アザラシは、トレーニングで口を開けることに慣れている。 しかし、獣医師が感染根治療をするには大きな問題がある。 その一つは、根管拡大の経験がないことだ。 もし、リーマーやファイルが歯グキに刺さったら・・・。 もし、口腔内に落としたら・・・。 もし、暴れて咬まれたら・・。 きっとそんなことを考えるに違いない・・。 これは歯科医師が、初めて治療を行う時と同じ気持ちだ。 例えば,小児歯科では・・。 子どもが泣くのでは・・と不安になると、必ず泣き始める。 麻酔をすると嫌がる・・と思った瞬間、察知され嫌がられる。 術者が恐ければ、相手はもっと恐い。 術者の緊張や不安は,瞬く間に伝染するのだ。 (図1) そこで筆者は、緊張を伝えないため、体の力を抜くように心掛けてきた。 しかし、獣医師に“緊張を伝えないように”と言っても、すぐにはできない。 何らかのトレーニングが必要である。 そこでいろいろ考えた。 リーマーやファイルに似た器具を使い練習すればどうだろう。 まず“針”や“金属製ワイヤー”。 しかし、先が尖っており、刺さると痛みを与える。 それに誤嚥させたら内臓を傷つける。 そこで思いついたのが、“爪楊枝”であった。 根管の出し入れだけなら、獣医師の心理的負担は少ない。 しかも、根管壁に当てて引き上げれば拡大の練習になる。 (図2) ここでの感染根管治療は、根尖まできっちり拡大することではない。 可及的に根管内をきれいにし、持続的な感染を防ぐことが目標だ。 実際、獣医師は爪楊枝を用い練習した。 おかげで、根管拡大や綿栓による清掃の手技などを短時間で習得した。 (図3) 次回に続く 前回の記事 動物園の動物達も高齢化 アザラシの歯根
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!
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