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全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第5回 やってみよう“閉口印象”

全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第5回 やってみよう“閉口印象”
全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第5回 やってみよう“閉口印象”
前回は最終印象のための個人トレーのラインについて解説を行いました。今回はいよいよ最終印象について解説したいと思います。

最終印象法は百花繚乱

これまで、最終印象の方法には実に多くの手法が考え出され、実践されてきました。無圧印象、加圧印象、選択的加圧印象、咬合圧印象、咬座印象……また材料などの違いも含めると本当に百花繚乱ともいえます。 今回はそれらをすべて紹介することは難しいのですが、先生方が大学教育で習った、“ハンドルのついた個人トレーを用いて、コンパウンドで辺縁形成を行い、シリコーン印象材などでウォッシュ印象を行う”という方法以外に非常に有用な、いわゆる“閉口印象”という方法についてご紹介します。

閉口印象とは? 5つのステップ

閉口印象といっても、使う材料や器具によってバリエーションが存在すると考えられます。本記事では“咬合床など閉口状態で保持できるトレーとシリコーン印象材を用い、主に閉口状態で患者の運動による辺縁形成で印象を行う方法”と定義しておきます。続いて、咬合床をトレーとして利用した閉口印象法のステップを簡単に解説します。

#1 咬合床の調整

まず、咬合床を試適し、辺縁が長すぎないか、痛みがないかなど試適を行います。通常どおりの咬合採得と同様にリップサポートや咬合平面を整えた後、適切な高径で咬合できるようにろう堤を調整します。(図1) 図1 閉口印象の前には咬合平面などを整え、簡単に咬合採得を行っておく。

#2 辺縁形成

トレー辺縁に接着剤を塗布し、フローの低いシリコーン印象材を辺縁部に盛り上げます。口腔内へ挿入して軽く咬合させ、患者に運動を指示し、辺縁形成を行います(図2、表1)。初期硬化が始まったら運動を止め、完全硬化まで咬合させて保持します。 図2 フローの低いシリコーン印象材を辺縁に盛り上げ、口腔内へ挿入し、辺縁形成を行う。 表1 閉口印象時の主な患者運動

#3 トリミング

口腔内から取り出し、余計な部分をトリミングします。辺縁部と支持域以外、リリーフ部の印象材をていねいに取り除きます(図3)。トレーが露出している部分に接着剤を塗布します。 図3 後縁や余計な部分のトリミングを行う。

#4 ウォッシュ印象

トレー全体にフローの良い印象材を盛り上げます。この際、あまり多く盛り上げすぎない(誤嚥・誤飲を防ぐため)ようにしましょう。スパチュラなどで軽く形態を整えた後、口腔内へ挿入し、先程と同じ方法で辺縁形成を行います(図4)。完全硬化後、口腔内から取り出します。 図4 フローの良いシリコーン印象材を盛り上げ、同じように口腔内へ挿入し、辺縁形成を行う。

#5 咬合床の固定(顎間関係記録)

上下とも印象が終了した後、後縁部など不要な部分の印象材をていねいに取り除きます。その後、口腔内へ挿入し、咬合高径などに問題がないか確認し、必要であれば再度ろう堤を軟化して調整を行います。上下のろう堤にV字の溝を彫り、シリコーンバイト材にて顎間間径の記録を行い、印象を終了します(図5)。 図5 上下ともに印象終了後、シリコーンバイト材を用いて顎間関係を記録して終了する。

閉口印象のメリット

閉口印象にはさまざまなメリットがありますが、義歯が機能している状態、つまり咀嚼中の状態に近い環境で印象採得を行える点が良いと思います。簡単にいえば、機能している時にもっとも適した形態の印象が得られやすいということです。そのため、特に下顎は比較的辺縁封鎖が良好で、適切な維持を得るのに有用な印象法だといえます。ぜひ一度チャレンジしていただきたい方法です。

著者松田謙一

大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授

略歴
  • 2003 年、大阪大学歯学部卒業
  • 2007年、同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)

同大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座助教・臨床講師を経て、2019 年より医療法人社団ハイライフ大阪梅田歯科医院院長、HILIFEDENTURE ACADEMY 学術統括者。
現在、大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授も務める。
https://dentureacademy.org/

松田謙一

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