歯科医院には、歯科医師法に規定されている応召義務があります。
新型コロナウイルス感染症が蔓延している現在の状況下においても、歯科医院はこの応召義務を果たす必要があるのか気になるところです。
コロナ禍で通常の診療を行うということは、歯科医院で働く従業員の感染リスクやクラスター発生のリスクを抱えることになりかねないため、細心の注意が必要です。
ここでは、歯科医院の応招義務の考え方や患者さんを診療しないケースなどについて解説します。
歯科医院でのコロナのクラスター発生リスク
日本国内で新型コロナウイルス感染症の発生が確認されて以降、様々な場所でクラスター(集団感染)が発生しています。
一度クラスターが発生すると連鎖的に感染が拡大し、集団感染が一気に増加する危険性があるため、くれぐれも気をつけなければいけません。
特に歯科医院をはじめとした医療機関では、細心の注意を払う必要があります。
そもそも歯科医院は、新型コロナウイルス感染症のリスクが比較的高い環境です。
歯科医院には、歯科医師や歯科助手、歯科衛生士や患者さんなど多数の人が集まります。
さらに口の中を治療するため唾液や血液などが飛び散りやすく、飛沫感染の危険性が高いと言えるでしょう。
人が密集している歯科医院では患者さんから歯科医師等への感染リスクが高いことはもちろん、患者さん同士の感染リスクも高いことがわかります。
一度歯科医師が新型コロナウイルスに感染すると、コロナウイルスが一気に拡散される可能性があるため注意が必要です。
あまり広くない環境であることからも、適切な対策を行なっていなければ、院内でのクラスター発生のリスクが高まることが容易に想像できます。
歯科医院では、特に徹底した感染症対策が求められるでしょう。
歯科医院の応招義務(応召義務)とは
歯科医師には、歯科医師法に基づく応招義務が課されています。
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歯科医師法19条1項 診療に従事する歯科医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない
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上記規定によると、歯科医師は患者さんから診療を求められた際には、原則として診療を拒むことはできません。
診療を行わない『正当な理由』があれば診療を拒むことはできますが、この正当な理由に当てはまるケースは厳しく制限されています。
万が一、歯科医師が応招義務に違反してしまったとしても、特に罰則規定はないものの、行政処分を受ける可能性があるため慎重に対応する必要があるでしょう。
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歯科医師法7条2項 応招義務違反の態様が著しく悪く、歯科医師としての品を損する行為といえる程度に達している場合は、行政上の処分がなされる可能性がある
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歯科医師には、誠実に患者と向き合う姿勢が求められています。
歯科医院において患者を診療しないことが正当化されるケース
歯科医院には応召義務がある一方で、歯科医師法19条1項における『正当な事由』に該当し、患者さんを診療しないことが正当化されるケースも存在します。
厚生労働省は応召義務に関するガイドラインにおいて、診療しないことが正当化されるケースかどうかの判断基準として、以下の基準を示しています。
・患者さんに対して緊急対応が必要か否か
・診療時間・勤務時間内か否か
緊急対応が必要でない症状であり、かつ診療時間・勤務時間外の場合には、診療しなくても正当化されるケースに該当します。
また、緊急対応が必要な症状の場合は、診療時間内か否かで変わってきます。
診療時間・勤務時間内では、事実上診療が不可能といえる場合にのみ診療しないことが正当化されると規定されています。
一方、診療時間・勤務時間外の場合、応急的に必要な処置をとることが望ましいけれども、診療しないことによる公法・私法上の法的な責任は負わないことが規定されています。
さらに厚生労働省のガイドラインでは、以下のケースのように患者さんと歯科医院との間に信頼関係が構築できない場合、診療しなくても正当化されるケースに該当すると述べています。
・診察に関係のないクレームを繰り返し、医師との信頼関係が喪失している場合
・治療費の支払い能力があるにもかかわらず、悪意を持って支払わない場合
・言語が通じない場合や、宗教上の理由により診療が困難な場合
その他、やや特殊なケースですが、以下も正当化されるケースに該当します。
・制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症にかかっているまたはその疑いがある場合
指定感染症の蔓延は、国民の生命や健康に重大な影響を及ぼす恐れがあります。
そのため、指定感染症は感染症指定医療機関での診察が義務づけられており、その他の医療機関に応召義務は発生しないこととなります。
コロナ禍における歯科医院の応招義務の考え方
新型コロナウイルス感染症は指定感染症に指定されています。
したがって、新型コロナウイルス感染症にかかったと診察された患者さんが歯科医院に訪れた場合は、診療を拒絶しても応召義務違反にあたらず正当化されることとなります。
しかし、厚生労働省のガイドライン『新型コロナウイルス感染症が疑われる者の診察に関する留意点』には、患者さんが発熱や上気道症状を有しているという理由のみで診察を拒否することは、歯科医師法19条1項の『正当な事由』には該当しないと記載されています。
また、診察が困難な場合には、少なくとも帰国者・接触者外来や新型コロナウイルス感染症の診察が可能な医療機関への受診を適切に勧奨する必要があると規定されています。
したがって、仮に新型コロナウイルス感染症に感染していることが疑わしい患者さんが歯科医院に来院したとしても、診療を断るのだけではなく、あわせて診察可能な医療機関を紹介する必要があるでしょう。
以下、新型コロナウイルス感染症に感染していることが疑わしい患者さんに対する適切な対応の仕方について紹介します。
電話や情報機器端末でのオンライン対応について
厚生労働省によると、医師が医学的に可能であると判断した範囲内において、初診から電話や情報通信機器を用いた診療により診断や処方を行うことが可能となりました。
このため、初診であってもスマホやテレビ電話などを利用してオンライン診療を行うことが可能になっています。
【参考】新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて
歯科医院のオンライン診療に関しては、以下の記事をご覧ください。
【関連】歯科医院のオンライン診療(遠隔診療)とは?メリットや条件、やり方を解説!
電話での対応について
電話で相談があった場合には、症状を聞き、新型コロナウイルス感染症の疑いがある患者さんには帰国者・接触者相談センターへ案内するよう推奨しています。
新型コロナウイルス感染症ではないと判断した場合には、混雑時を避けるよう配慮して対応することを推奨しています。
【参考】新型コロナウイルスに係る対応及び応召義務について
まとめ
今回は、新型コロナウイルス感染症が蔓延しつつある状況下での歯科医院の応召義務について解説しました。
現段階では新型コロナウイルス感染症の患者さんに対する応召義務はなく、保健所や都道府県の相談窓口を紹介すれば対応として十分だと判断されるようです。
新型コロナウイルス感染症は未だその全貌が解明されていない未知の感染症であり、明確な診療指針が定まっていない現状があります。
厚生労働省の見解も日々更新されているため、現場の歯科医院では常に最新の情報を収集し、情報交換を行いながら柔軟に対応することが求められています。