TOP>コラム>地域に求められる歯科医院の未来 第5回:地域医療における外部環境とHRMシステムとの整合

コラム

地域に求められる歯科医院の未来 第5回:地域医療における外部環境とHRMシステムとの整合

地域に求められる歯科医院の未来 第5回:地域医療における外部環境とHRMシステムとの整合
地域に求められる歯科医院の未来 第5回:地域医療における外部環境とHRMシステムとの整合

HRMとは

HRM は、Human Resource Managementの略称で、人的資源管理や人材の管理の意味です。人材を経営資源として捉え、有効活用するための仕組みを体系的に構築・運用することを指します。具体的には、企業戦略を実現するために必要な人的資源を明確化して、採用・配置・育成・成果につなげることです。 この考え方は、人は管理だけをするモノと同じ扱いではなく、人は教育・訓練や育成のあり方次第で、企業にとって非常に重要な資源になりうるという考え方で、医療にとってはまさに大事な考え方だと思っています。 例えば、採用には中途採用と新卒採用があります。新卒採用を行っている企業はHRMという考え方が必須になってきます。なぜなら、新卒採用の社員は最初は何もできませんが、時間をかけて育成していくことで、非常に強固な人材になり得るからです。

HRMシステムの概要

HRMシステムの具体的な内容はとても単純で、採用、育成、配置、評価、報酬、退職の6つから構成されています。採用は人をジョブマーケットから選定し組織に受け入れることです。配置はどのポジションで働いてもらうかを決め、評価は与えられた仕事に対する出来を図ることです。報酬は給与決定のためのテーブルを決め、育成はその名のとおり人材を成長させて組織にとってより重要な資源にし、退職は組織からの離脱をしたり、させたりすることです。 歯科医療業界は働くヒトの問題を抱えていることが多く、私も相談をよく受けます。歯科衛生士が採用できない、辞めてしまう、教育が難しいなどです。実情、歯科衛生士の新卒者の有効求人倍率は20.7倍、全体の有効求人倍率は3.7倍と他の業種に比べて高く、そもそもジョブマーケットからの選定が困難なので、採用が難しいという側面もあります。だからこそ、HRMシステムを理解し、しっかり運用する必要があります。HRMシステムの6つは整合させて運用する必要があります。 人材・組織戦略の全体像

HRMシステムの自社での位置づけと外部環境との整合

上図にあるように、HRMシステムは当たり前ですが、理念ビジョンのもとに構成されるものです。どのように育成するか?は医院の理念や理想から、従業員のあるべき姿が導きだされます。歯科医院はとても小さな企業体です。だからこそ一番大事なのは採用と退出だと考えます。採用にコストやエネルギーをかけることは避けられないと思います(もちろん、採用にもルールがあります。それはまたの機会に)。退出はあまり重要視されていませんが、組織に合わない人をきちんと次のフィールドで活躍してもらうようにするような仕組みはとても大事だと思っています。入職してからの試用期間はその役目を担います。また、既存のスタッフが自社の文化風土をつくり、守り続けることですれ違いなどでの退職を防ぐことができます。 さらには、今の時代は大きく外部環境が変わり、それにより組織自体が柔軟性をもって変わり続けることを求められます。外部環境とも整合することで、理念ビジョンは浸透し、その根幹にあるHRMシステムはより組織を強固にしていきます。このように、採用だけで戦略を練るのではなく、一貫性を持って組織をつくり上げることで組織としての真の価値観を創造できるのではないでしょうか。

地域医療をベースにするHRMシステムの実際

はち歯科医院の医療コンセプト 地域医療をベースにする当院では、はち歯科医院の理念に基づき、医療コンセプトを「地域医療×家族×教育×物語」と定めています。採用に関しては、開業して3年目から新卒採用をメインにし、8年間新卒を採用し続けています。教育システムはスタッフとともにつくりました。 毎年マイナーチェンジを行っており、私は心の教育がメインの「はち歯科の教科書」をバージョンアップさせています。配置も従業員が20人を超えてから、活用できるようになりました。歯科助手だった従業員を受付に配置転換したり、訪問事業を始めた時は、訪問事業に配置転換したり行っています。評価制度をしっかりつくっているわけではないですが、大事な時には時間をとって1対1でコミュニケーションをとり、評価を行います。医療では患者さんからの評価もいただけるので、従業員のモチベーションはおのずと高まると感じています。 報酬は外部環境の影響もありますが、そこをしっかり行うことは経営者の役割です。退出は当然あります。私はそのほうが循環できると考え、前向きに捉えるようにしています。クリニックの成長段階で必要な人材も変化していきますので、組織と個人お互いが成長できる環境でなければ、退出は必要な施策です。新卒採用を本格的に始める時は、教育システムの構築や評価、報酬の整合性を図ったりたいへんでした。今となっては、早く実施できて良かったと思っています。また、新卒採用に切り替えてからの3年間は退出も多く大きく変化してきました。今では、新卒採用者が1/2以上になり、組織にとっての良い組織文化が形成されているのを感じています。歯科医院は急激に成長させる業態ではないからこそ、人を増やし成長させていくことを計画的に行う必要があります。 今、私が大事にしていることは向き合うことです。従業員が多くなると、1人1人とのコミュニケーションが少なくなるので向き合う時間をつくり、ともに前に進めるよう対話を重ねています。前述した内容はすべての組織に当てはまるわけではありません。組織によって、選択し実行する戦略は違ってきます。私が参考にしたのは、同じ規模の組織です。それは歯科に限りません。多くの組織の事例を知ることで、必ず自社にあった仕組みを構築できると思います。 はち歯科医院の各種イベント

著者馬場 聡

医療法人星樹会 はち歯科医院理事長(福岡県大野城市)
経営学修士(MBA)

略歴
  • 福岡歯科大学卒業。
  • 九州歯科大学臨床研修医修了後、福岡県の歯科医院にて勤務。
  • さくら歯科医院を継承後、はち歯科医院として開業。
  • 後に医療法人星樹会 はち歯科医院とし、現在に至る。
馬場 聡

tags

関連記事