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親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん 第11回:親知らず 抜歯後感染は 若い女子

親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん 第11回:親知らず 抜歯後感染は 若い女子
親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん 第11回:親知らず 抜歯後感染は 若い女子
親知らずを抜いた後、いちど腫れてからひいてきていたのに、再度腫れて痛んだり膿が出たりすることがあります。まるで「経過不良」のようですが、「抜歯後感染」というそのままズバリの病名があるくらいに多く起こり得ることであり、「想定内」ともいえます。

親知らずが生えてくる頃には、むずむずと気になったり、歯並びが悪くなってきたりすることがあります。そして歯科に行くと、レントゲンを撮って診査となります。まだそれほど問題のないほど奥にある親知らずであれば、「もう少し様子をみて、生えてきたら抜きましょう」となることが多いかと思います。これは、埋まっている親知らずの根の先に神経と血管の幹があり、親知らずの根がこれに近いと抜歯時の偶発症のリスクがあがるから、という判断が多いかと思います。

一方、親知らずの一部が既に口の中に見えてきている、ほとんど生えそうなところまできている、前の歯にひっかかってこれ以上は動かなそう、という時には、「ちょっとたいへんですが抜きましょう」となると思います。

この時の偶発症のリスクにおいては、主に根の先にある神経や血管に影響を及ぼすリスクを考えており、抜歯後感染のリスクについてはあまり検討されていないと思います。しかし、これらは実は、ほぼ同時に考えられなければいけないリスクです。

親知らずの頭の一部が出ていたり、もうほとんど出そうになっていたりする場合は、歯を抜いてから歯ぐきを縫っても、親知らずが入っていた骨のくぼみの上の歯ぐきがピタっと寄ってくっついて治ることはなく、少なからず穴が開きます。すると、抜歯後しばらくの間、抜いた骨のくぼみに食べかすやばい菌が入ります。とはいえ、歯ぐきに穴が開いている場合には、骨のくぼみの中でばい菌は繁殖しにくいです。うがいをすれば、少なからず水がくぼみの中に入って洗われますし、骨のくぼみは中のばい菌を押し出すような形で奥から治ってきて歯ぐきの穴が閉じてきます。つまり、歯ぐきに穴が開いている場合は「ばい菌は入るけれども出てもいく」ということとなります。骨のくぼみに汚れがしっかり詰まってうがいの水でも洗えないような状態となると痛みが出ることはありますが、大きく腫れて膿が出るようなことは稀です。

一方で、骨の中に深く埋まっている親知らずだと、最初に歯ぐきをどけて、次に骨をどけていって歯を見つけ出し、なんとかかんとか歯を抜いてから歯ぐきを戻して縫うこととなります。このような場合は歯ぐきがほぼ完全な蓋のようになり、骨のくぼみの中よりも早く治ってしまいやすくなります。結果、骨のくぼみに残ったばい菌が押し出されてくる前に歯ぐきの穴が閉じてしまい、骨のくぼみにばい菌が取り残され、そこで繁殖して抜歯後感染となってしまうのだろうと考えられます。

ですから、縫うと歯ぐきが完全に閉じてしまいそうなときには、敢えて歯ぐきの一部を少し切り取ることにより穴がふさがるのを遅くする方法もあります。とはいえ、歯ぐきの穴は早く閉じたほうが食べかすが入らなくなって不快ではなくなりますので、どちらを優先するかは判断が分かれるところです。

ところで、親知らずを抜いた後の「抜歯後感染」は、なぜか若い女子に多いのです。どうしてでしょうか?

言い換えれば、若い女子のほうが、親知らずが「まだまだ深い位置に埋まっている段階で歯を抜くことが多い」ということとなります。それは、「女子のほうが、歯並びが気になって歯の矯正相談に行ってレントゲンを撮る年齢が早いから」という背景があるのではないかと思います。

親知らずが痛む場合は、たいていは「親知らずが生えてきて前の歯を押している」か「親知らずの頭の一部が見えてきてその周りの歯ぐきとの隙間にばい菌が繁殖して腫れている」ときです。逆にいえば、抜歯後感染になる場合は、親知らず自体には何の症状もなかった場合が多いわけです。痛くもなんともなかった場合に、抜歯からしばらくしてから腫れると「経過不良!?」と受け取られてトラブルになり兼ねないので、抜歯後感染のリスクについても抜歯前にていねいに説明するようにしています(未成年の場合は親権者も含めて)。

なお、抜歯後感染が起きるのは、親知らずを抜歯してからおおむね1か月後くらいまでです。そのくらいまでに、骨のくぼみはおおむね肉に置き換わり、ばい菌が繁殖する環境ではなくなるのだろうと思います。ですから、左右を連続して抜歯したい場合においても、片方を抜歯してからおおむね1か月は開けてから反対側の抜歯予約とするように、お勧めしています。

ちなみに、「親知らずのせいで歯並びが悪くなってきた」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、以前もご紹介したとおり、親知らずの歯の根が伸びるのは25才までという報告があります。ですから、25才になったらもう、親知らずそのものが前の歯を押す力はないはずです。それでも歯並びが変わってきたとしたら、全体のかみ合わせの問題か、歯の骨が弱くなってきたか、他の要因も含めて考えるべきと思います。

年齢があがると、体の病気になったり骨が硬くなったりして、いろいろな問題が出てくることもあるので、親知らずは抜くなら若いうちに抜いた方がよいことを、前々回前回とご説明しました。

しかし、あまり若いと、まだまだ親知らずは骨の奥の方にあり、「抜歯後感染」にはなりやすくなります。

一般に親知らずは、生えてくる20才前後に抜歯をすることが多いです。ただ、歯並びや矯正歯科治療を目的に抜歯する方は、早い方では11才くらいからいらっしゃいます。その頃は女子のほうが成長が早いからなのか、女子のほうが気にされるからなのかはわかりませんが、11~16才の完全に埋まっている親知らずの抜歯は、女子しか担当したことがないように思います。とにかく、深い位置で歯ぐきの穴が先に治ってしまいそうであれば、「抜歯後1か月あたりで抜歯後感染が起きるかもしれず、その時にはこのような追加治療が必要となります」とも、抜歯前に説明しています。

著者中久木康一

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 救急災害医学分野非常勤講師

略歴
  • 1998年、東京医科歯科大学卒業。
  • 2002年、同大学院歯学研究科修了。
  • 以降、病院口腔外科や大学形成外科で研修。
  • 2009年、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面外科学分野助教
  • 2021年から現職。

学生時代に休学して渡米、大学院時代にはスリランカへ短期留学。
災害歯科保健の第一人者として全国各地での災害歯科研修会の講師を務める他、野宿生活者、
在日外国人や障がい者など「医療におけるマイノリティ」への支援をボランティアで行っている。
著書に『繋ぐ~災害歯科保健医療対応への執念(分担執筆)』(クインテッセンス出版刊)がある。

中久木康一

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