臨床家の座右の書として間違いなく必携の一冊
別冊ザ・クインテッセンス『エンド・マテリアルセレクション 12人のプロフェッショナルによる抜髄・感染根管治療テクニック』
歯科治療は「道具」がないと始まらない。評者が専門とする口腔外科においても、剥離子や鑷子の選び方で手技の効率が断然変わる。本書はこの道具選びに主眼をおいた新しいコンセプトの書籍である。
監修者の辻本恭久先生は歯内療法の専門医であり、マイクロスコープ診療の世界的大家でもある。その辻本先生は、今や会員数2,000名を超えようとしている日本顕微鏡歯科学会(JAMD)を立ち上げ、その発展に尽力し、多くの後進を育てた。
評者もその一人で、そのような泰斗の渾身の書を評する栄誉に浴するのは幸甚の至りである。コロナ禍で学会やセミナーが軒並み中止となり、臨床家は学ぶ場を断たれた。このような時代に上梓された本書は、まさに究極の誌上セミナーである。
本書では、選ばれしエンドの達人12名が、臨床応用しているツールや材料を惜しみなく紹介しており、読者はその貴重な情報にいつでもアクセスできる。構成もよく考えられており、初めから順に読み込んでいくも良し、興味のある臨床家の章を深く追うのも良しで、エンドの百科事典としての価値が高くなっている。
章立ては、それぞれの筆者がエンド治療の基本コンセプトを説明し、ひとつの症例を供覧しながら、各ステップで使用しているツールやマテリアル、その入手経路を写真とともにつぶさに解説している。また、ポイントとなる手技では、本書の図をスマートフォンでキャプチャーするとその動画を視聴できるという機能がついている。
評者は、抜歯してインプラントを埋入するという立場だが、患者にとっては治療により自分の歯が残ることは、喜び以外の何物でもない。歯を保存するスキルに関しては他の追随を許さない達人が使う道具は、こんなにも違うのか、と読み進めるほどに面白い。
臨床は「結果を出してナンボ」という世界で、どのようなツールを使おうが永続性のある歯内治療が達成できればよいのも事実である。しかし、本書の著者で評者も教えを乞うた清水藤太先生が本書で述べているように、著者たちは使用するツール類をつねにアップデートしている。そのため、現時点の最新最良のマテリアルを本書で知る意味は大きい。
千利休が顕した、武道、芸道の精進法を示す「守破離」という言葉がある。修行に際し、師匠から教わった型をまず徹底的に「守り、,次に自分に最適な型を模索して既存の型を「破り」、最後には師匠と自身の技をよく研究して型から「離れ」新たな流派を生むという意味である。この講師にエンドを教わりたい、と思ったら、その先生の使用する道具や材料のすべてを真似るのが「守」だ。
評者:柴原清隆
(福岡県・柴原歯科医院太宰府インプラント研究所)
辻本恭久・監著
阿部 修/笠原明人/北村和夫/澤田則宏/清水藤太/武市 収/辻本真規/寺内吉継/中川寛一/坂東 信/山田國晶・著
クインテッセンス出版
問合先:03‐5842‐2272(営業部)
定価:7,040円(本体6,400円+税10%)・144頁
「歯周治療における有効なアプローチ法がひとつ増えた」と感じる一冊
『歯科医院でもできる! 口臭ケア口臭専門医が教えるお口のにおいの対応法』
本書を拝読した後、最初に感じたことは「歯周治療における有効なアプローチ法がひとつ増えた」ということであった。歯周治療を成功に導き、患者の口腔内の健康を長期にわたって良好に維持していくためには、患者のモチベーションの向上と患者-術者間の信頼関係の構築が欠かせない。しかし、歯周病はほとんど無症状のうちに病状が進行するため、患者に治療や予防の必要性を認識してもらうことは容易ではない。
本書のテーマである口臭は日本人の80.6%が気にした経験があり、つねに歯や口の悩みの上位にあるという。そして病的口臭といわれるものの多くが歯や口腔内の問題に起因するもので、歯周病も口臭の原因のひとつである。しかし、口臭に関しては客観的評価が難しく、原因も多様なので、評者はこれまで歯周治療の診査項目としてあまり重要視せず、患者の訴えに対して曖昧な対応に終始していた。本書により口臭の知識を身につけ、患者の悩みに誠実に対応することで、患者の歯科的問題への理解を深め、治療への協力度と信頼関係が高まることを認識できた。
また、病的口臭には耳鼻咽喉科疾患や糖尿病などの全身疾患に起因するものもあるので、口臭ケアがさまざまな疾病の発見、治療につながり、「緊密な医科歯科連携から患者の健康回復、増進に寄与する」という歯科医療の方向性も示されている。
他にも口臭はその他の諸症状とは違い、自覚症状だけでなく第三者が認識できる他覚的症状があり、心理的因子も大きく、時として難しい対応に迫られることがある。口臭検査などで口臭がないと診断されても、においへのこだわりが強く、社会適応に支障が出るような心理的因子の強い患者に対しては、カウンセリングや精神科医への紹介など専門的な心理的対応が必要になることも多い。本書で解説されている心理的アプローチとコミュニケーションは、患者を想い、患者に寄り添いながら、科学的手法を用いて患者の性質や不安の大きさなどを的確に把握し、治療に反映していくという内容で、心因性の患者だけでなく、日常臨床で向き合う一般の患者に対してもぜひ、取り入れたい方法である。
本書は総論編、実践編、実例編の3編構成となっている。総論編では口臭の基礎知識を解説し、実践編では一般歯科医院でできる口臭ケアと口臭専門外来での口臭治療を詳説し、一般歯科医師が身につけるべき知識と対応法が示されている。実例編では実際の患者の検査データなどを提示して、どのように診断し、治療したかが具体的に紹介されており、口臭治療の流れを理解することができる。さらに、巻末には患者啓発用の冊子まで付録として添付されている。
本書にはいたるところに「患者が口臭の悩みを安心して歯医者さんで相談できるように」という著者の願いが詰まっている。
ぜひ、多くの方がたに本書を手に取っていただき、その願いを感じていただきたい。
評者:佐々木 猛
(大阪府・医療法人貴和会 新大阪歯科診療所)
福田光男・著
クインテッセンス出版
問合先:03‐5842‐2272(営業部)
定価:6,600円(本体6,000円+税10%)・112頁+付録冊子8ページ
歯肉退縮と根面被覆術に対する知識を一から整理できる1冊!
『イラストレイテッド 安全・安心・確実 根面被覆術ドクターの「ここが知りたかった!」が満載』
歯肉退縮は、多くの患者の口腔内に認める病態である。患者自身が自覚していないものも含めると,診療室で歯肉退縮を見かけない日はない。しかし、日頃から歯肉退縮についてよほど意識していない限り、何が原因でどのような治療が必要なのか、または経過観察で問題ないのかなど、自信をもって患者に説明することは難しいのではないだろうか。その結果、適切な診断や指導、治療方法の提案の機会を逸してしまっていることが多いように思う。本書は歯肉退縮の原因から考え方、手術を行う前に押さえるべき点など、まさに著者自身が「基本の基」から記したというとおり、歯肉退縮と根面被覆術に対する知識を一から整理することができる1冊となっている。
まず第1章では、歯肉退縮の原因から根面被覆術の考え方、適応症などについてまとめられている。実際に手術をされることが少ない先生であっても、本章を読むことで歯肉退縮の見方や患者への説明が変わってくるだろう。
第2章では、根面被覆術を行う際のフローチャートが示されており、術前に確認しておきたいポイントや術式選択に必要な知識を整理することができる。また、手術の各ステップの説明とともに、著者が実際、手術前に患者に行っている説明が示されており、アポイントの取り方やブラッシング指導、起こりうる合併症についてどのように伝えているかが具体的に記述されている。切開,剥離といった術式の確認はもちろん大切であるが、説明や患者管理の勘所というのは,時に治療の予後や患者との信頼関係に大きな影響を与えることもあり、ぜひ真似をするところから取り入れていきたい内容である。
第3章から第6章では、Coronally positioned flap,Modified Langer technique、結合組織移植片を用いたその他の術式,Free gingival graft を用いた術式について、臨床写真とともに各術式がステップごとに説明されている。また、著者の各術式に対する臨床実感が添えられており、それぞれの術式の具体的なイメージや予後を疑似体験することができる。
著者である松井徳雄先生とは勉強会などでご一緒させていただくことが多い。評者も松井先生の歯科臨床に対する熱く真摯な姿勢、お人柄から多くのことを学ばせていただいている1人である。本書からは、JIADSの講師として長年、臨床と教育の第一線で活躍されてきた著者ならではの豊富な臨床例と長期経過を供覧できることもさることながら、著者の「多くの先生方に実践していただき、良い治療結果を出してほしい」「手術を受けた患者さんに満足してほしい」という思いが伝わってくる。"安全・安心・確実"に結果を出すための工夫が紙面のあらゆるところに盛り込まれており、読者の先生方もイラストやフローチャート、臨床写真を見ていくうちにポイントを押さえることができるだろう。ぜひ手元に置いておきたい1冊である。
評者:関根 聡
(埼玉県・関根歯科医院)
松井徳雄・著
クインテッセンス出版
問合先:03‐5842‐2272(営業部)
定価:8,800円(本体8,000円+税10%)・92頁