歯科医院を取り巻く環境は、日々刻々と変化しています。
現状をシビアに受け止めながら、必要な差別化戦略を行うことで、5年先、10年先も生き残る歯科医院に発展させることが可能となるでしょう。
今回は、歯科医院を取り巻く現状から分析の方法、差別化戦略のポイントについてご紹介します。
歯科医院を取り巻く現状
差別化戦略の前に、まず大切なことは現状把握です。
歯科医院を取り巻く現状について解説します。
コンビニより多い競合
厚生労働省の発表した「医療施設動態調査」によれば、平成27年以降、歯科医院の数は約68,000軒を超えていることがわかりました。
68,000軒は、コンビニの約55,500軒を上回る数値で、いかに歯科医院がかず多く存在しているかわかります。
さらに、国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口」(平成29年)では、2053年に9,924万人、2065年に8,808万人まで人口が減少すると推測されています。
今後、患者さんの数は減少し、必然的に競合と患者さんの取り合いになってしまう恐れがあると言えるでしょう。
医療保険制度改正による価格の上昇
団塊の世代が75歳以上になる2025年問題を含め、社会や経済の変化に対応するため、厚生労働省は「平成30年度診療報酬改定」を発表しました。
この改定により、診療報酬本体は+0.55%、歯科は+0.69%の価格上昇となります。
また、薬価では1.65%、材料価格0.09%の上昇率です。
支払う医療費が上昇すれば、歯科医院を受診する回数をできるだけ減らしたいという心理が働きます。
少ない診療回数で治療を行う技術の高い歯科医院を選ぶようになるかもしれません。
働き方の多様化
昨今、「働き方改革」としてこれまでの就業形態に限らない多様な働き方が推奨されています。
「失われた30年」と評される経済不況や少子高齢化社会の深刻化により、女性の社会進出が求められるようになりました。
男性だけでなく、女性もビジネスパーソンとしての実力を磨き、実力に応じた立場や役職を得ています。
これまでの歯科医院では、基本的に「院長を中心に、女性スタッフは補助」といった経営手法が主でした。
しかし、今は「院長に依存せず女性スタッフが主役」という形が増えてきています。
つまり、院長にはリーダーの立場から組織をマネジメントする能力が求められています。
差別化戦略に必要な「USP」という考え方
このような現状から、歯科医院は他との差別化戦略を図らなければ、今後生き残ることは難しくなるでしょう。
差別化戦略において、USPを持つことが必要不可欠です。
USPとは、「Unique Selling Proposition」の頭文字を取った言葉で、意訳すると「お客様に対して、自社だけが提供できる利益や価値」のことです。
1960年代にアメリカのコピーライターロッサー・リーブル氏が提唱した概念で、現在もマーケティングの一環で使われています。
例えば、ドミノピザは「できたてのピザを30分以内に宅配。30分以上かかれば、ピザの料金は無料」、QBハウスは「ヘアカットの時間は約10分。税込1,200円という格安料金」といったUSPを持っています。
USPを持つために、まず競合や自社の分析から始めましょう。
分析に使える有名なフレームワークを3つご紹介します。
3C分析
3C分析は「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」を分析するフレームワークです。
市場・顧客と自医院の関係性を明確にできます。
・Customer(市場・顧客)
患者さんの情報を集めます。
患者さんの年齢層や働き方、よくある症状、通院の悩みなどです。
・Competitor(競合)
ライバルとなる歯科医院を、患者さんの層、得意な治療、接客スキル、立地、営業時間といった観点から分析します
・Company(自社)
自院や院長の持つ価値について分析します。
Competitor(競合)と同様の項目で分析すると、違いがより明確になるでしょう。
4P分析
4P分析は、「Product(商品・製品)」「Price(価格)」「Place(流通・立地)」「Promotion(広告・宣伝)」の4つの項目で競合と比較・分析するフレームワークです。
・Product(商品・製品)
治療内容・技術、スタッフの接客、プレイルームなどのサービスに当たります。
・Price(価格)
治療費や治療に関連する物品費用などが該当します。
・Place(流通・立地)
歯科医院の立地や周辺の公共交通機関の利便性などです。
患者さんの歯科医院への通いやすさを比べます。
・Promotion(広告・宣伝)
どの広告媒体をどのくらいの予算で使用しているか、その広告によってどの程度患者さんから認知されているかを競合と比べます。
SWOT分析
SWOT分析とは、内部環境の「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」と外部環境の「Opportunity(機会)」「Thread(脅威)」の4項目から分析するフレームワークです。
SWOT分析により、ビジネスチャンスを明らかにし、マーケティングや事業戦略を立てます。
・Strengths(強み)
「院長が患者さんの話をよく聞く」「義歯を得意とする」「接客の良さ」といった自医院の優れている点です。
・Weaknesses(弱み)
「診療時間が長くなる」「患者さんのプライバシー配慮が不足」「歯科衛生士がいない」といった弱点です。
・Opportunity(機会)は、「立地が良いと評判」「自費治療内容が患者さんのニーズとマッチしている」といったチャンスのことです。
・Thread(脅威)
「競合の数が多い」「仕事帰りの患者さんが少ない」といったリスクに当たります。
こういったフレームワークを活用して、自医院や競合の分析を進めていきましょう。
歯科の差別化戦略に必要なポイント
差別化戦略を目指す上で必要なポイントについて解説します。
スタッフ教育戦略
院長だけでは差別化戦略を行うことはできません。
スタッフや勤務医の力が不可欠です。
スタッフや勤務医のモチベーションを高めて、能力を伸ばしていきましょう。
場合によっては、彼らの給料や休暇といった待遇を見直す必要があるかもしれません。
他の医院と比べて、接客や技術レベルの良い医院を目指しましょう。
広告宣伝戦略
広告や宣伝にどう注力するかで、集客効果が変わります。
自社や競合の患者さんの分析を踏まえ、患者さんのニーズや特徴に合った広告・宣伝を行いましょう。
例えば、主婦の患者さんが多ければ、主婦の利用しやすいスーパーや飲食店などでPRしてもいいでしょう。
学生が多ければ、SNSを利用したPRが効果的かもしれません。
患者さんに「この歯科医院に行きたい!」と思わせる広告宣伝を行いましょう。
リピーター戦略
「一度治療はしたけど、あの歯科医院にはもう通いたくない」と患者さんに思われては、競合の医院に患者さんが流れてしまいます。
「困ったらあの歯科医院に通おう」と思われるためには、痛くない治療技術や気持ちの良い接客、待ち時間を感じさせない配慮など、リピートしたくなる工夫をしましょう。
また、自院を分析する際に、患者さんへのアンケートで「なぜ通っているのか」回答をもらうと参考になるでしょう。
ブランディング戦略
自院の見せ方によって、患者さんからの歯科医院に対するイメージが変わります。
経営方針も考慮して、どのようなブランディング戦略を行うか決めていきましょう。
例えば、「高度な技術を、高級感や上質感の溢れる医院で提供する」「3世代で気軽に行きやすいアットホームな医院」などです。
ブランディング戦略に合わせて、医院のホームページからスタッフの服装、内装、院長の話し方まで、構築していきましょう。
特にホームページは、自院の看板になるためブランディングを反映したデザインにしておくといいでしょう。
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価格戦略
保険診療では、診療報酬が国から一定に定められています。
しかし、自費診療であれば、自院で自由に価格設定することが可能です。
得意な技術を活かせるよう、競合との差別化を図っていきましょう。
まとめ
競合数の増加や人口減少に伴い、歯科医院の競争は今後も厳しいものとなります。
今回お伝えした3Cや4P、SWOT分析を土台に、クリニックを分析し、競合にはない独自の魅力を打ち出していきましょう。