今さら聞けない歯科衛生士さんのお悩み相談室
このコーナーでは、とくに若手の歯科衛生士さんが毎日の臨床でのお悩みに、長年経験を積んできた歯科衛生士さんにアドバイスをいただきます。
この度も、前回に引き続き若林歯科医院の若林健史院長と歯科衛生士さんにお話を伺っていきたいと思います。
今回のテーマは「時短につながるSRPのコツ」についてです。
■ご質問 「SRPが時間内に終わらないことが多いのですが、普段処置の際に工夫されていることがあれば教えてください」(20代女性歯科衛生士)
■回答いただいた歯科衛生士さん
若林歯科医院(東京都渋谷区):児玉加代子さん、松井直子さん
■アドバイザー
若林歯科医院(東京都渋谷区):若林健史院長
児玉加代子さん 松井直子さん アドバイザー:若林健史院長
――まず、歯周組織検査のプロービングの際、お二人はどのように行っておられるのでしょう
児玉さん:通常はエキスプローラー(短針)やプローブを使って、ポケットの深さや歯石の位置、歯肉の硬さ、出血のしやすさ、痛みを感じるかどうかを探って、はじめて「よしっ やるぞ!」となります。
――SRPの時はどうしていますか?
児玉さん:ポケットの深さや歯石の位置などは、事前に必ず確認します。
SRPの時は、歯石の付き方などを一つひとつプローブで確認するのではなくて、あとはスケーラーで確認ながら、スケーリングを行っていくイメージでしょうか。
松井さん:経験が浅い歯科衛生士さんを見ていると「プローブで触って、そのあとスケーラーに持ち替えて」を繰り返すことが多いんです。私たちは最初にプローブでザッと状況を確認したら、あとはスケーラーを使って表面に沿わせていくイメージで、持ち替えずに進めていきます。
――その方法だと持ち替える手間もなくなって時短につながるということですね。
その時はどんなタイプのスケーラーを使われますか?
児玉さん:私たちはハンドルが細い「角柄」のタイプを若い頃からずっと使ってきたので、
慣れもあって使いやすいと感じます。力が入るし握りやすいので・・・。ただ、どの
スケーラーが好みかは使う人によって違うと思います。私より年配の方で「握力がなくなってくるので太いハンドルがいい」
と言う歯科衛生士さんもいます。
松井さん:今回、YDMの『est2』の「角柄」を使ってみて、かなり歯石の感触をつかめました。
あと、私はハンドルがシリコンタイプの「カラフィー」が好きです。
いろんな角度で使ったときに口唇などに当たった時にクッション性もあるので使い勝手がいいと思います。
冷たいステンレスのハンドルが患者さん口唇に触れないように間にワッテを挟むのですが、その必要がないこともありがたいですね。
児玉さん:若い歯科衛生士さんでも握力がない方はラバーの太いタイプが疲れにくくていいのかもしれません。
松井さん:私も握力がないのかしら(笑)
『est2角柄』
ハンドルが細く、先端部分の感覚が手指に伝わりやすいため、細かな縁下歯石の探知に適しています。
『est2カラフィー』
カラフルな色・見やすい規格表示で目的のインスツルメントを明確に識別できます。ハンドル表面はシリコン加工を行うことで手にフィットしやすく滑りにくくなっています。また凹凸が少ないので洗浄しやすい形状になっています。
――ところで「歯石が見えているのに除去できません」と若い歯科衛生士さんが言われたらどんなアドバイスをしておられますか?
児玉さん:それは歯軸?に対して斜めから入るから届かないのではないでしょうか?
まっすぐに入れることができれば届くと思います。「7番の遠心がやりにくい」と言う若い衛生士さんは多いですが、ホリゾンタル(水平)に入れていけば入っていくんですよ。
――なるほど。水平に置いた時の固定点は同じ位置ですか?
児玉さん:同じです。左上7番の遠心であれば反対側の右上に持っていったりとか、あとは口腔外に固定点を置きます。
若林院長:僕は歯科医師向けのSRPセミナーの講師をやっているけど、歯科医師は1日ずっとSRPするわけじゃないから口腔外レストで両手で動かす方法をおもに教えています。
基本は同じなんだけど、取りにくいところや圧をかけにくい部分では、反対の手で歯にレストを置いてキュレットのシャンクの部分を持って両手で取っていきます。 その方法の場合、手のところにレストを置くこともあるね。
『歯科医師目線で診るSRPのポイント』はこちらから
児玉さん:何よりブレないですし、力をかけて行きすぎてしまわないです。
松井さん:両手の方が片手より絶対安定しますし、ツルッと行っちゃわないですよね。
児玉さん:施術する範囲の近いところに固定点が置ければいいんですけど、そういうケースばかりじゃないので補助してあげたり、フィンガーオンフィンガーで行う方がいいですね。
――お二人がスケーラーを選択する際の基準があれば教えてください
児玉さん:メインテナンスの時は、基本的に第一シャンクが長くブレードが細いタイプのスケーラーで行っています。
SRPで深いところを触る場合は、刃先が折れたら大変ですから、できるだけ刃がちびていない新品に近いものを使います。
松井さん:「麻酔が必要な縁下の深いSRPの時は太いブレードを使うように」とアドバイスしても、細い方が入れやすいからなのか、みんな細いブレードを使いたがるんです。メーカーによっては使用可能なブレードの幅を図るためのツールがありますから、それを目安にしてほしいですね。
児玉さん:最後臼歯の遠心は入れようと思えばいくらでも入れられますが、近接している6番7番だと入れにくいし細いブレードだと力がかけられないから難しいと思ったときに、
『est2』の刃部が短い「ミニ」タイプが使いやすかったです。『est2』は刃部の長さにバリエーションが豊富なので、適用範囲が増えたと感じています。
――歯肉縁下に器具をうまく挿入するコツについて伺います。
歯肉の厚さや状態によって挿入方法が変わることはありますか?
児玉さん:ゼロ度挿入にあまりこだわらなくてもブレードの内面を歯面に沿わせて入れるようにすればスッと入っていくと思います。 あとは歯肉が薄いか厚いかよりもタイトがどうかを見ています。
――つぎに根分岐部を含む下顎臼歯部舌側面の歯周ポケットの
アクセス方法について教えてください。
児玉さん:2つの根と考えて、近心根は#13-14、遠心根は近心面には#11-12という具合に使い分けています。
――2種類使っているのですか?
児玉さん:そこまで入る場合に限ってですけどね。小臼歯が2本あれば、遠心は遠心だし近心は近心ですから・・・。
――他に時短につながる要素といえば何が思い浮かびますか?
児玉さん:そうですね。番手によって色が決まっていると見分ける手間がなくなるので時短につながります。『est2』でいえば「カラフィー」や「TOIRO」ですね。
『est2 Toiro』
シリコン加工とグリップ部分の凹凸により滑りにくくフィット感に優れた構造になっています。
シリコンハンドルは長時間の使用でも疲れにくく、また、カラフルなハンドルはやさしい印象を与えます。
松井さん:私たちはブレードの形状で当たり前に判断していますけど、若い歯科衛生士さんは刃先をジーっと見て「何番かな?」という具合で選別に時間がかかってしまいがちなので、そういう意味では時短につながると思います。
若林院長:実は#11-12と#13-14は同じように複屈曲になっているから経験が浅い歯科衛生士さんだと区別がつかないこともあるよね。だから色分けは“時短”に繋がって良いと思います。でも実はよく見ると複屈曲の角度が#11-12の方が弱くて#13-14の方が少し角度がついています。さらに歯の付いている位置が#11-12は山側の方のブレードについているけど、#13-14は谷側の方に付いているから、構造はかなり違っています。歯科医院における日々の診療では「時間」という制約もあるから、新人歯科衛生士さんは、まず色で番手を覚えることから始めて、最終的には各ブレードの違いを目視で判断できるようになって欲しいと思います。