まず、ウマの頭蓋骨にもついて触れてみる。 一般的に草食動物は、咬筋が側頭筋より発達している。 これは、下顎角の咬筋の停止部をみれば一目瞭然だ。 また下顎頭と関節窩は、平坦なことから自由な動きが可能で、側方運動に適した形態をしている。 一方肉食動物は、側頭窩が広く筋突起が大きいことから、側頭筋が発達していることがわかる。 下顎頭と関節窩は、前後的に狭く側方に長い。 そして関節窩は、下顎頭を囲むように連結し、開閉運動に適した形態となっている。 また大きな犬歯を持つことから、側方運動はほとんど不可能である。 さてウマ好きの方ならご存知だろうが、3歳馬は競走馬にとって生涯一度のチャンスだ。 3歳馬といえば、皐月賞・ダービー・菊花賞などの大レ-スが目白押しである。 レースでは、たった2・3分の間にもてるパワーを出しきる。 最高の状態で晴れ舞台に立たせるためには、ちょっとした体調の変化も見逃せない。 ちょうどこの頃、乳歯から永久歯へ歯が萌え代わり始める。 “歯がわりのために体調を崩して勝てなかった”というケースは山ほどある。 そこで調教師は、ウマの食欲が落ちると、まず口の中を診る。 痛ければ、当然エサを食べることができない。 そこで、競走馬は、定期的に歯のチェックをする。 すでに述べたが、ウマは硬い草を食べるため1年に約2~3mm咬耗する。 側方運動により、上顎臼歯部の頬側や下顎臼歯部の舌側に鋭縁ができやすい。 粘膜を傷つけると、食欲に影響する。 そこで獣医に依頼し、大きなヤスリで咬合調整する。 ちなみにウマは、栄養の吸収効率を高めるため腸管が長い。 そのため疝痛(腹痛)を起こしやすい。 なかには命にかかわるものもあるという・・。 しかし某獣医師によると、咬合調整により疝痛が30%程度減少するとのことである。 競走馬にとっても“歯が命”なのである。
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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