能登の大地震から1か月余り。 いまだ避難所では、毛布をかぶり寒さを耐え忍んでいる高齢者がおられる。 全国から歯科医療従事者が、被災地に赴き医療支援活動が行われている。 口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防のため不可欠だ。 ここで忘れてはならないのが、オーラルフレイル(口の衰え)だ。 誤嚥性肺炎の予防は、口腔ケアだけではない。 オーラルフレイルは、誤嚥性肺炎にもつながる。 その予防には口を動かし、口腔や呼吸機能を維持することも忘れてはならない。 これは、災害関連死の防止のためにも極めて有効である。 そのために一番手軽な方法は、“歌を歌う”ことだ。 “あいうべ体操”は優れた方法だが30分も続かない。 しかし歌なら歌える。 歌うことで、口唇や舌の機能の維持につながるし唾液分泌量も増える。 しかも呼吸機能や嚥下機能も維持できる。(図1) 筆者は阪神淡路大震災の際、大学からの派遣で小学校の避難所へ行った。 最初に車で乗り入れたのは、薄暗くなった寒い日だった。 運動場の真ん中で、焚火をしながらギターを持ち、大声で歌っている若者がいた。(図2) 筆者は、こんなボランティアの方法があることに驚かされた。 読者諸氏。ここで少し思い出していただきたい。 昔、よく歌った“懐かしい歌”や“青春の歌”には、どんなのがあるだろ? 筆者はフォークソング世代だから“戦争を知らない子供たち”や“翼をください”などだ。 ある日突然、自宅や家族、これまで築いてきたものが失われたらどんな気持になるだろう。(図3) どうしてこんな目に逢わなければならないのだ・・・。 何も悪いことはしていないのに・・・。 これは悪い夢に違いない・・。(図4) でもそれを受容し、新たな気持ちに切り換える。 そのための“勇気づけ”・“励ましに”なるのが、自分が好きだった歌、みんなと一緒に歌った歌のように思う。 「昔を思い出して、“もう一度 頑張ろう!”と思い前向きに生きて欲しい。」 きっとあのボランティアは、そんな思いで歌っていたのだろう。(図5) 歌を歌うことは、口腔機能の維持だけでなく、なにより元気が出る。 オーラルフレイルは、歌うことでも予防できるのだ。
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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