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親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん
第7回:親知らず 移植の判断 難しい

2021/10/28 デンタル〇〇デザイン

「歯の移植をお願いします」といらっしゃる方は、少しずつ増えています。歯の移植は、ちょっと治療に時間もかかりますし、短期的にはうまくいっても長期になってくると影響が出てくる場合も数%ありますが、あくまでも自分の歯を使うわけで、適応となればとても良い治療法と思います。

この移植のドナー(元気な歯で、しかし不要だから、ダメになった歯のところに移植される側の歯)にもっともよく使われるのは、上顎の親知らずです。このため、悪くてダメになりそうな歯がある方には、支障をきたさない限り、不要であったとしても「念のために抜かずにとっておきましょう」と判断されることも少なくありません。

しかし、普通のレントゲンでは、根の状態は必ずしもわかりません。たいていの親知らずは、奥歯とはいえ少し小さく、根が寄り添っていることが多いので、移植に使いやすい歯となります。一般的に、上顎の奥歯は口蓋(こうがい=くちの天井)側と頬側とに根が分かれて開いており、抜くときには歯を削って根を口蓋側と頬側とに分割して抜歯することも少なくありません。たまに親知らずであっても、他の奥歯のように根が開いていて、無傷では抜けない、もしくは抜けても、移植したい先の骨よりも大きくてはまらない、ということもあります。

下顎の歯に悪い歯があって、「もしかして将来的に移植に使えるかも」と言われて上顎の親知らずをずっと抜かずにとっておいた、という方が、とうとう下の歯がダメになったので移植をしてほしい、という依頼でいらっしゃいました。

口の中やレントゲンで見ると、たしかに歯の移植に良い適応の歯に見えます。歯の大きさや、根の長さは、良い感じにダメになった所にはまりそうで申し分ありません。そのため、CTを撮影しました。



結果は、なんと、とても歯を壊さないかぎり抜けそうにない、もしも抜けたとしても、とても駄目になった歯のところの幅には入りそうもない、根が大きく開いた歯でした……。ということで、残念ながら、適応外となりました……。

患者さんは、「何のために残しておいたのか、最初から使えなかったんじゃないか」と、少し不信感を口にされました。
「いいえ、上顎の親知らずを残しておいたのは、可能性として悪くない選択肢だったと思います。上顎の親知らずは要らないからと抜いてしまってから、他の歯がダメになって抜歯となったら、もう移植する歯はありません。場合によっては、歯科インプラントを入れることとなり、高額な自費診療となります。

とはいえ、その時点で移植のドナーとしての適応を判断するためにCTを撮りたいと思っても、それは保険適応にならずに自費となりますから、これは本当に必要となった時にするべきと思います。

そう考えると、かかりつけの先生の判断はおかしくなく、むしろ、患者さんの身体的かつ金銭的な負担を考えた、すばらしい方針だったと思います。ただ、結果論として、適応ではなかったというだけの話です」

と説明のうえで、CT画像などとともに、再度かかりつけの先生と相談するようにと、返信のお手紙をお渡ししました。念のために、かかりつけの先生との話が折り合わなかったときのために、次回の相談の予約を入れておきましたが、ご本人によりキャンセルとなっていました。

きっと、かかりつけの先生もそれなりに説明していたのだろうとは思いますが、なかなか患者さんの記憶には残らないということなのだと思います。

このような患者さんのことを第一に考えたかかりつけ歯科医との連携は、とても気持ち良く、うれしい気持ちにさせていただけます。

多くの方が、その方のためを考えるかかりつけ歯科医をもてるようになると良いなと、願っています。