にも関わる部分ということで医療介護職の中でも学び始める年齢層が高いんですよ。ですので若い方が少なくて、今後課題になっていく部分だと感じています。歯科の分野で、介護が必要な方の口腔ケアに携わる皆さんの年齢層はどのくらいなのでしょうか。 ⻑縄:よく似た状況だと思います。私が携わっている看護師を対象にした勉強会に限ったことかもしれませんが、そもそも看護師の皆さんは忙しいので、若いうちは新たな分野を勉強する時間的余裕はほとんどないと思います。最初は配属先の病棟で、自分が担当する疾患についての勉強から始まりますから、口腔ケアは後回しになります。排泄ケアもおそらく同じ状況だと思います。例えば、心臓血管外科に病棟に配属されれば心臓の勉強に集中します。しかし、それが全てできるようになった看護師さんが、「次に何を勉強しよう」となったときに選ばれるのが、排泄ケアや口腔ケアだったりします。その場合、必然的にベテランの看護師さんが多くなる傾向はあると感じます。ただ、そういう意識の高い人たちの求心力によって、若い人たちが盛り上がってくるという流れも私の勉強会では経験しています。そういう点では今後に期待したいですね。 八木:そうですね。パワフルな方々が口腔ケアや排泄ケアに携わってくださるので、その方々と一緒に取り組んでいけば、まだまだできることはありそうです。 ⻑縄:一般の外来歯科診療は、開業医の先生方が毎日懸命に診療してくださっています。しかし、それでも口のことに関心が薄く歯科医院に来院されない方もおられますし、その中でう蝕や歯周病に罹患してしまう人もいらっしゃいます。そうした歯科に関心の薄い人々にアプローチしていくための1つの方法として、歯科ではない分野からの視点やノウハウを取り入れることも大切です。それこそ、おむつと歯科を組み合わせれば、歯科に関心はなくてもおむつには興味のある人が、将来的に歯科に興味を持ってくださる可能性は高くなりますよね。何かきっかけさえあれば、人は変わることができると思っています。今回のおむつに関する対談も、そういう視点でみれば良いきっかけになったのではないでしょうか。

「スマートおむつ」と海外の紙おむつ事情

⻑縄:最近歯科ではデジタル化が進んでいて、入れ歯も口腔内スキャナーや3Dプリンターを使って製作するようになってきています。おむつ業界にも、テクノロジーの進化で生まれた製品はありますか。 八木:皆さんはあまりご存知ないかもしれませんが、「スマートおむつ」というものがあります。海外では日本より先に登場しており、現在日本国内でも少しずつ販売がはじまっています。スマートおむつは、排尿センサーを搭載し、排泄のタイミングや量を自動で検知・記録・分析する次世代の介護・育児用品です。排泄をリアルタイムで検知してスマートフォンに通知するため、介護の負担軽減、かぶれ予防、適切な交換タイミングの判断に役立つとされています。 ⻑縄:歯科でもマウスピースにセンサーを付けて、咬合力を測るなどの研究がたくさんありますが、マウスピースだと普段付けていない人が測定などのために付けることになるので、ハードルが高いような気がしています。その点、入れ歯の場合、そもそも日中は付けていますから、普段と変わらない状態で入れ歯の中にセンサーを埋め込んでデータを測定できるので、アプローチがしやすいと考えています。 八木:それでどんな数値が測定できるのでしょうか。 ⻑縄:咬合力や体温などが計測できますが、他にも唾液成分から血糖値を測定したり、血液検査の代わりになるようなデータが採取できるようになると期待しています。以前から様々な大学で研究されている方法を統合して実用化していきたいですね。ところで、海外では紙おむつはどんな状況なのでしょう。 八木:海外のおむつは、スウェーデンとアメリカが特に進んでいます。スウェーデンは紙おむつ発祥の国と言われていますし、アメリカではディスポーザブルの文化ですから、子ども用の紙おむつを含めて、それぞれ独自の発展を遂げました。一方で、日本製の紙おむつも品質は高くて、アジアの一部の国では日本の紙おむつを使うのがステータスになっていることもあります。日本の紙おむつは、ツーピース方式と呼ばれて、おむつの中に尿取りパッドを入れるのが一般的です。アメリカやスウェーデンでは、尿取りパッドは入れずに紙おむつを単体で使うのが主流になっていて、日本のように尿取りパッド以外の外側を再利用するのではなく、おむつ全体を交換するのが当たり前になっています。 ⻑縄:日本で販売されている紙おむつは、国内メーカーのものがほとんどなのですね。 八木:そうですね。一部にスウェーデン発のブランドなども見られますが、日本市場では国内メーカーの製品が中心というのが現状ではないでしょうか。

「うんち(うんこ)」は最強のパワーワード

⻑縄:八木さんが、おむつの宅配から派生して、公衆トイレ清掃の取り組みをされておられると伺いました。協力者をSNS上で募ったところ、最初は女性の方がお一人参加してくださって、それから徐々に増えていったともお聞きしました。地域の方々をうまく巻き込んでいくための秘訣は何だとお考えですか。 八木:常に自分の中では、エンターテイメントの要素を残そうということは意識しています。SNSで参加者を募る場合でも、面白いイベントには皆さんの反応が良く、多くの方が来てくださいます。うんちのキャラクターも、できるだけ面白いキャラクターにして、自分たちがイベントを一緒に作り上げていっているという一体感を持っていただけるようにと考えています。 ⻑縄:本当に今の時代、奇抜なキャラクターが受けることもありますし、何が面白いと感じてくださるかわからないですよね。うんちのキャラクターも親近感があってとてもうまくデザインされていると思います。 八木:キャラクターに共感が持てなければ、誰も付いてきてくれませんから、デザインもプロのイラストレーターにお願いするなど、クオリティにはかなりこだわっています。そして「ぜひこの活動に参加したい」と思っていただけるような内容にすることが、企画した主催者側に必要なポイントだと思っています。 ⻑縄:皆さん、うんちのキャラクターが大好きですからね。 八木:長縄先生は「うんこの入口展」という個展をされていましたが、反響はいかがだったのでしょうか。 ⻑縄:「うんこの入口展」は、銀座の路面ギャラリーで開催したため、外から室内の様子が見えるんです。やはりこの個展では、他の個展より明らかに立ち止まる人が多かったと思います。子どもだけでなく大人もうんこが好きなんですよね。「うんこの入口展」というタイトルだけで、皆さん足を止めて、作品をご覧になって、「かわいいね」なとど言ってくださるなど、一般展示では見られない人のこころの動きを感じることができました。 公衆トイレ清掃作業の一コマ 地域のお祭りに「便THEシューター!」を出展。うんちは最強のパワーワード

まちづくりで歯科に期待される役割

⻑縄:八木さんの視点から、歯科に関して思うところはありますか。 八木:私は以前からまちづくりに関心がありました。その視点から言うと、例えば地域にある「まちの保健室」を見ても、医師や看護師、リハビリテーション職の方はたくさんメンバーとして名を連ねておられますが、私が知る限りでは歯科医師の先生方の名前を見るケースは少ない印象があります。普段診療でお忙しくされているので大変だとは思いますが、歯科医師や歯科衛生士さん が加わってくださると、さらに多くの困りごとを解決できるのではと感じています。 ⻑縄:私も普段訪問歯科診療を行っていますが、訪問先でたまたま訪問看護ステーションの方やケアマネージャーの方とお話しする機会はあっても、歯科の往診は介護施設を含めてほぼ単独で動きますから、他職種が集まって話し合うような場に歯科が入ることは少ないかもしれません。もちろん訪問診療を精力的に行っている歯科医師が他職種と積極的に 交流しているシーンを見ることもありますから、先生次第だと思います。 八木:自分ごとで恐縮なのですが、私が行っている「おむつ宅配便」は介護保険の対象外です。にもかかわらず、排泄やおむつの状況を確認するために担当者会議には呼ばれます。おそらく私のような立場の人はあまり例がないと思いますが、排泄ケアの専門家として呼ばれて、他の参加者の方々からのいろんな質問に答えています。同じように口腔の専門家として歯科の先生方が担当者会議に入ってくださったら、とても心強いだろうと思います。 ⻑縄:地域によっては、訪問診療を当番制や分担制にして、外来診療が終わった夜間に訪問診療に行かれるという先生も多くいらっしゃいますから、時間的にはなかなか難しい問題だと思います。 八木:なるほど。そのような状況下で地域の担当者会議に出るのは確かに大変だと思います。ただ、長縄先生が以前から取り組んでおられるようなリモート診療がもっと当たり前な世の中になってくれば、歯科の先生方にとっても取り組みやすい環境になるのかもしれないですね。 頭にうんこをあしらった長縄先生の作品とともに インタビュイー 八木 大志(おむつ宅配便 代表・理学療法士)/ 長縄 拓哉(歯科医師・現代美術作家)

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