今回は離乳食完了といわれる時期の状態についてお話しします。離乳完了期(手づかみ食べ期・ぱくぱく期)
個人差はありますが、一般に上下の切歯が生え揃い、第1乳臼歯が生え始める子が多くなってくる時期です。 図1 a~c 手づかみ食べ期の上顎、下顎、咬合の状態。 舌の動きは前後運動、上下運動、左右運動とかなり複雑に動かすことができるようになってきますので、一般にいう"離乳完了の時期"を迎える頃となります。 上下の奥歯が左右一本ずつ生えてくると、今まで歯ぐきではつぶせなかったものも食べられるようになり、咀嚼の練習をする時期に入ります。しかし噛む力はまだ弱いことと、第1乳臼歯はさらに奥に生えてくる第2乳臼歯と比較すると咬合面が小さいため、噛みつぶす動作はできても、すりつぶす動作はできません。離乳完了と聞くと、もう大人と同じものを食べることができると思いがちですが、第2乳臼歯が萌出完了し、咬合が確立する3歳半くらいまでは大人と同じ食形態のものはまだ無理なものもあり、もう少し段階を踏んだ練習が必要です。"良く噛む"ことが大切とばかりに急に硬いものを与えても、まだうまく処理できないため、丸飲みや口の中にいつまでもため込む癖がつくだけです。さらに偏食の原因にもなり得ます。 まず、硬さは手で掴んでも崩れず歯ぐきでも少し力を入れるとつぶせる程度から始めます。前歯でかじり取り、口を閉じて奥歯で噛みつぶす練習の時期です。シチューやおでんのジャガイモやダイコンの硬さが目安です。口の中でまとまりにくい食材、ひき肉などは肉団子状にするとかとろみをつけるとかひと工夫が必要です。繊維性の強いアスパラやホウレンソウのような野菜は、少しゆで時間を長くしたり、繊維を裁断するように切ります。キノコ類、肉、かまぼこ、イカ、タコのように弾力性の強い食品などは、第2乳臼歯が生えるまで待つか、あともうひと手間が必要です。食材の大きさは最初から細かくしたり一口サイズにしてしまうと、自分の一口大がどのくらいなのかが学習できないので、前歯でかじり取れる大きさにするように指導します。 そしてこの頃になると、食べさせる食事から自分の意思で食べる食事に変わっていくことが大切です。食事の時は横に座って介助するのではなく、対面で食べるように指導します。大人がおいしそうに食べている姿を見せることで子どもはマネをしたくなるはずです。食べることへの意欲を育てること、食べることの楽しさを教えることがその子の生涯の食の取り組み方に大きく影響してきます。 またこの時期、手づかみ食べはおおいにさせるべきです。この作業をとおして子どもはどのくらいならば口に入れても大丈夫なのかを学習しているからです。そして手の動きと口に物を入れるまでの距離感を覚えることで、自然とスプーンやフォークを使うトレーニングもしているのです。 さらに味覚形成は5歳ごろにほぼ完成するとされていますが、成人になってからの食生活に大きく影響していくことはいうまでもありません。甘味や塩味は小児の方が成人より敏感であり、約1/2の濃度で反応するといわれています。味を感じる味蕾の数も成人の1.3倍あるので味付けは薄味で良いことも指導すべきです。中でも甘味は特にエスカレートしやすく習慣化しやすいので、う蝕予防の点からも併せて注意しましょう。
著者外木徳子
千葉県開業
略歴
- 1983年、東京歯科大学卒業。
- 同年、小児歯科学講座助手として入局。
- 1992年、博士「歯学」の学位取得。
- 1994年、東京歯科大学を退職(小児歯科学講座非常勤講師就任)、千葉県美浜区にて、とのぎ小児歯科開院。
- 2010年、日本小児歯科学会専門医指導医。
- 著書に『歯と体の発達に合わせた赤ちゃんと幼児のごはん』(婦人之友社編)がある。
歯科がカギを握る!小児の口腔機能育成―歯の萌出状態から見た哺乳、離乳食の進め方―