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全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第2回 成功する秘訣!”現義歯を良く診よう”

全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第2回 成功する秘訣!”現義歯を良く診よう”
全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第2回 成功する秘訣!”現義歯を良く診よう”

現義歯診断の重要性

皆さんは全部床義歯製作を希望する患者さんが来院された時、現義歯をどのくらい診ているでしょうか? ひょっとすると、"全部床義歯製作"という治療方針が決まっているため、「前医が作った現義歯は関係なく、概形印象からていねいに製作するだけだ」と思っていないでしょうか。実は、私のような義歯治療を専門にしている歯科医師であっても、現義歯をていねいに診断して得られる情報は本当に重要だと考えています。 現義歯にはさまざまな情報が含まれています。大きく分けると、①現義歯が失敗した理由、②現義歯が機能した理由、の2つが有用な情報だといえます。 なぜ、現義歯が上手くいかなかったか、難症例であればあるほど、きっと前医や歯科技工士が苦心してその義歯を作り上げたはずです。にもかかわらず、うまくいかなかったのはなぜなのか? それを読み解けなければ、再製作を行ってもまた同じ結果になる可能性が高いと考えられます。 逆に、どんなに義歯床が劣化し、咬合面が咬耗していたとしても、今日のこの日まで患者さんの口腔内で長期間機能した実績がその義歯にはあるといえます(図1)。その義歯の良いところを見つけて、新義歯に活かすことは、成功への近道であり、まさに現義歯は新義歯への試金石ではないでしょうか? 図1 義歯床は劣化し、人工歯も著しく咬耗していますが、その状態こそ長期間口腔内で機能した証拠であるともいえます。

診るべき3つのポイント

床外形:床外形が典型的な義歯外形と大きく異なり、床縁が明らかに短い場合には、辺縁封鎖の不足や支持域の不足が生じていると考えられます。そのうえで患者さんが維持力の不足などを訴えている場合には、新義歯では適切な外形が得られるように製作することが重要です(図2、3)。 図2 レトロモラーパッドが被覆できておらず、また舌側床縁も短いと考えられます。 図3 同患者に対する新義歯。典型的な義歯外形を付与することで、良好な維持が得られました。 ②人工歯の咬耗状態:人工歯の咬耗が著しい場合は、患者さんがある一定期間義歯を使用した(機能した)証でもあるといえます。そのため、その義歯には何かしら良いところ、新義歯にも取り入れるべきところがあると考えられます。また一定以上の咬耗が進み、アンチモンソンカーブが生じたり、上顎前歯部が強く接触したりするようになると、上顎義歯の維持や安定の低下が引き起こされます(図4)。 図4 著しい咬耗が認められ、特に上顎の舌側咬頭が消失していることからアンチモンソンカーブの状態となっており、おそらく上顎は脱離しやすい状態だと考えられます。 ③咬合状態でのバランス:義歯を咬合させた状態で観察することも重要です。正面から見て、上下の正中がズレていたり、左右臼歯のオーバージェットに差があったりすれば、咬合採得時にミスがあった可能性が考えられます。あるいは、後ろから見て、レトロモラーパッドと上顎結節部の距離に左右差が大きいような場合も、咬合採得のミスや下顎の偏位などが疑われます。つまり、新義歯製作時には咬合採得により注意する必要があるといえます(図5)。 ぜひ、明日から現義歯をていねいに診断して、新義歯の有用な情報を得るようにしてください。 図5 レトロモラーパッドと上顎結節の位置関係に左右差が大きく、下顎が大きく右側に偏位している可能性が疑われる症例。

著者松田謙一

大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授

略歴
  • 2003 年、大阪大学歯学部卒業
  • 2007年、同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)

同大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座助教・臨床講師を経て、2019 年より医療法人社団ハイライフ大阪梅田歯科医院院長、HILIFEDENTURE ACADEMY 学術統括者。
現在、大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授も務める。
https://dentureacademy.org/

松田謙一

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