インプラント周囲炎のすべてを制す! 臨床現場の新常識がここに! インプラント周囲炎を紐解く 診断・予防・管理のすべて
Alberto Monje/Hom-Lay Wang・編集 森本太一朗/小川雄大/松成淳一・監訳 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 66,000円(本体60,000円+税10%)・848頁 評 者 金成雅彦 (山口県・クリスタル歯科) はじめに、編者である世界的にも著名なDr. Hom-Lay WangとDr. Alberto Monjeに敬意を表する。インプラント周囲炎に関するすばらしい本が今回出版され、インプラント治療に携わる一歯科医師としても非常にうれしく思う。両氏はこれまでにもインプラント関連疾患に関する数多くの研究を牽引しており、その集大成ともいえるのが本書である。学術的価値のみならず、日常臨床への実践的応用が可能な点でも高く評価されるべき内容である。 歯科インプラント周囲炎に関する文献は1990年代初頭から散見されるようになった。この時期から、インプラント周囲炎の認識が深まり、研究が進展し、治療法および予防法に関する知見が蓄積されてきた。本書は、これまでの研究によるエビデンスを網羅し、インプラント周囲炎に対する重要項目を明快に整理しており、研究者のみならず臨床家にとっても必読書であると確信している。 本書の前半では、インプラント周囲炎の発症および進行のメカニズムについて、病理組織学的、免疫学的観点から紐解き、歯周炎との相違点も明確に示している。診断に重要なプロービング方法に関しては、詳細な説明とディシジョンツリーを提示し、さらにX線、コーンビームCTを用いた骨吸収の形態評価と、そこから導かれる精密な検査・診断まで解説している。また、インプラント周囲炎の形態学的および免疫フェノタイプ的特徴に関して、歯周病との相違点についてエビデンスとともに説明されている。さらに、インプラント周囲粘膜の主な構造的および生物学的特徴を確認するとともに、角化粘膜幅および粘膜の厚さの臨床的意義を評価している。 中盤では、インプラント周囲炎の局所的・全身的な素因,誘発因子、促進因子について詳述されており、遺伝学的要因による感受性にも言及されている。一次予防としての予防的インプラント周囲支援型メインテナンス療法(PIMT)および、インプラント周囲粘膜炎に対する二次予防法に関して説明されている。 後半では、インプラント周囲炎における非外科的治療、薬理学的補助剤、インプラント表面の除染戦略に関して解説され、さらに外科的治療である切除療法と再建療法について、その術式も含めて解説されている。再建療法のための代替的な外科的治療プロトコルであるEP-DDS(病因の特定、一次創傷閉鎖、デブライドメント、除染、および創傷部の安定)についても紹介されている。 また、審美領域におけるインプラント周囲軟組織退縮のマネジメントについては、患者にとって非常に重要であるが、本書ではインプラント周囲炎の有無に応じた2つのシナリオを提示し、それぞれに対するプロトコルを段階的に示している。 最後に、本書はインプラント治療に携わるすべての医療関係者にとって、つねに手元に置いておきたい1冊であることは言うまでもない。
ドラマチックな展開が面白い! しかも全身の病気の理解も深まる! 天野ドクターの歯周病絵本② 歯周病と全身の病気の物語
天野敦雄・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 4,620円(本体4,200円+税10%)・72頁 評 者 小野善弘 (JIADS主宰) 桑原俊也 (東京都・くわはら歯科医院/JIADS) このたび、『天野ドクターの歯周病絵本 バイオフィルム公国物語』の続編として『天野ドクターの歯周病絵本② 歯周病と全身の病気の物語』が上梓された。この書籍の特筆すべき点は、何といってもそのわかりやすさであり、それは絵物語である点によるところが大きい。 絵物語にするという企画は、「歯周病が全身に悪影響を与えるメカニズムは複雑なので、わかりやすく記憶に残りやすいような形式にできないか?」と頭をひねって出てきたアイデアだとお聞きしている。さらに驚くべきは、イラストの原画のイメージやアイデアもすべて天野先生が作られたとのことであり、その多才さにあらためて敬意を表したい。 天野先生は、マスコミや各学会、勉強会にも引っ張りだこの超人気の学者(ご本人いわく、日本で初めての「フリーランス歯学者」)であることは、皆さんご存知のとおりである。その平易で、関西弁と土佐弁のまじった落語家顔負けの独特の語り口により、いつも満席の会場が笑いの渦で包まれているが、じつは「Nature」や「Science」等の一流学術誌に論文が掲載されている、超一流のアカデミアでもある。 天野先生は、学位取得後、歯周病菌の研究で当時世界的に著名であったニューヨーク州立大学バッファロー校歯周病科のRobert Genco教授のもとで研究され、帰国後、母校の予防歯科の教授となり大阪大学歯学部長、日本口腔衛生学会理事長等の要職を歴任してきた。一貫してレッドコンプレックス(Pg菌,Td菌,Tf菌の3つの悪玉菌の総称)と歯周病との関連を調べ、とくにそのなかでもPg菌を生涯のテーマとして研究を重ねてきた先生であり、本書の内容は科学的にも非常にレベルが高い。 本書は、タイトルにあるように、歯周病と全身疾患との深いかかわり、および各臓器に悪影響を及ぼすメカニズムについての解説書である。具体的には、歯周病菌が歯周ポケット内の歯根表面にあるバイオフィルムこと“バイオフィルム公国”から血管に入り、身体の種々の臓器(肺、心臓、脂肪、すい臓、肝臓、関節、腸、脳)で悪影響を及ぼす様子を、体内をめぐる旅人の視点から絵物語で説明している。各エピソードには絵物語の内容に関する科学的解説も付け加えられており、歯科医師・歯科衛生士の勉強のためにも、待合室に置いて患者さんに読んでいただくためにも適した名著である。 前作からの続きではあるが、この書籍単体でも十分に深く学べ、楽しめるし、もちろん前作とあわせて読めばさらに理解が深まるはずである。読みながら絵本の中の旅人となり、歯周ポケットから血管を通って、全身をめぐっていく様子を空想してみるのもよいと思う。日常臨床において、歯周病治療をしながら全身の健康維持にも貢献できていると考えると、明日からの臨床も楽しくなるに違いない。皆さんにぜひとも手に取ってご覧いただきたい、素晴らしい一冊である。
臨床家のための もっとも信頼できる 実践書! 口腔外科YEARBOOK 一般臨床家、口腔外科医のための口腔外科ハンドマニュアル’25
公益社団法人日本口腔外科学会・編 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 7,260円(本体6,600円+税10%)・216頁 評 者 堀之内康文 (福岡県・公立学校共済組合九州中央病院歯科口腔外科前部長) 本書は(公社)日本口腔外科学会の企画・編集による書籍で、2003年に創刊され毎年初夏頃に発刊されている。私は本シリーズの大ファンで、創刊号から最新号までの全号が書棚のもっともよい位置に並んでいる。 本書の特徴は、記事の信頼性が高く、ビジュアルで理解しやすいことである。執筆陣は第一線で活躍する専門家で、最新の知見に基づいた記事が、写真やイラストを多用してわかりやすく書かれている。記事はバラエティに富み、口腔外科的疾患や手術に関するもののみならず、広い領域をカバーしている。毎号特集が組まれ、その時々のタイムリーなトピックス、重要な疾患や手術などについて詳述される。今号の特集は「顎顔面骨骨折の診断と治療の実際」である。以前に比べ顎顔面外傷患者は減少しているとはいえ、口腔癌や口唇裂・口蓋裂、顎変形症と並び、依然として歯科・口腔外科の主要疾患であることに変わりはない。本特集では、歯槽骨骨折や顎骨骨折にとどまらず頬骨や鼻骨、眼窩など広範で複雑な外傷について、救急対応や診断、治療、全身管理まで豊富な写真とイラストでビジュアル的に解説され、理解しやすい。歯科・口腔外科の顎顔面外傷診療のレベルの維持・向上に貢献する有用な内容である。 主に一般開業歯科医、若手口腔外科医向けの「ベーシックテクニック」では、外来小手術や日常よく経験する基本的な疾患の診断、治療法が取り上げられる。今号は歯性上顎洞炎と有茎頬脂肪体による口腔上顎洞瘻孔閉鎖術が掲載されている。歯性上顎洞炎の診断・治療は、歯科でのCBCT、顕微鏡下歯内治療の普及や耳鼻咽喉科における内視鏡手術の導入などで従来に比べ大きく変化し、現在は耳鼻咽喉科での内視鏡手術が中心で、上顎洞根治術は行われなくなっているなど、新しい考え方が示されている。また、口腔上顎洞瘻孔の閉鎖方法として、従来の頬側弁による方法とは異なる有茎頬脂肪による閉鎖方法が示され、興味深い。 認定医・専門医をめざすエキスパート向けの「アドバンステクニック」では、さらに専門的な疾患や手術手技が掲載される。今号では、近年増加している中・高年者の顎変形症手術が取り上げられ、最近の新しい傾向に対応した内容となっている。 そのほかに「口腔と全身の管理」など、一般開業歯科医や訪問診療を行う歯科医師にも有用な記事が掲載されている。また、今号の「最新レビュー」では、2023年に改訂された「JAID/JSC感染症治療ガイド」に基づいた抗菌薬投与のポイントについて、最新情報を取り上げている。旧態依然とした抗菌薬投与では有効でないばかりでなく、弊害さえ生じるので,新しい知識が必要である。 日々進歩し新しくなっている歯科・口腔外科の診療や、関連隣接医学の知識について、最新の情報がわかりやすく記載されている本書は、口腔外科医のみならず一般開業歯科医も含めた、すべての歯科医師必読の書である。
臨床応用がますます拡大している最新骨補填材料&メンブレンを徹底解説 骨補填材料&メンブレンYEARBOOK2025/2026 最新マテリアルと文献から紐解く
丸川恵理子/岩野義弘・監著 安斉昌照/木村美穂/菅 良宜/髙橋 哲/ 竹下賢仁/中田光太郎/増田英人/松岡大輝/ 山下素史・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 6,930円(本体6,300円+税10%)・144頁 評 者 岩田隆紀 (東京科学大学大学院医歯学総合研究科医歯学系専攻生体支持組織学講座歯周病学分野) 骨補填材料は、現在のペリオおよびインプラント治療の分野において、欠かすことのできないマテリアルとして確固たる地位を築いている。歯槽骨の欠損や骨量の不足に対する再建・再生的アプローチにおいて、骨補填材料は治療の成功を左右する重要な要素であり、その臨床応用はますます拡大している。 私どものグループでは、この分野における合成骨補填材料の承認状況を2021年に総説として発表した。同論文は発表以来、着実に引用件数を伸ばしており、歯科医療分野における生体材料への関心が高い水準にあることを示している。とりわけ、米国および韓国との比較を通じて、日本における承認済製品数の現状を評価した結果、当時、日本国内で承認されていた骨補填材料が10製品であったのに対し、米国では実に87製品、韓国でも36製品が既に承認されているという実情が明らかとなった。この数字の差は非常に大きく、なかでも韓国においては、日本を上回るスピードと積極性で新規製品の開発・承認が進んでいるという印象を強く受けた。韓国製の骨補填材料が臨床現場で数多く使用されている背景には、製品開発に対する国の政策支援や産学連携の活発さ、臨床ニーズを敏感にとらえる市場の柔軟性があると考えられる。 骨補填材料だけでなく、メンブレンなどのバリア材についても新製品の導入が進み、近年ではソケットプリザベーションやインプラント埋入前の骨造成といった処置が一般的となってきており、本領域は今まさに活況を呈していると言えるだろう。 本書では、こうした最新の骨補填材料や周辺マテリアルについて、製品特性や科学的根拠に基づくレビューを行うとともに、著名な臨床家による多様な実施症例を通じて、具体的な臨床応用を紹介している。新製品の登場が従来の治療戦略を変える“ゲームチェンジャー”となるか否かについては、現時点で断定はできないが、今後の前向き比較試験や長期的観察研究によって、その実力が明らかになるであろう。とはいえ、臨床的な効果が同程度であれば、やはり最終的には術者にとって取り扱いやすく、患者にとって身体的・経済的負担の少ない、すなわち「やさしい」材料が選ばれるべきである。材料の選択肢が広がることは術者にとって治療計画の自由度を高め、患者一人ひとりの状態に応じたオーダーメイドの治療を可能にする。その意味でも、本書が臨床家の判断の一助となることを期待してやまない。 今後はさらに、製品ごとの比較研究や実地臨床に即した評価、長期予後を見据えた臨床試験の蓄積が求められる。本分野の発展が、より確実で予知性の高い再生療法の実現につながることを信じ、引き続き研究と臨床の両面からのアプローチを重ねていきたい。
















