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2022年5月のピックアップ書籍

2022年5月のピックアップ書籍
2022年5月のピックアップ書籍

トラブルを未然に防ぐヒント,トラブル拡大を食い止めるコツが満載! 『これで解決! 矯正トラブルマウスピース型矯正、MTM、再治療等の“困った”事例に学ぶ予防と対処法』

歯列矯正治療のエッジワイズ法がアメリカから導入され、約50~60年が経過。その治療法は歯科大学や矯正専門開業医を中心に全国に広まっている。子どものときに矯正治療を受けて良かったと思えた経験から、子どもにも受けさせたいと考える親も多い。また最近では、成人や高齢者の患者を見かけるようになり、審美的な問題だけでなく、口唇閉鎖不全や嚥下ができない。食べ物が咀嚼できないなど口腔機能全般にまでわたり、治療範囲は拡大している。そのため、患者の訴えも心理的問題から顔貌の美的問題、骨格的問題、精神的問題など多方面に拡散し、治療後の再発の問題や歯間空隙の発現などにまで及ぶ。小児から成人まで種々のことを訴える。場合によっては裁判沙汰になることもあると言われている。本書ではそのようなトラブルへの対応・予防の実例を紹介している。Case3は、不正咬合を主訴として来院したが、精神的不快感までも治せると思っている患者である。矯正治療のステップを理解させ、精神科・心療内科を紹介し、不快感の除去や生活状況の改善はできないことを説明し、保護者に了解を得て矯正治療を中止した。矯正治療は数年かかるが、過度な期待には応えられないことを治療前に十分説明しておく必要がある。またCase4は、中学生のときに矯正治療を行って良好な噛み合わせとなったが、35年ぶりの来院時には咬合関係がⅢ級となり、前歯部の一部が逆被蓋となっていたケースである。問診したところ、心療内科に通院し、筋弛緩作用のある向精神薬を常用しており、以前にはなかった舌突出癖や低位舌が見られた。そこで、心療内科の症状が安定してから再度矯正治療を行い、良好な結果を得ることができた。しかし、治療後にもMFTを行って安定を図っており、安定するかどうかを定期的に長く観察していく必要性を感じる。いずれも記録が正確に残っていたので、患者にわかりやすく的確な指示ができていると思われる。この他にも本書では、「反対咬合を治療したが、成長とともに再発した」「歯科矯正用アンカースクリューを誤飲した」「海外からの転院で、治療費の減額を要求された」「急に患者の海外への留学が決まった」「疼痛のため装置を使用できない」「悪習癖の残存により後戻りした」「固定式リテーナーの脱離により抜歯空隙が再発した」など、さまざまなケースを取り上げている。このようなトラブルに対して法律家の意見も参考にして、患者にとって安心で安全な治療ができるように問題の解決策を明確に示しているため、矯正治療を行っている先生方の参考となることが多いと思われる。このような実例を多く経験し、解決策を学ぶことができれば、安全な治療環境を築くことができ、問題が起きないように予防することができる。本書で学んだことは、安心で安全な質の高い治療の提供に大いに役立つものと思う。 評 者 山口秀晴 (東京都・やまぐち歯科・矯正歯科) 末石研二/野嶋邦彦/片田英憲・編著 岩田直晃/小坂竜也/末石倫大/西井 康/ 根津 崇/福本恵吾・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 11,000円(本体10,000円+税10%)・192頁

good consumer of researchとしてより良いEBMの実践を 『日常臨床に活かす エビデンスの調べかた・読み解きかた入門』

EBM(Evidence Based Medicine)の概念は、1991年に発表されたカナダのMcMaster大学のG. H. Guyattの論文が起源といわれている。評者はちょうどその頃(1991~1993年)米国に留学しており、留学先のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のClark教授がレジデント向けに開講した文献レビューのコースの助手をさせていただく機会があった。コースは、1時間で臨床研究論文を4本ほど取り上げ、それぞれについて参加者がcritical appraisal(批判的吟味)を行い、その論文を自身の臨床の根拠として採用するかしないかの判断を発表し、その判断根拠について議論するという内容であった。EBMが産声を上げたばかりの当時に、エビデンスに基づいて臨床判断をする方法論の教育が歯学部でも行われていたのである。しかも、参加者はさまざまな診療科のレジデントで、研究者ではなく臨床医を目指す若者たちだった。評者もEBMのコアとなる部分、すなわち論文の批判的吟味の重要性とその具体的方法を学んで帰国した。当時の日本では、英語論文を読む場合、ともかく論文を肯定的に受け止める傾向が強く、論文を批判的に読むという態度に欠けると評者は感じていた。そこで帰国後、評者は研究室の大学院生を対象にUCLAと同様の内容のセミナーを実施した。そして、セミナーを通じて院生たちの態度が変わっていくことに手応えを感じた。以来、各種の学会や講演会などの大学外においても、EBMの紹介やそのプロセスと実践の方法をテーマとした講演を数多く行ってきた。しかし、それらは臨床家の方々にはあまり人気がなかった。臨床家がEBMのプロセスを自ら実践するのは難解で手間がかかりそうなので、研究者が行ったシステマティックレビューなどの結果を教えてもらえればそれで十分、ということだったようだ。 さてこのたび、臨床家が自身の臨床のためにEBMを実践する際の手引書として本書が出版された。「臨床家が自身でEBMを実践する」という点が、大変意義深いと感じている。各章のタイトルを見ても、「臨床家によるエビデンスの活用」、「効率のよい論文検索」、「効率よく論文を読む方法」、「抄読会の開きかた」、「講演・発表資料への引用のしかた」と、まさに臨床家がEBM実践に際し座右に置いて利用できる内容になっており、前述のような難解さや手間などの懸念を払拭し、日常臨床に対するエビデンス活用へと導いてくれることだろう。最後に、EBMの実践に関して印象深いフレーズを紹介したい。「臨床家は、当然のことながらgood researcherになる必要はないが、good consumer of research になる必要がある」。誰の言葉だったか忘れてしまったが金言だと思う。この言葉を胸に本書を手に取り、good consumer of researchになって、より良い臨床を実践していただければ幸いである。 評 者 古谷野 潔 (九州大学大学院歯学研究院歯科先端医療評価・開発学講座)

まるで旅行ガイドブックのように持ち運びできる歯科の手引き書です 『歯科衛生士・歯科助手 おしごとハンドブック』

初めての土地を旅行するときには、誰でもガイドブックを購入し、いろいろ下調べをしてから訪ねていくものである。こうしたときガイドブックは簡潔で、見やすく、わかりやすく、そして最新の情報が収載されていることが求められる。まさに本書は、まだ実地経験のない歯科衛生士、歯科助手の方々が実際に歯科医療の現場で業務に携わるにあたり、多様で重要な情報を手軽に得られるガイドブックであると感じる。本書を手にしたとき、「就職したときにこの本に出会いたかった!」と口にしたぐらい、歯科医院で働くスタッフにとって魅力のある書籍である。本書の特徴として、まず片手に収まり制服のポケットに入るサイズであることが挙げられる。手軽に持ち運べ、どこでもさっと調べることができる。診療室でわからないことがあったとき、改めて書籍で調べようとすると時間を要し、業務のなかで忘れてしまうこともある。本書であれば診療中のすき間時間に調べ、すぐ業務に役立てることができる。また本書には、豊富なイラストや写真に加え、ショート動画が80本も搭載されている。どの動画も2~3分程度にまとめられており、YouTubeの動画を楽しむ感覚で、たとえば通勤中にハンドブックを読みつつ動画を視聴することもできるだろう。こうした動画は、個人の勉強だけではなくミーティングなどでも活用できそうだ。書籍の内容としては、歯科医療従事者の心得から歯科の基礎知識、アシスタント業務、使用器具、材料など毎日の業務のいろいろな場面で役立つ情報が、初めて歯科医院で働く歯科助手の方にとってもわかりやすく解説されている。膨大な情報量であるが、要点をつかみコンパクトにまとめられている。また、スタッフを教育する立場からも使える書籍である。初めて歯科医院で働くスタッフに1から知識や技術を教える労力は大変なものである。当院でも未経験の歯科助手を積極的に採用しているが、覚えてもらうべきことがたくさんあり、何をどこから教育していけば良いものか悩む。教え方によっては誤った知識や手順、技術が伝わってしまうことがあるが、本書を基盤に教育・指導することで、そうしたことも回避できるであろう。歯科衛生士も同様で、この4月に入職する新人歯科歯科衛生士のみならず、教育する立場のチーフ歯科衛生士などが知識の再確認をしたいとき、そして教育・指導の現場で活用することができる。今ほしい知識や手順がすぐに得られ、手軽に身につけることができる本書は、教わる立場の方と教える立場両方の負担を軽減するであろう。本書は、歯科医院で働くすべてのスタッフのみならず、歯科医院の院長先生や歯科医療従事者を育成する立場の方のためにもつくられているという(p3「この本のつかいかた」より)。まさにそれが読むと実感できるであろう。ぜひ多くの方に手にとっていただきたい。 評 者 下田裕子/水上哲也 (福岡県・水上歯科クリニック) 岩田隆紀/水谷幸嗣/岩野義弘/ 松浦孝典・編著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価3,630円(本体 3,300円+税10%)・256頁

国内販売中のIOS8社・20製品のスペック・拡張性一覧表付き 別冊ザ・クインテッセンス『DXが加速する口腔内スキャナー完全ガイド 2022/2023』

現代社会において、何かを始めたい場合にはそれを評価する「情報」の収集が肝心となる。その「情報」でみずからの考えが変わったり、整理されたりもする。本書も口腔内スキャナー(Intra Oral Scanner、以下IOS)を深く掘り下げて知るうえでの「情報」の一部になると感じた。評者が身を置く歯科技工業界ではチェアサイドより一足早くデジタル化の波が訪れたが、本格的な波は補綴材料としてのジルコニアの活用だろう。現在では一般的となってきたジルコニア材だが、今も昔も歯科用CAD/CAMの利用なくしては取り扱うことができず、すなわちジルコニア材を取り扱うには歯科用CAD/CAMを導入するしか選択肢がなかった。こうして歯科技工業界のデジタル化は少しずつ広がってきたが、CAD/CAM冠の保険収載によって爆発的に広がりを見せたのは周知のとおりである。残念ながらIOSの現状ではそこまでの独占性はなく、それこそが導入に踏み切れない、もしくはそれほど興味を持てない理由となっているのかもしれない。本書は巻頭特集、製品紹介ページに大きく分かれ、前者はIOSの特徴と、従来法の印象採得との比較や、発刊時点の国内で販売されているIOSのスペック・拡張性をグラフや一覧表を交えて細やかに紹介され、後者は各メーカーによるIOSの解説と、各IOSユーザーの先生方による補綴治療、インプラント治療、矯正歯科治療などへの臨床応用例や診断、カウンセリングにおける具体的な活用方法の紹介で構成される。現在のIOSを始めとした歯科用CAD/CAMの多くは「オープンシステム」であり、CADソフトウェアとは当然のことながら、CTや顔貌写真・フェイススキャン、顎運動測定器など、他の歯科用デジタル機器との連携の重要性かつ利便性において各治療の観点から紹介されており、今日のIOSはもはや印象採得をデジタル化する1つのツールではなく、デジタルデンティストリーの入口として重要な役割を担っていることと感じさせられる。これらの連携の便利さを享受してしまうと、以前のアナログ法に立ち返ることの意味のなさが容易に想像できる。テクノロジーにおけるデジタル化はアナログの上位互換といった側面をもつが、手技に至ってはアナログ作業がなくなることはなく、デジタルとアナログが互いを補い合い、いかに効果的に融合させるかが今後の歯科界のDX(デジタルトランスフォーメーション)の鍵となるだろう。本書ではIOSを万能な機器という位置付けではなく、不得意な部分も包み隠すことなく紹介されており、しかるべき着目点は「こんなことまでできるのか」と知ってもらえる驚きの臨床例の掲載であり、とてもすばらしい。いまだIOSを経験されていない先生方へぜひとも推薦したく、一方では既にIOSを活用している先生方やスタッフの方々、連携する歯科技工士の方々にも新たな発見や刺激となり得る期待の一冊である。 評 者 十河厚志 (株式会社デンタルデジタルオペレーション) 馬場一美/髙場雅之/岩内洋太郎/荒井昌海/山羽 徹/長尾龍典・監著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 5,940円(本体5,400円+税10%)・132頁

歯磨剤について広く深く理解できる,セルフケア処方の実践書 別冊歯科衛生士『歯磨剤選び方ガイド 目的(ターゲット)に合った成分はどれ?』

本書の著者とは、個人的に何度か食事をしたことがある。そのたびに、その温厚な物腰や話し方に魅了された。本書はそんな著者の性格そのままに、一切の気負いや誇張を排して終始穏やかな語り口で書かれている。「ですます調」の文章がなんとも心地よく、キャリアの長短にかかわらず多くの歯科衛生士さんの心をつかむに違いない。テーマは、「病院で処方される薬と同じように、一人ひとりの患者さんにとって必要なセルフケア製剤を歯科医院で処方することによって、セルフケアの成果を高めようとする予防的なアプローチ」である。著者はそれを「セルフケア処方」と名付けている。10年ほど前に初めてこの言葉を聞いたときは、「なるほど……」と深く首肯した。薬を正しく「処方」するには、その薬についての広く深い理解が必要なように、歯科用品の処方にもそれらについての多くの知識が求められる。ところが、メーカーが用意したパンフレットを熟読する歯科医師は思いの外少ない。また、一社のパンフレットだけでなく、各社の製品を横断的に解説された書籍も多くはなかった。本書を通して、ぜひ多くの歯科衛生士に「セルフケア製剤のプロ」として活躍していただきたい。Part1、2では歯磨剤の処方について、成分や清掃力、歯ブラシとの組み合わせなどの観点から詳述されている。脱灰を抑えたい、エナメル質を回復したい、露出象牙質を保護したい、ステインを除去したい、細菌や炎症、プラークを減らしたいなど、それぞれの場面で最適な歯磨剤がある。Part3ではそれらをふまえ、患者さんに合わせた処方のコツについてていねいな解説がある。Part4では各社の製品の特徴がわかりやすく比較検討される。いずれも、セルフケア製剤にはこれだけの種類と用途があったのかと驚かされる。本書を読み終わった後には著者の熱意に感化されてか、何となくしか理解していなかった自分が恥ずかしくなる。講演会などで著者が繰り返し話しておられるように、継続したメインテナンスがあたりまえになった昨今、とくに都市部の狭い診療室では、人数的にもユニット数的にも多くのメインテナンス患者さんを抱えるのが難しくなる。それを解決するには、患者さん自身による質の高いセルフケアにより、メインテナンス間隔を少しでも延ばしていくしかない。つまり「セルフメインテナンス」の発想である。そのためには、本書で語られるセルフケア製剤に対する深い理解と適切な処方が不可欠である。今回は歯磨剤とその周辺だけの解説にとどまっているが、当然著者はそれらを口腔内にデリバリーするための器具・ツール(各種歯ブラシや歯間ブラシ、フロスなど)にも多くの知識をお持ちのはずである。新たに「器具・ツールの処方」についても執筆いただけると、さらにセルフケア処方のレベルが上がると思われる。続編を期待したい。 評 者 内山 茂 (東京医科歯科大学臨床教授) 加藤正治・著 青田真穂/大島美江/鈴木裕美/鈴木由美子/渡邊晴日・執筆協力 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 4,290円(本体3,900円+税10%)・116頁

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