Dental Life Design

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歯科技工士と歯科衛生士、
ダブル資格をとったことで得られた
大きなメリットとは 前編

2019/6/5 デンタル〇〇デザイン

大阪府茨木市で、歯科技工所「有限会社デンタルクリエーションアート」を経営する西村好美さんは、46歳のときに歯科衛生士学校に通いはじめ、3年後に歯科衛生士の資格を取得しました。いったいなぜ、第一線で活躍する歯科技工士で会社の経営者でもあった西村さんは、歯科衛生士の資格をとったのでしょうか。本インタビューではその理由とともに、歯科技工士・歯科衛生士のキャリアについてのアドバイスもお聞きしました。

■私が49歳で歯科衛生士の資格をとったわけ

私は⻭科技⼯⼠ですが、仕事を続けながら46歳の時に⻭科衛⽣⼠学校に入学し、卒業と同時に49歳で⻭科衛⽣⼠の資格を取得しました。男性でその2つの資格を得たのは、国内で私が初めてだったかもしれません。なぜ私がダブル資格をとったのか。その⼀番の理由は、どうにもならない法律上の制約を、⻭科技⼯⼠の仕事をするなかで度々感じていたからです。
ご存知のとおり、⻭科技⼯⼠は患者さんの⼝の中を触ることができません。以前から私はおつきあいの深いクリニックに呼ばれて、補綴物を作るために⻭科医師の傍らで患者さんの口の中を覗くことがありました。その際に、「自分一人で患者さんの口腔内を見られるようになれれば、より患者さんのためになる仕事ができるようになるに違いない」という想いがありました。
2つ⽬の理由は、失った⻭を補い綴る「補綴」の鍵となる補綴装置を製作する⻭科技⼯⼠の仕事に、⻭科衛⽣⼠の知識・技術が活かせるだろうと考えたことです。⻭科技⼯⼠の仕事は、う蝕や咬合力・⻭周病が原因で失われてしまった患者さんの⼝腔機能を回復することです。⼀度⼊れた補綴物は、10年、20年とその機能を果たす必要があります。そのためには、適切な補綴物の「ケア」が⽋かせませんが、そのケアに関して私たち⻭科技⼯⼠が患者さんにできることは何もなく、⻭科衛⽣⼠が⾏う定期検診や、患者さん本⼈の⽇常のお掃除にお任せするしかありません。⼝腔内のケアや⼈間の⽣理現象を深く理解することで、⾃分が作る補綴物がより永続的に「メンテナンスしやすく完成度の⾼いもの」になるだろうと考えたのです。

■仕事を終えてから夜間の学校へ。人体に関する深い知識を得る

私は⻭科衛⽣⼠学校に⾏くと決めた時点で、すでに⾃分の⻭科技⼯会社を経営していました。そのため⽇中の仕事を終えてから、学校に⾏く必要がありました。当時、夜間クラスのある⻭科衛⽣⼠学校は新⼤阪の1校しかなく、そこに通うことに決めました。⼊学してからは毎⽇、朝の8時に出社して⼣⽅16時まで働き、そこから学校へ通いました。17時30分から20時45分までの授業を終えると会社に戻り、スタッフの仕事をチェックします。⾃宅が会社から⾞で15分と近いのが救いでしたが、帰宅は12時をまわるのが普通で、かなりのハードスケジュールでした。
夜間部の⻭科衛⽣⼠学校には、さまざまな⼈がいました。クリニックでアシスタントをしている⼈、主婦の⽅、⾼校を卒業したばかりの若い⼈、年齢はけっこう幅広かったですが、私以外は全員⼥性でしたが、よい同級生に恵まれ、男性である私に分け隔てすることなく、よくしてくれましたので、クラスメイト達にもすぐに馴染むことができました。⻭科衛⽣⼠学校に通い始めて、「これこそが⾃分の学びたかったことだ」と感じたのは、⽣理学と病理学についての授業でした。それまでも25年の⻭科技⼯のキャリアがありましたので、⻭科医師や⻭科衛⽣⼠の仕事についてアウトラインはわかっていましたが、その方々が持っている「⼈体に関する深い知識」が⾃分には⽋けていたことを実感しました。

■口腔内の生理現象を正確にイメージできるようになった

なかでも⼝腔内の炎症反応に関する知識は、いまの補綴物製作の仕事に、直接的に⼤きく役⽴っています。⻭科技⼯⼠の学校では、⼈⼯⻭を作るために必要な技術や、かみ合わせ、⻭にかかる⼒などについては学びますが、炎症反応に代表される⼈体の⽣理や病理、それに口腔衛生については、ほとんど学ばないのが実情です。しかし、臨床の現場ではブリッジなどの補綴物を⼊れた患者さんの予後を継続的に何年、何⼗年もそのケアをしていく必要があります。製作した補綴物周辺の適切なケアがなされなければ、やがて⻭⾁に炎症が起こり、⻭周病を引き起こす原因となります。患者さんにとって「清掃しやすい補綴物」を作ることは、⾮常に⼤切なことです。⻭科技⼯⼠は補綴物を作るときに、⽯膏模型を⽤いますが、模型は傷がついても出⾎しません。歯科衛生士の勉強をしたことで、患者さんの⼝腔内を正確かつ具体的にイメージすることができるようになり、患者さんの口腔内に合わせた補綴物の形へ変化していきました。⼈間の健康な⾝体は、⽣理的に「恒常性の維持」が常になされています。しかし⼈⼯物である補綴物を⼝腔内に⼊れることで、その微妙な恒常性のバランスが崩れてしまう可能性があります。⻭を支える⻭根膜の機能や、網の⽬状に張り巡らされた⻭⾁の⽑細⾎管、そこに細菌が⼊り込んだときにどのような反応が起こるか……、そうした⽣理学の知識を得たことにより、補綴物が患者さんに与える影響について深く理解できるようになり、数⼗年にわたるメンテナンスのことを考えて補綴物の製作を⾏えるようなったことは、歯科技工士として机の上だけで補綴物を製作していた時よりも生理学的・病理学的に優れたものであるといえると思います。

■患者さんとのコミュニケーションも向上、
デジタル化の時代だからこそ人間にしかできない仕事を

歯科衛生士学校では心理学の授業もあり、患者さんとのコミュニケーションについて学ぶことができました。歯科技工士は普段、クリニックから送られてくる写真などを見て補綴物を作っていますが、外部からよく見える前歯を作るときには、クリニックに出向いて、患者さんから直接要望を聞くことがあります。そんなとき患者さんに「自分は男性ですが、歯科衛生士の資格を持っています」と伝えることで、患者さんも安心して口腔内を見せてくれるようになりました。歯科衛生士の資格によって、それまでよりも患者さんと格段に良好なコミュニケーションがとれるようになったことは、大きなメリットだと感じています。
こうした自分の経験から、近年はよく、歯科衛生士・歯科技工士の集まるセミナーなどに呼ばれて、2つの資格を持つことのメリットをお話させてもらっています。そこで私は、「絶対にこの2つの資格をとることは、双方の仕事に役立ちます。とくに歯科技工士にとって、歯科衛生士の資格をとることは、今後ますます重要になるはずです」と伝えています。それは、急速に歯科技工士の仕事がデジタル化し、歯を加工する作業がどんどん機械に置き換わっているからです。
一般社会でも、AIの急速な進歩により、弁護士や銀行員、税理士といった仕事が将来なくなるのではないか、と言われています。私たち歯科技工士も、「人間がするべき仕事/人間にしかできない仕事」と「機械でもできる仕事/機械にまかせるべき仕事」を考える必要があります。これまでは、基本的に私たちの仕事は、歯科技工所の中だけの作業で完結していました。しかしこれからは、歯科医師、歯科衛生士の人々とチームを組んで、より患者さんのデンタルライフの向上に長期的に役立つ補綴物を作っていくことが求められます。
歯科衛生士の方にとっても、歯科技工士の勉強をすることで、歯にかかる力やかみ合わせに関する深い知識を得ることができます。それは、患者さんにより良いケアをする上で、必ず役立つはずです。

(西村さんのインタビュー後編では、歯科技工士はどのようにキャリアを積むべきか、全国に多くの卒業生を輩出している「にしむら塾」を設立した経緯、歯科技工所の会社経営について、ご紹介します)

歯科技工士と歯科衛生士、ダブル資格をとったことで得られた大きなメリットとは 後編

西村好美さん
有限会社デンタルクリエーションアート

1982年
行岡医学技術専門学校 歯科技工士科卒業
藤井歯科医院勤務
1985年
大阪セラミックトレーニングセンター講師
1988年
日技生涯研修認定講師
1991年
藤井歯科医院退社
有限会社デンタルクリエーションアート開設
1995年
SJCD歯周補綴テクニシャンコース講師
1999年
にしむら塾主幹(東京・大阪)
2001年
松風アドバイザー兼国際インストラクター就任
2002年
咬合・補綴計画セミナー招聘講師
2007年
日本歯科審美学会認定士及び評議員
THE EUROPEAN JOURNAL OF Esthetic DENTISTRY編集委員
2009年
新大阪歯科衛生士専門学校卒業(歯科衛生士国家資格所持)
2010年
大阪大学歯学部付属病院歯科技工スーパーバイザー就任
新大阪歯科衛生士専門学校講師