1.消毒薬の分類 皆様の施設では、どのような消毒薬を何に対してご使用でしょうか?耐熱温度の低い器材やユニットなどの環境、さらに患者さんの口腔内等、消毒薬には幅広い適用があります。その消毒薬は微生物の抵抗性の強さと抗菌スペクトルを基準として、高水準・中水準・低水準の3段階に分かれ(図1)、それぞれ適用となる対象が決められています1,2)。「強ければ効く」という一般社会の常識が医療現場では通用せず、消毒薬は必ず適切な濃度で使用されなければなりません。なぜならば微生物に効果があるという事は、患者さんや私たちの身体にも影響が及ぶ危険性があり、医療安全の観点からは必要最小限の使用に留める必要があります。 図1 微生物の消毒薬抵抗性の強さと消毒薬の抗菌スペクトル 高水準消毒薬は、硬い殻のような「芽胞」と呼ばれる蛋白質の固まりを身にまとう芽胞菌から院内感染の原因ともなるMRSA(Methicillin‐Resistant Staphylococcus aureusメチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの一般細菌までが対象となる。 2.歯科の臨床現場における薬剤の適正使用について 最近では医療器材製造者のご尽力で、多くの製品が高圧蒸気滅菌法に対応できるようになっていますが、121℃もしくは134℃という滅菌温度に対応できないものに対しては薬剤による消毒を行います。周知のように感染管理における微生物対策としては滅菌・消毒・洗浄があり、質の高い滅菌や消毒のためには、微生物の温床となる汚染物を可能な限り除去する洗浄が重要です。その次には滅菌か消毒かという選択になり、消毒においては何を消毒するのかという基準で消毒薬を選定します。消毒薬が皮膚に付着すると皮膚炎や化学熱傷の原因となってしまうため、適切な濃度の調製時や使用時には必ず適切な身支度が必要となります(写真1)。 写真1 薬剤使用時における個人防護具の使用 標準予防策に基づき、マスク・キャップ・ガウン・ゴーグルもしくはフェイスシールド・グローブを使用して化学熱傷や針刺し(切創)事故の予防に配慮する。 3.法令遵守により安全性確保 2024年4月より「皮膚等障害等防止用の保護具の使用」が施行され、厚生労働省により化学物質使用時の防護具選定に関するマニュアルが作製されており3)、pdfをダウンロードすることができます。その中で、「化学防護手袋は、日本産業規格(JIS)T 8116 において、酸、アルカリ、有機薬品、その他気体及び液体又は粒子状の有害化学物質を取り扱う作業に従事するときに着用し、化学物質の透過及び/又は浸透の防止を目的として使用する手袋」としており、化学防護手袋に対する耐透過性、耐浸透性、耐劣化性に関する性能や品質等について規定しています。 歯科の臨床現場においても化学物質である消毒薬を使用する際には、施術時に用いるような薄手のグローブではなく、化学物質の種類や取り扱いに適したバリア性の高い化学防護手袋を使用しなければならず(写真2)、耐浸透性や耐久性に考慮した「サミテック GT-F-07C」が発売されました。グローブの使い分けには慣れが必要ですので、できる限り目に見えるようにして習慣づけするようにしましょう(写真3)。自分たちの安全を配慮して安心して患者さんに接することができるような環境づくりを心掛けたいものです。 写真2 グローブ選択の〇× 高水準消毒薬の使用に際しては、施術時に使用する薄手のグローブではなく、安全性を確保するため化学物質の種類や取り扱いに適した化学防護手袋の使用が推奨されている。 写真3 化学防護手袋使用の習慣づけ 可能な限り目に見えるようにしておくことで、関係者全員で取り組むように心がける。 参考文献 1) 尾家重治著 シチュエーションに応じた消毒薬の選び方・使い方 株式会社じほう 2014年 2) 一般社団法人日本歯科薬物療法学会編 新版日本歯科用医薬品集 永末書店 2015年 3) 厚生労働省 皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル第1版 2024年 https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001216985.pdf
著者柏井伸子
歯科衛生士
略歴
- 1979年 東京都歯科医師会付属歯科衛生士学校卒業
- 1988年 ブローネマルクシステム(歯科用インプラント)サージカルアシスタントコース修了
- 2003年 イギリス・ロンドンおよびスウェーデン・イエテボリにて4ヶ月間留学
- 2006年 日本口腔インプラント学会認定専門歯科衛生士取得/li>
- 日本医療機器学会認定第二種滅菌技士
- 2009年 日本歯科大学東京短期大学非常勤講師
- 2010年 上級救命技能認定
- 2011年 東北大学大学院歯学研究科修士課程口腔生物学講座卒業口腔科学修士
- 2013年 東北大学大学院歯学研究科博士課程口腔生物学講座入学
- 2015年 ミラノにて3か月間臨床研究
- 2016年 アメリカ心臓協会認定ヘルスケアプロバイダー
- 2017年 上記更新
- 2020年 WHO Confirmation of Participation Infection Prevention and Control (IPC) for Novel Coronavirus (COVID-19)修了
近著 「よくわかる 歯科医院の消毒滅菌管理マニュアル」 ~無駄なく無理なく導入できる現実的な実践法~ 書き込み式 歯科衛生士のための感染管理の基本 http://interaction-books-information.blogspot.com/2018/04/blog-post.html