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地域に求められる歯科医院の未来 第2回:地域医療のための経営を考える

地域に求められる歯科医院の未来 第2回:地域医療のための経営を考える
地域に求められる歯科医院の未来 第2回:地域医療のための経営を考える

経営とは未来を計画し実行すること

私は「はち歯科医院」の理事長として、日々35名の従業員と地域医療に邁進しています。実は最初から35名も雇用することは考えていませんでした。クリニックを運営するにあたり、たくさんの悩みが溢れてきて、さまざまな問題がでてきました。銀行借入れや支払いなどのお金の問題、ユニットやCTや日々使う材料などどうやって決めるべきか?などのモノの問題、採用や教育、患者さん対応などのヒトの問題……。本当に毎日問題が発生しては火消しするという日々が続き、良い歯科医療を提供したいのになぜ邪魔されるのか、と従業員に対して不満を感じることもありました。 そのような時、経営者の友人たちと食事に行き、私が従業員の愚痴をこぼすと、友人から一喝されました。 「自分で経営しているから、お前の問題やん。それを従業員の問題にすり替えているだけだよ」さらには「経営を軽く見ているでしょ。自分の技術さえ向上すれば良い経営ができると思ってない?」と言われました。その時はカチンときましたが、何も言い返せずに苦笑いしかできませんでした。 その後、縁があって経営を学ぶことになりました。経営学修士(MBA)をとって気づいたことは、従業員を一人でも雇用すると、臨床と同様に経営が大事だということでした。当院では、私より技術が高いドクターや専門医の先生がいます。しかし、組織の最終的な舵取りは私しかできませんので、今の私は経営のことを考える割合が大きくなりました。経営と聞くと、以前の私がそうだったように、まずお金のことを考えるという印象が多いのではないでしょうか。実際に経営大学院で学ぶことは、ざっくりいうと、「志、ヒト、モノ、カネ」です。志の講義では自分が何を成し遂げたいのか?と自問自答を繰り返します。カネ系の講義では、現在のお金の回り方から未来を想像して経営計画を立て、モノ系ではオペレーションを学び、ヒト系では人のマネージメントや教育などを学びます。歯科業界以外の業界のことをロールプレイングで学びました。そして、経営は計画を立てて実行することだと教わりました。 私たちは、患者さんに歯科治療を提供する前に治療計画を立てます。歯科医師の先生は、フルマウス治療などで、どのような咬合平面や咬合を付与させるのか、その人の個性にあった審美性は何かを考慮し、そこからどのような材料や手技、タイミングで治療を進めるのか、など、患者さんの現在と未来を考えて治療計画を立案されていると思います。 経営も考え方は同じです。地域の未来や組織のビジョンを考えて、どのような組織や成長スピードにするべきなのか。そこから、スタッフ数や理想とする人材、どのような治療器具が必要で、どのくらいお金はかかるのかなど、治療はもちろん経営するうえでも、未来を計画することが一番大事です。一人の患者さんを幸せにすることも、地域を幸せにすることも、原理原則は一緒だと考えています。そして経営の未来を計画する資料を事業計画と言います。 2016年入社式。半年前から準備にとりかかる。

地域医療を実現させる事業計画

私は地域医療を行ううえでもっとも大事な事業計画の要素はヒトの計画だと考えています。ヒト、モノ、カネの計画の中では圧倒的に、ヒトの計画の見通しが困難です。歯科医院経営は他の事業に比べて倒産するリスクがとても低いからこそ、銀行から長期借り入れを行うことができます。それを元手に、ユニットやCTなどモノの計画を立てることができます。モノとカネの計画は立てやすいですが、お金を出すからといってヒトの計画が立つわけではありません。また、地域医療は都会に比べて、自由診療で売上を上げることは難しいので、ヒトにかけられる費用は都会よりも少なくなります。 そこで、どうやって多くの優秀なヒトに地方に来てもらい、一緒に働いてもらえることができ、そしてできるだけ長く働いてもらえるのか、ここが地域医療のなかでもっとも大事な事業計画だと思っています。特に歯科医院は女性が活躍する職場なので、職場環境や産休・育休などの制度設計もとても大事です。それと同時に、経営者の地域医療に対する想いやビジョンがとても重要になります。 入社した際には必ず従業員に配布する「はち歯科の教科書」(現在Ver.5.0)。 どうしてこの地域で開業するのか、どのような医療を行い地域に貢献するのか? 優秀な医療従事者は待遇などの雇用条件だけでは動かないと私は思っています。そのために、経営者の志を具体的に示す必要があります。その志に共感してくれる従業員だからこそ共に働き、共に成長でき、信頼し合える環境を作れると思います。とはいえ最初にどのような仲間とともに仕事をしたいのかについては、経営者しか決められません。私は自分の考えを記載した「はち歯科の教科書」という物を作って、スタッフ全員に配っています。なるべく毎年アップデートします。この教科書で、経営者と従業員の共通言語を作り、互いに意見を交換し、共にアップデートを行います。このように、組織の文化風土を年月をかけて構築することが組織成長には必要不可欠です。 事業計画のもっとも大事な部分は経営者の志であり、それを言語化することが大事だと学びました。人を救うことを学ぶ医療従事者は普通の人よりも「志」が備わっていると思っています。だからこそ、自分の中にある想いを言語化するだけで十分だと考えています。(つづく)

著者馬場 聡

医療法人星樹会 はち歯科医院理事長(福岡県大野城市)
経営学修士(MBA)

略歴
  • 福岡歯科大学卒業。
  • 九州歯科大学臨床研修医修了後、福岡県の歯科医院にて勤務。
  • さくら歯科医院を継承後、はち歯科医院として開業。
  • 後に医療法人星樹会 はち歯科医院とし、現在に至る。
馬場 聡

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