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デンタルフロスは何のために?

デンタルフロスは何のために?
デンタルフロスは何のために?
デンタルフロスの齲蝕予防効果は認められていません。と言うと、いまだにギョッとする人がいますが、カリオロジー(齲蝕学)界隈では常識になっています。「初めて聞いた!」という方のために、フロスの齲蝕予防効果に関するエビデンスを調べてみましょう。

こういう時はまず、最もエビデンスレベルの高いものから当たります。最もエビデンスレベルが高いというのは、二次文献(エビデンスに基づいたガイドライン、システマティックレビュー、メタ分析など、原著論文を統合した文献)で、その中でも信頼性の高いのがコクラン・レビューです。コクラン・レビューは、一次文献の中でエビデンスレベルが高いランダム化比較試験をシステマティックにレビューしたもので、とても厳しい基準が設置されています。そのため、多くのコクラン・レビューの結論は退屈そのもので、なかなかその基準に合った論文が存在しないために「エビデンスは見出だせなかった」となってしまうのですが、もし「~という効果がある」と結論されていると、宝物を探し当てたような高揚感を覚えます。

さて、そのコクランレビューのサイトに、flossing, dental cariesと検索してみました(2022/12/23)。3篇ヒットし、関連するレビューは2篇でした。

Home use of interdental cleaning devices, in addition to toothbrushing, for preventing and controlling periodontal diseases and dental caries
Helen V Worthington, Laura MacDonald, Tina Poklepovic Pericic, Dario Sambunjak, Trevor M Johnson, Pauline Imai, Janet E Clarkson
10 April 2019

Flossing for the management of periodontal diseases and dental caries in adults
Dario Sambunjak, Jason W Nickerson, Tina Poklepovic Pericic, Trevor M Johnson, Pauline Imai, Peter Tugwell, Helen V Worthington
23 April 2019
Withdrawn

下の方は引き下げられていました。理由は上の方と重なるからだそうです。そのため、上の Worthington らのコクラン・レビューを見てみます。

Worthington らのレビューでは、35篇の成人に対する論文がレビューされました。エビデンスの質は低いのですが、フロスによって歯肉炎を減少させるかもしれないという結果でした。プロービング時の出血とプラーク除去については一貫した結果が得られませんでしたが、著者らはプラーク除去には効果があるかもしれないと結論しています。齲蝕をアウトカムとした研究は35篇の論文にありませんでしたので、フロスによってカリエスリスクが下がるということは言えませんでした。

次に、PubMedを使って次のキーワードで調べてみました(2022/12/23)。

(("floss"[All Fields] OR "flossed"[All Fields] OR "flosses"[All Fields] OR "flossing"[All Fields]) AND ("dental caries"[MeSH Terms] OR ("dental"[All Fields] AND "caries"[All Fields]) OR "dental caries"[All Fields])) AND (meta-analysis[Filter] OR systematicreview[Filter])

11篇ヒットし、関連する論文は4篇でした。

Hujoel PP, Cunha-Cruz J, Banting DW, Loesche WJ. Dental flossing and interproximal caries: a systematic review. J Dent Res. 2006 Apr;85(4):298-305. doi: 10.1177/154405910608500404. 

de Oliveira KMH, Nemezio MA, Romualdo PC, da Silva RAB, de Paula E Silva FWG, Küchler EC. Dental Flossing and Proximal Caries in the Primary Dentition: A Systematic Review. Oral Health Prev Dent. 2017;15(5):427-434. 

Tedesco TK, Calvo AFB, Pássaro AL, Araujo MP, Ladewig NM, Scarpini S, Lara JS, Braga MM, Gimenez T, Raggio DP. Nonrestorative treatment of initial caries lesion in primary teeth: a systematic review and network meta-analysis. Acta Odontol Scand. 2022 Jan;80(1):1-8. doi: 10.1080/00016357.2021.1928748. Epub 2021 Jun 8. 

Chen H, Hill R, Baysan A. Systematic review on dental caries preventive and managing strategies among type 2 diabetic patients. Front Oral Health. 2022 Nov 18;3:998171. 

Hujoel らのシステマティックレビューでは、6篇のランダム化比較試験の論文が選定されました。成人、小児の両方を扱っていますが、小学1年生に専門家が学校のある平日に毎日フロスをすると、明らかな齲蝕の減少が認められましたが(フッ化物を使っていない集団)、3ヶ月に一度になると齲蝕の減少は認められませんでした。10代(young adolescents)のセルフケアでも、フロスの齲蝕減少効果は認められませんでした。理由としては、おそらくフッ化物を使っていることと、フロスの仕方が悪いことが考えられるそうです。

次の de Oliveira らのシステマティックレビューでは、乳歯のみを対象にシステマティックレビューしています。横断研究も含めています(信頼度は落ちます)。5篇の論文が選定されました。結論は、そのうちの1篇のみが、フロスに齲蝕の減少効果があるとしたそうです。それは Hujoel らのレビューで取り上げた専門家による登校日毎日のフロスです。他の2つの横断研究では、逆の関連性が認められたそうです(フロスを頻繁にする人ほど齲蝕が多いなど)。横断研究なのでどちらが原因かはわかりません。筆者らは、習慣づけという意味でフロスを奨励すべきだと主張しています。

3つ目の Tedesco らのシステマティックレビューでも、フロスについて新しい齲蝕予防の効果は見い出されていませんでした。

4つ目の Chen らの糖尿病Ⅱ型患者を対象にしたシステマティックレビューは、トリッキーで、含まれた論文は2つあり、そのうちの1つが、ブラッシング、歯間清掃(歯間ブラシやフロス)についての集中的な口腔衛生指導と、歯科衛生士による歯肉縁上デブライドメントを含めたプログラムが介入で、アウトカム評価のDT指数やDMFT指数に介入の効果が認められていないのに、システマティックレビューの結論では効果があり得るとなっています。本文と結論が矛盾していますが、いずれにしてもフロス単独の齲蝕予防効果は不明です。

以上のことより、デンタルフロスは

歯肉炎予防には効果あり
歯周炎予防と齲蝕には効果があるとは認められない
ただし、歯科医療従事者が毎日フロッシングすれば、齲蝕には効果があり

だと言えるでしょう。

フロスに関してはこちらも御覧ください。

なぜフロスをするなら歯ブラシの前なのか
https://d.dental-plaza.com/archives/14084

著者西 真紀子

NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 歯学修士号取得
  • 2018年 同大学院修了 歯学博士号取得
所属学会
  • 日本口腔衛生学会

西 真紀子

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