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第2回 授乳期からの口腔機能育成

2019/4/17 デンタル〇〇デザイン

反射から始まる哺乳行動は、2、3か月経つと前頭葉の発育とともに"意識"が加わってきます。つまり、赤ちゃん自身の意思で乳首を探しておっぱいを飲むようになります。遊び飲みの現象も見られ、一時的に飲む量が減ることが知られていますが、飲み方や意思が安定してくると、量も吸う力もグッと増加します。やがてそれはおもちゃしゃぶりや指しゃぶりへとつながっていき、口腔の形態や機能を飛躍的に発達させます。

ところで、赤ちゃんがおっぱいを飲んでいる時の口の動きと私たちがものを食べている時の口の動きは、まったく違うことを知っていますか?

1.乳児嚥下と成人嚥下の違いを知ろう

おっぱいを飲む行動は、「乳児嚥下」と呼ばれるものです。 (図1) のように哺乳時は、口唇はラッパのように開き、乳房に密着しています。つまり口唇と上下の顎を開けて嚥下をしています。舌尖はほとんど動かず、乳首の下部を押している状態です。舌は中央部から舌奥にかけて前後運動、蠕動運動することで陰圧の状態を作り、乳汁を咽頭の方へ送る役割をします。一方で下から舌が乳首を保持することで密閉状態となり陽圧がかかることで新たな乳汁をしごき出します。このように、口腔内では陰圧と陽圧の絶妙な連携により効率良く授乳行動が行われています。 一方、離乳食が始まると食べ物を口に入れて噛んで、飲み込むという一連の行動を学習します。これを「成人嚥下」と言います。成人嚥下はまず、上下の唇と前歯で食べ物を捕食し口唇閉鎖を行います。そして口の中に入った食べ物を噛んだり舌を上あごに押しつけてつぶしたり、頬の筋肉や舌をいろいろに動かして唾液と混ぜ合わせた食塊にして、喉へと運び飲み込みます。この時舌根部は挙上し、鼻腔を閉鎖するために挙上した軟口蓋と密着する事で鼻腔に食塊が流れ込まないようにしています。この舌奥と軟口蓋の密着性は閉塞性睡眠時無呼吸症にも関連すると考えられています。 ※図1:乳児の授乳状態。

2.授乳姿勢が口腔機能・歯列・咬合に与える影響について

(図2) のように正しい姿勢で授乳することと、しっかり乳首をくわえさせることは、母乳育児、人工乳育児にかかわらず口輪筋や舌筋などを鍛えます。昨今は夜間授乳を中心に添い寝授乳を推奨する産婦人科医も増えてきました。母親の疲労を軽減させるためです。しかし、われわれ歯科医療従事者は、添い寝授乳による弊害も伝えなければなりません。 (図3) (図4) は添い寝授乳により、う蝕が生じた症例と交叉咬合になった症例です。 ※図2:正しい授乳姿勢と添い寝授乳 正しい哺乳姿勢の図は「ユニセフ公式サイト」、 添い寝授乳の図は「『歯科衛生士』2016年7月号」からの出典になります。 ※図3:1歳8か月女児。添い寝授乳で常時左側を下にして寝ていた。左側のみにう蝕の発生が見られる。 ※図4:1歳2か月女児。常時左側を下にして添い寝授乳を行っていた。う蝕は発生していないが、固形食での咀嚼の練習が進まず上下顎の叢生と交叉咬合が見られる。

3.卒乳の考え方

卒乳の考え方は、さまざまでありその時々の社会情勢に強く影響されます。母親の就労が一般的になっている現代では、母子の愛着形成のためという理由で、子どもが自然に卒乳するまで授乳を勧める助産師や産科医も多いと聞きます。ここでもわれわれは、長期授乳の弊害について母親に話す必要があります。 う蝕罹患率の上昇は言うまでもなく口腔機能面からの弊害もあるからです。成人嚥下と明らかに違う舌や口腔周囲筋の動き、たとえば口唇閉鎖に必要な頬筋や口輪筋は咽頭部筋とつながっているので、授乳時の口唇閉鎖しない嚥下は咽頭筋の発育を邪魔し、口腔機能不全につながっていくと考えられます。軟口蓋と舌の密着がしっかりしていれば、鼻閉により鼻腔通気抵抗がある程度上昇していても鼻呼吸を維持することは可能です。しかしこの密着性が低いと口腔内に呼吸路ができてしまうため、容易に口呼吸へと移行してしまいます。感情をとるか?機能発育をとるか?という選択なのだと思います。