管理が難しい口腔扁平苔癬への対応法
前回から白色病変の話をさせていただいておりますが、白色病変の中で痛みの管理が難しいのは口腔扁平苔癬です。 口腔扁平苔癬は口腔粘膜に生じ、慢性に経過する炎症性疾患です。網状や斑状の白色病変で白色レース状病変とよばれる特徴的な病変です。びらんや潰瘍をともなうため、不快症状や接触痛、摂食時の不快症状があり、日常生活に支障をきたすことが多いのです。口腔扁平苔癬の有病率は1.27%といわれ、女性に多いといわれています。両側の頬粘膜に多く発症しますが、歯肉頬移行部、舌縁部、歯肉縁、口唇、口角部にも発症します。 原因は明らかになってはいません。細菌やウイルスの感染、薬物、精神的ストレス、内分泌異常などとともに、歯科用金属アレルギーの関与が考えられています。歯科用修復物との接触による口腔扁平苔癬様接触性病変、薬剤アレルギーなどによる口腔扁平苔癬様病変、GVHD(移植片対宿主病)による口腔扁平苔癬様病変など原因が明らかな病変をまとめて、口腔扁平苔癬様病変といい、口腔扁平苔癬と分けて呼ぶこともあります。口腔扁平苔癬の治療は?ステロイド? or 経過観察?
治療は、疼痛の症状がなければ経過観察を行い、疼痛がある場合はステロイドの局所投与を行うことが一般的です。ステロイドを長期に続けると、口腔カンジダ症を発症するため、痛みがコントロールできればステロイドを中止して経過観察します。しかし中止すると、しばらくして再燃することが多いため、ステロイドを再開し、このサイクルを繰り返すことが多いです。ステロイドの取り扱いは非常に難しいので、ステロイドに代わる薬剤の開発が望まれています。 現在、マレイン酸イルソグラジンやタクロリムス軟膏が期待されていますが、歯科の適応がないため、保険診療では使用できません。歯肉の扁平苔癬は、歯周炎との区別が難しく、歯肉炎で痛いのか扁平苔癬で痛いのかが分かりにくいことが多いです。継続的な口腔衛生管理をして、歯周病の要素を減らさなければなりません。口腔扁平苔癬の平均悪性化率は1.09%と報告されており、潜在的悪性疾患とよばれています。ですので、定期的な経過観察が必要です。口腔扁平苔癬治療の救世主が歯磨き剤?!
ある日、ある口腔扁平苔癬の患者さんが「先生、歯みがき粉変えたら、口腔扁平苔癬のザラザラが減ってきたんです」と言ってきたので、その歯みがき粉の名前を聞いたところ、「カムテクト」(グラクソスミスクライン社)でした。まさかと思って、何名かの口腔扁平苔癬の患者さんにカムテクトのサンプルを渡して経過観察をしたところ、効果のある患者さんが結構いることがわかりました。 「何が効いているんだろう……」と成分を見ると、消炎作用のある成分としてグリチルリチン酸モノアンモニウムがあったので、この物質に着目してみました。グリチルリチン酸モノアンモニウムは甘草から抽出される物質で、肝機能障害に使用される薬剤として使用されたり、漢方薬の成分として使用されたりしています。その薬剤の添付文書の効能には口内炎と記されており、口腔粘膜炎に対する効果があることが証明されているようでした。エビデンスはありませんが、口腔扁平苔癬に対して効果があるようです。「カムテクト」は刺激が強いため、刺激物に痛みがある扁平苔癬に使用するのは難しい気がしますが、ステロイドで除痛した後に、症状を悪化させないための一つの方法として有用ではないかと思っています。ステロイドは長期投与でカンジダ症を誘発するためなかなか継続することができませんが、歯磨きで口腔扁平苔癬を縮小させ、癌化を減らす一助となれば、すばらしいと思っています。 (症例はともに参考文献より) 口腔扁平苔癬の患者説明のポイント(参考文献より)。 白色病変をご覧になって正しい診断をするためには、たくさんの症例を見ておいた方がいいと思います。ご興味のあるかたは、ぜひ、2021年に上梓させていただきました拙著『常在菌との共存を考慮した 口腔粘膜疾患の診断・治療・管理』(クインテッセンス出版刊)をぜひお読みください。 参考文献 山城崇裕.常在菌との共存を考慮した口腔粘膜疾患の診断・治療・管理.東京:クインテッセンス出版,2021.
著者山城崇裕
やましろ歯科口腔外科
略歴
- 2000年 九州大学歯学部卒業、九州大学病院顔面口腔外科勤務
- 2006年 博士号取得(歯学博士)
- 2008~2010年 飯塚病院歯科口腔外科勤務
- 2010~2013年 大隅鹿屋病院歯科口腔外科勤務
- 2013~2014年 九州大学顔面口腔外科勤務
- 2014~2016年 福岡県内の複数の歯科医院に勤務
- 2016年 やましろ歯科口腔外科開院(福岡県福津市)
【資格】
日本口腔外科学会認定専門医/日本口腔科学会認定認定医/歯科臨床研修指導歯科医
【所属学会】
日本口腔外科学会/日本口腔科学会/日本先進インプラント医療学会/日本有病者歯科医療学会