前回は最終印象、特に閉口印象について解説を行いました。では、今回からは咬合採得に進んでいきたいと思うのですが、まずは垂直的な顎間関係=咬合高径について考えていきましょう。
正解に”幅”がある咬合高径
垂直的顎間関係、いわゆる咬合高径には、個々の患者にある特定の厳密な適正高径が存在するかどうかには解答が得られていません。どちらかといえば、ある程度の許容できる幅を持っているのではないかと考えられています。
また、過去の成書(Swenson MG. Complete Dentures. 1st ed. St. Louis : C. V. Mosby Co ; 1940.)にも「咬合高径は明確な結論へ到達することが困難な分野である」と記されています。しかしながら、その“幅”から外れてしまうと、使いにくい義歯になってしまうことも間違いありません。では、何を基準に考えて咬合高径を決めていけば良いのでしょうか?
さまざまな決定・確認方法について
これまでの我が国の歯科医師向けの教科書には、咬合高径の決定、あるいは確認方法について数多くの手法が紹介されています(図1)。しかしながら、「この方法で決定すれば必ず成功する」といえる絶対的な手法というものは存在せず、多くの歯科医師がさまざまな手法を組み合わせて行っているのが現状です。中でも、安静位利用法や顔面計測のWillis法を用いている先生は多いのではないでしょうか。
図1 我が国の卒前教育で教えられている主な咬合高径の決定・確認法(無歯顎補綴治療学)。 もちろん、多くの症例は問題なく決定できるとは思うのですが、もっとも効率的で失敗しにくい方法だと私が考えている“現義歯の高径を診断する”方法について簡単に解説したいと思います。
どうやって現義歯の高径を診断する?
現義歯の高径を診断するポイントは、以下のようなものが考えられます。
・装着時の顔貌所見
口角の位置や、口唇周囲の皺、赤唇の見え方などが参考となります(図2)。
図2 上唇の赤唇が薄く、口角が下がっており、咬合高径が低下している可能性が考えられる。
・現義歯の使用期間「現義歯をどのくらい使用しているか?=口腔内で機能しているか?」を把握することが大切です。長く使用できている義歯の高径は参考とすべきであり、大きな変更は避けた方が良いかもしれません(図3)。
図3 口腔内で機能していた義歯とそうでない義歯では、高径の参考にできるかどうかが大きく異なる。
・人工歯の咬耗人工歯が咬耗した分、高径が下がっていると考えられるため、新義歯製作時には高径を回復することを考える必要があります(図4)。
図4 著しい咬耗を認める現義歯。製作時よりも明らかに高径が低下していると考えられる。
・平均値との比較上下中切歯部の床縁間距離は、平均で36〜40mm程度といわれています。患者の体系等が平均的であるにもかかわらず、同距離が平均値と大きくかけ離れている場合には、注意が必要だと考えられます(図5)。
図5 義歯の高径を決定する際には、平均値も参考となる。
現義歯の高径を診断する方法の良いところ
咬合高径を決定する際、顔貌での判断や顔にマーキングを行って計測する方法はどうしても主観的となったり、曖昧な計測値になったりしやすいため、注意が必要です。そのため、今回紹介したように、現義歯の高径を診断し、新義歯の高径をどうするか?をあらかじめ決定しておくことで、義歯製作中の各ステップで現義歯やろう義歯を計測しながら進めることができるため、比較的正確に高径を設定できるようになります(図6)。
図6 現義歯と咬合床やろう義歯を計測しながら進めることで比較的正確に高径を設定しやすい。