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その情報、どのレベルのエビデンスですか?

その情報、どのレベルのエビデンスですか?
その情報、どのレベルのエビデンスですか?
一昔前に、日本のスーパーマーケットからトマトジュースが一斉に姿を消したことがありました。これは、マウスを用いた動物実験においてトマトの成分に脂肪肝や血中中性脂肪改善に有効な健康成分が示されたという京都大学や日本デルモンテ株式会社を含む研究グループの研究成果に端を発しています。臨床的な裏付けがない段階で情報が一人歩きし、消費者行動にまで影響を及ぼした典型例といえるでしょう。

Young-il Kim, Shizuka Hirai, Tsuyoshi Goto, Chie Ohyane, Haruya Takahashi, Taneaki Tsugane, Chiaki Konishi, Takashi Fujii, Shuji Inai, Yoko Iijima, Koh Aoki, Daisuke Shibata, Nobuyuki Takahashi, Teruo Kawada
Potent PPARα Activator Derived from Tomato Juice, 13-oxo-9,11-octadecadienoic Acid, Decreases Plasma and Hepatic Triglyceride in Obese Diabetic Mice
PLoS ONE 7(2): e31317. 

このような現象は、歯科医療の現場でも見られます。たとえば「フッ化物配合歯磨剤はチタンインプラントを腐食するのでインプラント患者には禁忌である」「ホワイトニング剤に再石灰化作用がある」といった情報が、臨床試験による裏付けがない段階にもかかわらず、患者指導に用いられてしまっていると聞きます。歯科臨床の現場において、利用に足る情報源とは何でしょうか。下表に研究には次の3つの段階があることをまとめてみました。上へ行くほどエビデンスのレベルが高くなります。



in vitro、ex vivoや動物実験によって得られた知見は、あくまでもスタート地点に過ぎません。最上位の階層である in vivoのうち、ヒトを対象とした臨床試験に至るまでには相当の年月がかかります。動物実験、ex vivo、in vitro レベルの研究成果は、研究者にとっては新たなテーマの出発点として注目に値するかもしれませんが、臨床家として求められる「科学的に信頼できる情報に基づいて患者に対応する」に値する水準には達していません。新しい知見を取り入れたいという向学心は尊いものですが、それをぐっと抑えて、数年後に臨床試験の結果が出るまで、頭の片隅にとどめておくべきでしょう。

そして、たとえ臨床試験の結果が出たとしても、複数のランダム化比較試験が異なる国で行われ、その上でシステマティック・レビューやメタ分析において介入効果が支持される段階に至るまで、患者さんへの情報提供は控えるのが賢明です。以下に示すように、その水準に到達するまでは長い道のりがあり、十年単位の年月が年月を要し、ほとんどの介入がそこまで至らないのが現実です。

ヒトを対象とした研究におけるエビデンスレベルのヒエラルキー(上へ行くほどエビデンスのレベルが高くなります。)
1.システマティック・レビュー / メタ分析(複数のランダム化比較試験)
2.ランダム化比較試験
3.前向きコホート研究
4.ケースコントロール研究
5.症例報告・シリーズ
6.in vivo(動物実験)
7.ex vivo、in vitro(器官・組織、試験管・細胞レベルの実験)



著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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