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歯科医院で気にかけてほしい子どもの全身疾患 第3回:小児がんサバイバー

歯科医院で気にかけてほしい子どもの全身疾患 第3回:小児がんサバイバー
歯科医院で気にかけてほしい子どもの全身疾患 第3回:小児がんサバイバー
定期健診希望で来院した小学校高学年の男児。パノラマX線写真を撮影したら、永久歯の歯冠が小さかったり、歯根が短かったりするようです(図1)。
よく聞いてみると、小さい時に入院して小児がんの治療を受けていたことがあるそうです。どのように対応していけばよいでしょうか?


図1 小児がん治療後の10歳男児のパノラマX線画像。

小児がんは、一般に0歳から14歳のがんを指し、年間発症数は国内で2,000~2,300例と報告されています。小児の病死原因の1位を占めますが、近年では治療後の生存率が上昇し、いわゆる「小児がんサバイバー」として長期フォローアップを受けながら、社会の中で生活している子どもさんも多くいらっしゃいます。

割合の多い小児がんとして、急性白血病や脳腫瘍などが挙げられます。これらは早期発見が難しく、がんの増殖も速いですが、抗がん剤や放射線治療に対する効果が高いことも特徴です。一方で、小児は発達の途上であり、治療後の人生も長いため、抗がん剤をはじめとした治療による合併症・晩期合併症のリスクも高いといえます。

今回は、いろいろな合併症の中でも頻度の高い永久歯胚の形成不全についてご説明します。従来の抗がん剤は、簡単にいうと細胞分裂が活発なところに作用しやすい特性をもっていますので、顎顔面領域では、形成中の永久歯胚が影響を受けやすくなります。

たとえば、出生後1歳頃までの治療では、同時期に歯胚形成が行われる第二小臼歯や第二大臼歯の歯胚自体が欠如することもありますし、その他の歯についても、形成時期に合わせて歯冠や歯根の形成不全が生じてきます。

図1に示したパノラマX線写真は、1歳半頃から数年にわたり、抗がん剤治療・放射線治療・骨髄移植を受けた男児の10歳頃の画像です。永久歯の歯根が全体的に細く短く、第二小臼歯や第二大臼歯は歯冠のサイズも小さいことがおわかりいただけると思います。

このような影響が出ることは、小児がんの治療の際に小児科などの主治医の先生から説明があるのが一般的になってきました。しかし、実際に明らかになるのが治療後しばらく経ってからであり、しかもご自身では気づきにくいこと、そして、小児がんの治療時にはその他にも命にかかわるたくさんの説明があることから、患者さんご自身もよく覚えていないケースが少なくありません。

広島大学病院小児歯科では、小児科などの先生方と協力し、可能な限り入院治療時から継続して口腔内管理を実施していますが(図2)、成長して予後良好として小児科でのフォローが終了したり、進学で通院が難しくなったりして、地域の歯科医院への引き継ぎが必要になることもあります。
また、小児歯科併設の病院ばかりではありませんので、冒頭のケースのように、患者さんご自身が地域の歯科医院を訪れることも、今後増えてくると考えられます。


図2a、b  小児歯科外来や病棟での診察・処置の様子。

では、歯科医院での対応は、どうしていくのがよいでしょうか? 原因が抗がん剤だとしても、形成不全への対応は通常とほぼ同様でかまいません。

たとえば、石灰化不全などで、色が悪かったり、しみたりという症状があれば、なるべく保存的に対応していきます。歯胚の欠如がある場合、同部の乳歯をできるだけ保存します。今回の症例のように、歯冠が小さいけれども永久歯が存在し、乳歯の根の吸収が生じているようなら、交換を見守ります。左下の第二乳臼歯や右上の乳犬歯など、自然な脱落が難しそうであれば乳歯抜去を行うこともあります。歯根が短い永久歯は、動揺を認める場合もありますが、日常生活には支障がないとおっしゃることがほとんどです。定期的に来院いただき、通常どおりのう蝕や歯周炎の予防を続けていくことが大切です。

そうはいっても、何かのきっかけで歯が脱落したり、抜歯を余儀なくされたりすることもあります。成長期のうちの補綴は、残存歯や成長に悪影響を及ぼさない設計の義歯などが選択されます。成長後には補綴の選択肢は増えますが、服薬・投薬歴が複雑な場合も多いですので、対応が難しい場合には専門科にご紹介いただくことをご検討ください。

フォローアップのためになにかと通院の多い小児がんサバイバーの子どもたちにとって、普段の歯科健診やメインテナンスが、周りのみんなや家族と同じようにできることだけでも、負担の軽減につながります。すべての小児がんサバイバーの方々が、近くで寄り添える存在の歯科医院と大人になっても関係を続けていけることを願っています。

参考文献
1.	国立研究開発法人国立がん研究センター.がん情報サービス.https://ganjoho.jp(2023年12月25日アクセス)

著者岩本 優子 / 野村 良太

広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学助教 岩本 優子 / 広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学教授 野村 良太

広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学助教 岩本 優子
  • 2009年、広島大学歯学部歯学科卒業。
  • 2014年、同大学博士(歯学)
  • 2016年より現職。
  • 日本小児歯科学会専門医。日本障害者歯科学会認定医。


広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学教授 野村 良太
  • 2002年、大阪大学歯学部卒業。
  • 2006年、同大学博士(歯学)。
  • 2011年、同大学歯学部附属病院(小児歯科)講師。
  • 2015年、同大学大学院歯学研究科口腔分子感染制御学講座(小児歯科学教室)准教授。
  • 2022年2月より現職。
  • 日本小児歯科学会専門医指導医。
岩本 優子 / 野村 良太

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