第2回に洗剤についてお伝えしました。 今でも食器用洗剤で医療用具を洗浄されている施設があります。 食器用洗剤の主成分は、アルキルアミンオキシド・アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム・ポリオキシエチレンアルキルエーテル・アルキルスルホン酸ナトリウムなどの界面活性剤です。 「界面」とは2つの物質の境界という意味で、ミラーやピンセットなどの医療用具で考えれば、器材の表面とそこに付着している汚染物との接触面になり、界面活性剤はこの部分に作用して、それぞれを分離しやすくする成分です。 まず界面活性剤が汚染物に吸着し、水との表面張力を小さくすることで汚染物を引きはがす効果が生まれます。 医療用洗剤にも界面活性剤は用いられていますが、医療用具に付着する汚染物に着目すると、炭水化物や脂質という食器への汚れと異なり、前回お話したようにアレルゲンとなる危険性を有する、唾液・血液・組織片由来のタンパク質を除去しなければなりません。 そこで医療用具に付着した汚染物を効果的に除去するためには、界面活性剤により汚染物を器材表面から浮き上がらせると同時に、再付着を防ぐためにも汚染物を分解する必要があります。 そのためにはタンパク質分解効果のある酵素を使用します。 家庭用洗濯石鹸のコマーシャルでも「酵素パワー」という表現がされているように、酵素はいろいろな製品に含まれています。 酵素にはそれぞれに特異性があり、特定の汚染物に対して効果を発揮します。 たとえば、血液などのタンパク質には「プロテアーゼ」、脂肪分には「リパーゼ」、炭水化物のデンプンには「アミラーゼ」というもので、この面からも医療用具に付着する可能性が低い炭水化物対策のアミラーゼが配合されている食器用洗剤を使用する意味がないことがお分かりいただけると思います。 酵素入り洗剤を使用する際に注意したいことは、「濃度を守る」、「浸漬時間をおく」、「温度管理する」の3点です。 まず濃度ですが、「濃ければ効く」ということは決してありません。 製品に添付されている取り扱い説明書を熟読し、必ず製造者の指示に従って計量・希釈します。 浸漬時間は汚染物と洗剤が接触して、酵素が活性を発揮してタンパク質を分解するためには多少時間がかかる為です。 また、酵素が最も活性を発揮するのは40℃前後の温度なので、20℃前後の水道水よりも加温した温水を使用するほうが効果的です。 一定温度が維持できる「恒温槽」があれば、より確実に汚染物を分解することができます。 次回は洗浄後のすすぎと乾燥についてお伝えします。
著者柏井伸子
歯科衛生士
略歴
- 1979年 東京都歯科医師会付属歯科衛生士学校卒業
- 1988年 ブローネマルクシステム(歯科用インプラント)サージカルアシスタントコース修了
- 2003年 イギリス・ロンドンおよびスウェーデン・イエテボリにて4ヶ月間留学
- 2006年 日本口腔インプラント学会認定専門歯科衛生士取得/li>
- 日本医療機器学会認定第二種滅菌技士
- 2009年 日本歯科大学東京短期大学非常勤講師
- 2010年 上級救命技能認定
- 2011年 東北大学大学院歯学研究科修士課程口腔生物学講座卒業口腔科学修士
- 2013年 東北大学大学院歯学研究科博士課程口腔生物学講座入学
- 2015年 ミラノにて3か月間臨床研究
- 2016年 アメリカ心臓協会認定ヘルスケアプロバイダー
- 2017年 上記更新
- 2020年 WHO Confirmation of Participation Infection Prevention and Control (IPC) for Novel Coronavirus (COVID-19)修了
近著 「よくわかる 歯科医院の消毒滅菌管理マニュアル」 ~無駄なく無理なく導入できる現実的な実践法~ 書き込み式 歯科衛生士のための感染管理の基本 http://interaction-books-information.blogspot.com/2018/04/blog-post.html