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コラム

高齢者のセルフケア指導は歯科の腕の見せどころ~自身の介護経験から学んだ高齢者口腔ケアのあり方~

高齢者のセルフケア指導は歯科の腕の見せどころ~自身の介護経験から学んだ高齢者口腔ケアのあり方~
高齢者のセルフケア指導は歯科の腕の見せどころ~自身の介護経験から学んだ高齢者口腔ケアのあり方~
超高齢化にともない、高齢者の口腔ケアが大きな問題になってきています。今回は、宝田恭子先生に有効な口腔ケアツールや患者さんとの向き合い方など、ご自身のお母様の介護経験から得たさまざまな気づきについてのお話を伺いました。

加齢による課題の解決に最適

私自身が母の介護をした経験から、高齢者の方のセルフケアに提案しているのが、エアーフロスです。加齢などによって、顎骨の骨梁構造は徐々に小さくなって歪みが生じるもの。顎骨構造が変化することで、歯の角度は変わってしまいます。そのため、歯と歯が重なるなどしてフロスが入りにくくなったり、歯間にフロスが詰まったりしてケアが煩雑になりがち。エアーフロスはセルフケアに取り入れられやすい点はもちろん、使いやすさの点でもおすすめしています。 また、電動歯ブラシや電動デンタルフロスの利点は、握力が弱くても使えるところ。私の孫もソニッケアーキッズを使っています。ハンドルが握りやすく、電源スイッチなどが大きいので操作も簡単。この点では、高齢者やリウマチの患者さんなどにもおすすめです。患者さん自身が工夫すること、何より継続して使えるならキッズを使用しても良いと思っています。その患者さんに合うものかどうかを一緒に考えてあげるのも歯科医の努めですから。 残念ながら、歯科医院でのプロケアには限界がある。セルフケアを強化するためには、継続して指導するのは当然ですよね。「何度でも相談に来てください」という一言を添えること。そして、きちんとセルフケアができていたら、できている部分を褒めることが継続するためのポイントだと思います。

効率的な部分使いで無理なく継続

最近は、歯みがきと歯間ケアの指導で、歯科の腕が試されると感じています。宝田歯科は三代目で、患者さんの多くは60歳以上です。歯間ケアの方法はそれぞれですが、こちらが勉強させられるくらいデンタルIQが高い人もいます。意識の高い方に共通しているのは、食習慣が整っていて、自分の歯並びや詰まりやすい箇所をよく知っている点。さらに、最初に歯間をきれいにしてから歯を磨くという方もいます。食物残渣の下に残ったプラークは除去が困難。最後ではなく最初にエアーフロスで植物残渣を除去して、歯間の風通しをよくするのはとても効果的です。 ただ、億劫だと感じて続かなければ意味がありません。無理なくケアを続けるためにも、全ての歯間に使う必要はなく、特に歯ブラシでケアしづらい箇所や詰まりやすい箇所にだけ、補助的にエアーフロスを使えばいいと考えています。 「大人の虫歯は根の虫歯」といわれますが、これには食習慣の乱れが大きく関わっています。高校生までは授業や部活があるから食習慣が乱れにくい。ところが、大学生になると不規則になりがちです。また、子育てや仕事から解放される50~60歳からは、自由な時間ができて、食習慣が乱れてしまう人が多いようです。この自由な時間をケアに使ってほしい。人間は誰しも、普遍的に老化します。歯だけではなく、加齢とともに自分の身体をケアする時間は増えるはずです。「こんなに磨いているのに治らない」という方は、食習慣から見直さなければなりません。もう一つ、自分自身がケアして気持ちよく生活できるようになったら、例えば介護される側の気持ちも理解できますし、してあげたいという気持ちにもつながると思います。

本人・家族にとって幸福な選択をするために

高齢者施設や病院などでは、歯のケアにまで手が回りきらないという現状があります。本人や家族によるケアができれば、多くのメリットがあるということ。ただ、歯ブラシ1本で十分なケアをしてあげられるかと考えた時に、エアーフロスを含めさまざまな選択肢があることを早い段階から知っておいてほしいですね。 介護をする側にとっては、実は総義歯の方がケアしやすいという話も耳にします。実際、私の母は、80歳を過ぎても全部自分の歯を保っていましたが、歯肉が下がって歯間鼓形空隙ができ、結果としてケアは複雑になっていました。ただ母は、食事に補助が必要な人や義歯が合わずに痛い思いをしている人が多い中で、「全部自分の歯なんです」と常々周囲に話すほど、それがとても誇らしかったようです。 たとえ我が子であっても介護される側は遠慮してしまうものだし、施設に会いに行くだけしかできないのは家族にとってもつらいもの。そんな時に、何か役立てることがあると、介護する側も救われると思います。私自身がきちんとしてあげたいと思ったし、患者さんやご家族の同じような思いを支えたいですね。

生活全体における口腔ケアのあり方を考える

健康長寿の社会を実現するためには、歯科だけではなく、持病の有無や食事のバランス、生活習慣や睡眠の質などを含め、生活全体における口腔ケアを考える必要があると思っています。例えば、高齢になって姿勢が悪化し、噛み合わせが悪くなったり呼吸が浅くなったりして、ひいては身体の他の機能に悪影響が及ぶ可能性も。歯だけを見ていては分からないことが見えると、患者さん一人一人によりマッチした的確なアドバイスができるのではないでしょうか。 患者さんには、生きている限り、宝田歯科まで自分の足で歩いて通ってほしいと思っています。補助なしに自力で通院している人はごく少数。でも、颯爽と歩いて通院できるというのは、美しい人生ですよね。言葉で語るほど簡単ではありませんが、それが実現できてこその健康長寿社会だと思います。

可能性が広がるレーザー治療

現在、特に着目しているのがレーザー治療です。歯肉縁下への施術や抜髄処置など、骨造成治療に使用していますが、何より明視野での外科処置が可能になったことで、より確実な治療ができます。有病者や高齢者の方にも使用できる点もメリット。治療時の無痛効果だけでなく、仕上がりの美しさも含め、患者さんにも違いを感じていただいています。 例えば、クラウン部分の臭いが気になるという患者さんに対して。クラウンを外して根管充填もやり直してもまだ「気になる」とおっしゃるので、歯周ポケットは2mm以内でしたが、レーザーを使用して蒸散したところようやく効果が見られました。予後の治癒促進や歯周病の再発防止効果など、多くの可能性を感じています。 東京都江戸川区 宝田歯科医院

著者宝田恭子

宝田歯科医院 院長

略歴
  • 1956 年東京都生まれ
  • 東京歯科大学卒業、同保存科勤務後、
  • 宝田歯科三代目を継承する。
  • 日本アンチエイジング歯科学会 監事
  • 認定バクテリアセラピスト,メディカルアロマセラピー研究会
  • 日本睡眠改善学会,認定睡眠改善インストラクター等
  • 現在も毎日診療を欠かすことなく、著書、講演会活動の他、
  • 「ソロモン流」「徹子の部屋」「おしゃれ工房」等 さまざまなテレビ番組に出演。
宝田恭子

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