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なぜフロスをするなら歯ブラシの前なのか

なぜフロスをするなら歯ブラシの前なのか
なぜフロスをするなら歯ブラシの前なのか
私は「日曜のフィーカ」というオンラインセミナーを毎週やっていまして<https://d.dental-plaza.com/archives/10357>、有り難いことに、スウェーデン・イエテボリ大学名誉教授のドーベン・ビルクヘッド先生が「日曜のフィーカ」を応援してくださり、度々、ウェビナーをしていただいています。2021年10月31日のウェビナーでは、「2+2+2+2」のハミガキの方法<https://d.dental-plaza.com/archives/13566> について解説してもらい、参加者から多くの質問がありました。その質疑応答の中で「歯間清掃は必ず歯ブラシの前に行うように。なぜなら、歯間に入り込んだフッ化物配合歯磨剤を、歯間清掃することで取り除いてしまうから。」とおっしゃっていました。

患者さん自身によって歯ブラシ、フロス、歯間ブラシを使って清掃することは、実は齲蝕の予防に効果があるとは認められていません(Hujoel et al. 2018)。しかし、フッ化物配合歯磨剤の齲蝕予防効果には、明らかなエビデンスが確立しています(Walsh et al. 2019)。「2+2+2+2」のハミガキの方法は、それを踏まえて、歯ブラシで2cmのフッ化物配合歯磨剤を口腔内に入れ、歯周病予防には効果があると認められているブラッシングを2分間してバイオフィルムを破壊しながら、フッ化物配合歯磨剤を行き渡らせ、少量の水を口に含めてフッ化物配当歯磨剤と混ぜてスラリーを作り、それをグチュグチュと歯間の中に入れ込むように嗽をするよう勧めています。その後は、たとえフロスとて口にいれずに、口の中に残っているフッ素の中で2時間歯を休ませます。そして、これを1日2回、そのうちの1回は就寝前にします。

「2+2+2+2」のハミガキの方法の中には歯間清掃は含まれていません。ということは、フロス(または歯間ブラシ)を使うなら、歯ブラシの前に使うという理屈です。齲蝕予防に関しては、フッ素が歯面の側に存在するように工夫しましょう!

ここで、フロスと歯ブラシの順序に関する2018年の論文を紹介します。イランの Mazhari らによる "The effect of toothbrushing and flossing sequence on interdental plaque reduction and fluoride retention: A randomized controlled clinical trial" (歯間プラーク除去とフッ化物の停滞に対するブラッシングとフロッシングの順序が及ぼす効果:ランダム化比較試験)というタイトルの論文です。対象は25人の歯学部学生(ほとんどが女性)で、全員がフロス→歯ブラシ→嗽の順と、歯ブラシ→嗽→フロスの順を行い、歯間のプラーク量、歯肉縁のプラーク量、口腔全体のプラーク量、歯間プラーク中のフッ化物濃度が比較されました。結果は、フロス→歯ブラシ→嗽の順で行う方法が、歯ブラシ→嗽→フロスの順で行う方法より、歯間のプラーク量と口腔全体のプラーク量が減少していて、歯間に停滞するプラーク中のフッ化物の濃度が多いという結果でした。歯肉縁のプラーク量に有意差はありませんでした。

著者らの解釈では、歯ブラシ→嗽→フロスの順で行うと、フロスで掻き出されたプラークが除去されないままなのだろうということ、そして、歯磨剤中のフッ化物が隣接面に浸透しにくく、フッ化物の貯蔵場所になるはずのプラークの薄い層が除去されてしまうのだろうと考察しています。プラークが除去されないままだろうということは、こちらのビデオでも解説されています。【歯ブラシと歯間ブラシどっちを先に使うべき!?天野教授に聞く正しいブラッシングの方法!】予防歯科マイスター天野教授に聞く!歯科衛生士さんからの質問編 - YouTube <https://youtu.be/QSFURMFYek0>

この研究では、フロスや歯ブラシの使い方をよく訓練された歯学部学生が被験者なので、フロッシングによるプラーク除去効果が、一般の患者さんよりも高いことが想像できますので、一般の患者さんを被験者にした時にどのような結果になるのか興味深いところです。齲蝕予防のためにせっかくフッ化物配合歯磨剤を使っても、フロスでその効果を減弱させてしまってはもったいないということを、是非、患者さんに知ってほしいですね。

ビルクヘッド先生は「フロス(またはその他の歯間清掃)→歯ブラシ」という順序で行うこと以外に、次の3つを挙げておられます。
1)フロッシングは一週間に1~2回でよい
2)乳幼児にはフロッシングをしない
3)フッ化物歯磨剤を使うことの方がフロッシングをすることよりずっと齲蝕効果が高い

ちなみに、ビルクヘッド先生は「日曜のフィーカ」で次のようなお話もしてくれますので、順次、エッセンスをご報告したいと思います。

2021-10-31 スウェーデンの歯科医療システムについてイントロダクション
2022-01-09 酸蝕症(トゥースウェア)
2022-03-20 馬とヒトの齲蝕と唾液
2022-05-29 矯正と齲蝕
2022-07-31 カリエスリスクのある患者へのフッ化物配合歯磨剤の補助としてのフッ化物洗口
2022-10-16 糖尿病と齲蝕
2022-11-20 喘息と齲蝕
2023-01-29 フッ化物バーニッシュ
2023-03-19 根面齲蝕
2023-05-28 口臭症
2023-07-02 アロエと口腔保健
2023-09-03 でんぷんの齲蝕原性
2023-11-26 クロルヘキシジンと齲蝕

これらのウェビナーにご興味のある方は、psap@psap.tokyoまでご連絡ください。
見逃し視聴用の録画も用意しています。

参考文献
Hujoel PP, Hujoel MLA, Kotsakis GA. Personal oral hygiene and dental caries: A systematic review of randomised controlled trials. Gerodontology. 2018 Dec;35(4):282-289. doi: 10.1111/ger.12331. Epub 2018 May 15. 

Walsh T, Worthington HV, Glenny AM, Marinho VC, Jeroncic A. Fluoride toothpastes of different concentrations for preventing dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Mar 4;3(3):CD007868. 

Mazhari F, Boskabady M, Moeintaghavi A, Habibi A. The effect of toothbrushing and flossing sequence on interdental plaque reduction and fluoride retention: A randomized controlled clinical trial. J Periodontol. 2018 Jul;89(7):824-832. 

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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