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口腔外科診療のエビデンスを考える 第3回:薬剤関連顎骨壊死-その2-

口腔外科診療のエビデンスを考える 第3回:薬剤関連顎骨壊死-その2-
口腔外科診療のエビデンスを考える 第3回:薬剤関連顎骨壊死-その2-
薬剤関連顎骨壊死(Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw:MRONJ)は、骨吸収抑制薬であるビスホスホネートとデノスマブ投与患者に発症し、特にがんに対して用いられる高用量ビスホスホネートと高用量デノスマブで発症頻度が高くなると前回述べた。
MRONJの発症頻度は最近どうだろうか?口腔外科の実臨床では増えてきていると感じている医療者がほとんどではないであろうか? 
公益社団法人日本口腔外科学会が認定施設を対象に行っている疾患調査では、MRONJ患者数はここ10年で6倍と急激に増加している(図1)。
その原因として、骨吸収抑制薬の処方数増加がもっとも考えられるが、これまで行ってきた治療や予防法が有効ではなかったともいえるかもしれない。


図1 MRONJ患者数の推移。

最近、MRONJの発症頻度について、282万人のレセプトによるビッグデータ解析の結果が報告されており、骨粗鬆症に対する低用量骨吸収用句製薬投与ではおおよそ1,000人に1人、悪性腫瘍に対する高用量骨吸収抑制薬投与ではおおよそ50人に1人の発症率と推定されている1。現実的な数字であるので、患者さんに説明するにも有用だと思われる。

MRONJの治療・予防指針を示したポジションペーパー2016年版があるが、前回も述べたように医学的エビデンスに裏づけされたものではなく、筆者も疑問に思う点がある。本ポジションペーパーの詳細では、ステージ1の早期のMRONJでは抗菌性洗口剤、局所洗浄、局所抗菌薬など保存的な治療が推奨されている。ステージ2の治療法としては、最初に抗菌性洗口剤と抗菌薬の併用を行い、経過が不良な場合は複数の抗菌薬併用療法、長期抗菌薬療法、連続静注抗菌薬療法を行い、それでも治癒が得られない場合に腐骨除去、壊死骨掻爬、顎骨切除などの外科療法を行うことが記載されている。

したがって、これまで多くの施設ではMRONJの第一選択治療は保存療法、予後不良の場合にのみ外科療法を行うとする治療が施行されることが多く、今年1月に筆者が赴任した広島大学でも同様にまず保存療法が行われていた。

原則的に外科療法を行ってきた前任地の長崎大学から赴任した筆者にとって、広島にはMRONJが少ないのかなと錯覚したが、口腔外科とは違う診療科で保存療法が行われることが多く、進展したり治癒に至らなかったりした場合、その多くは顎骨の広範囲切除の適応となるようになってから口腔外科に紹介されてきているのが現状であった。

しかし壊死骨には血流がないため、いくら抗菌薬を複数・長期・静注で投与しても病変中心部には移行しないと考えられるし、さらに抗菌薬の長期投与は耐性菌の獲得や腸内細菌のバランスの乱れ、免疫力の低下などをきたすことがあり、本当に適切な治療であるのか疑問に思っていたこともあり、現在ではまず、初診時から外科的療法の有用性も含めてカンファレンスを行うようにしている。長崎大学でも過去に保存療法を選択したケースで、急速に骨壊死が進行し手術療法を適応するタイミングを逃したり、進展により著しくQOLを低下させてしまったりした苦い経験がある。このようなケースは少数で統計学的には、明らかな「害」とされない可能性がある。

まもなくお披露目になるMRONJポジションペーパー2022年版は、医学的エビデンスに裏づけされたものであることが期待されるが、現実的には難しい面もあることは百も承知である。治療の基本指針は、2016年版と同様に疾患の治癒ではなく、骨壊死領域の進展防止や症状の緩和が治療の目的と記載されるのであろうか? 前回も述べたが、非常に興味をもっているところである。

参考文献
1.Ishimaru M, Ono S, Morita K, Matsui H, Hagiwara Y, Yasunaga H. Prevalence, Incidence Rate, and Risk Factors of Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw in Patients With Osteoporosis and Cancer: A Nationwide Population-Based Study in Japan. J Oral Maxillofac Surg. 2022 Apr;80(4):714-727.


著者柳本 惣市

広島大学大学院医系科学研究科口腔腫瘍制御学・教授

略歴
  • 1996年3月、長崎大学歯学部卒業
  • 1996年6月、長崎大学歯学部附属病院第一口腔外科・研修医
  • 1998年4月、長崎大学歯学部附属病院第一口腔外科・医員
  • 1999年4月、長崎大学歯学部第一口腔外科・助手
  • 2006年4月、長崎大学病院・講師
  • 2022年1月、広島大学大学院医系科学研究科口腔腫瘍制御学・教授
  • 現在に至る

【資格】
日本口腔外科学会認定「口腔外科専門医・指導医」 日本がん治療認定医機構「がん治療認定医(歯科口腔外科)」 日本口腔腫瘍学会認定「口腔がん専門医・指導医」 日本口腔インプラント学会認定「口腔インプラント専門医」 日本睡眠歯科学会認定「認定医・指導医」

柳本 惣市

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