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発達期における咬合の変化 その20 前歯と臼歯の両方を使って食べる

発達期における咬合の変化 その20 前歯と臼歯の両方を使って食べる
発達期における咬合の変化 その20 前歯と臼歯の両方を使って食べる
モンゴル遊牧民の被蓋が浅い理由。
それは大きな口を開け,骨付きの肉を前歯で引きちぎって食べていた。(図1)

皿に盛りつけた肉を上品にナイフとフォークを使って食べるのではない。
そもそもナイフは,家畜を殺し,皮を剥ぎ大きく切断するためのものだ。(図2)

前歯は,ナイフや包丁の代わりの役目をすることがわかる。
ヒトに前歯と臼歯があるのは,まず前歯で食物を咬みきり,臼歯で咀嚼するという意味なのだろう。(図3)

日本の縄文人は切端咬合が多く,弥生人はやや被蓋が浅い。
これも民族的な差だけではなく,縄文人は狩猟生活が多かったためかもしれぬ。(図4)

一方,現代の小児の弁当箱には,食べやすい様に一口おにぎり・一口ウインナ-など前歯を使わないで,いきなり臼歯を使うものばかりである。
これが過蓋咬合の増加した原因の一つではなかろうか。
親の小さな親切が,小児の発達にとって大きなお世話なのだ。
             
余談であるが,モンゴルは乾燥地なので野菜や穀類が取れない。
遊牧民は,野菜や草は,四足動物が食べるものという。(図5)

栄養的に問題ありそうだが,彼らは健康そのものである。
なぜだろう?
日本では特定の部分の肉だけ食べ,内臓は捨てる。
しかし,遊牧民は家畜の頭から尻尾の先まで,一つの生命体すべてを食べる。
必要な,ビタミンやミネラルは血液に含まれるのだ。(図6)

一つの命を丸ごと食べるから,必要な栄養はすべて満たされる。
これをマクロビオテックの分野では,“一物全体食”というらしい。
まさに遊牧民の生きる知恵といえる。
しかし・・・である。
よく考えれば,日本でも“一物全体食”があるではないか!
そう! イリコなどの小魚だ。
日本では強い歯を作るために,カルシウムが多く含まれる小魚を食べなさいという。
しかし,これは完全栄養食の小魚に失礼なのかもしれぬ。
ちなみに,日本ではヒツジよりウシの肉のほうが好まれるが,モンゴルではヒツジのほうが高級である。
面白いことに栄養の“養”は“羊を食べる”と書く。
また“美しい”は“羊が大きい”であるし,正義の“義”も“羊に我”と書く。
“羊頭狗肉”(羊の頭を掲げて狗の肉を売る)も“牛頭狗肉”とは書かない。
これらの字のルーツは,中国北部やモンゴルにあるのかもしれぬ。

著者岡崎 好秀

前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授

略歴
  • 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
  • 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
所属学会等
  • 日本小児歯科学会:指導医
  • 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
  • 日本口腔衛生学会:認定医,他

歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!


岡崎 好秀

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