麻酔やタービンで削り始めると、子どもが泣くのではないかと不安になる。 しかし術者が不安だと、子どもはもっと不安になる。 だから泣き出すのだ。 従って自分が緊張していても、相手に伝えないようにしなければならない。 そこで小児歯科の新入局の頃、子どもの治療を上手になるために動物病院へ行ったものだ。 言葉を介さない世界で、獣医師はどのように動物とコミュニケ-ションをとっているのだろう? その点に興味があった。 そこで体験したA獣医師と年配のB獣医師の差。 まず犬を診察台に乗せる。飼い主に「○○ちゃんはどうされたのですか?」と聞きながら左手でイヌの背中をなでている。そして右手に体温計を持ち、直腸温を測ろうとした。 A獣医師は、左手でなでながら体温計を挿入した瞬間、手の動きが止まった。すると犬は一瞬“キャイン!”とないた。 年配のB獣医は、体温計の挿入時も、左手は止まることなく犬をなでていた。 そうすると犬は挿入されたことに気づかないのだ。 獣医師の世界では、手技だけではなくスキンシップを重要視していることがわかった。 さて、これは某動物園のアザラシであるが、牙が折れ下顎が腫脹していた。 獣医師は、鎮静処置なしで根管治療を行うというので、見学させていただいた。 獣医師は、リーマーやブローチを持つ手をまったく緊張させない。 すると、アザラシは暴れることなく処置が進んだのである。 触覚によるコミュニケーションの極意を垣間みた思いがした。 以来、筆者は注射筒を持っても、歯ブラシと同じように手の緊張をぬいて診療を行っている。 子どもを泣かさないためには、まず自分をリラックスさせることが重要なのだ。