ディシジョンツリーを基にした5つのフェーズで深在性う蝕へのVPTを解説! 深在性う蝕に対するVital Pulp Therapy 歯髄保存か抜髄かは患者のために
辺見浩一・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 19,800円(本体18,000円+税10%)・248頁 評 者 渥美克幸 (埼玉県・デンタルクリニックK) 私が著者である辺見先生と知り合ったのは、おそらく2010年代半ば頃だったと思う。最初は挨拶程度だったが、ある勉強会で拝見した辺見先生の症例発表がすばらしく、加えて考察が驚くほどマニアックで、心を鷲掴みにされたことを今でも鮮明に覚えている。その頃から食事をご一緒させていただく機会が増え、さまざまな話をするようになった。 実は私と辺見先生は同い年であり、また私が工学部入学後に歯学部へ進学したように、辺見先生も歯科技工士として勤務した後に歯学部へ進学されており、いずれも一般的な進路を経て歯科医師になったわけではない点で共通している。そして臨床においては、「マイクロスコープを用いた治療が好き」という点で完全に一致している。 こうした多くの共通点から親近感を抱いているが、率直に言えば私は辺見先生というスーパースターに憧れる一ファンである。 さて、本書の内容についてであるが、私の歯髄保存に対する考え方は、辺見先生の影響を多分に受けている。というのも、2019年1月に当院で辺見先生にプライベートセミナーを依頼した際のテーマが、まさに歯髄保存であったからだ。当時、この分野は今ほど情報が整理されていない時期で、VPT(Vital Pulp Therapy)に欠かせないMTAセメントについても知見は十分でなかった。しかし、辺見先生の講演はきわめて論理的かつ緻密で、知識をまとめて整理できたことは私にとって大きな幸運だった。それ以降も幾度となく講演を拝聴しており、その集大成を心待ちにしていた私にとって、本書はまさに待望の一冊であった。 深在性う蝕に対する歯髄保存に関しては偏った意見も多く、また迷いも生じやすいが、本書は治療のステップごとに5つのフェーズに分けて解説してあり、とてもわかりやすい。5つのフェーズとは、①歯髄の診断、②う蝕除去法の選択、③ステップワイズエキスカベーション、④断髄、⑤症候性不可逆性歯髄炎への対応である。辺見先生考案のディシジョンツリーを用いることで、各方法や問題点が体系的に整理され、明確な治療選択を行うための意思決定力を養える点が本当にすばらしい。 さらに各フェーズに詳細な説明とともに豊富な臨床例が掲載されており、理解を深めるうえで助けとなる。VPTだけでなく、補綴、修復(とくにダイレクトボンディング)の質が圧倒的に高い点も見逃せない。また、それぞれのフェーズにおいて、実際の患者説明例が示されているのもユニークで興味深い。VPTのように結果が不確実な治療では、患者への説明がきわめて重要であるという辺見先生の主張に納得できる。 辺見先生ご自身は「根拠の乏しい分野をまとめるのは本当に難しかった」と述べていたが、だからこそわれわれ臨床家には本書が必要なのだ。VPTにかかわるすべての歯科医師にとって必携の一冊である。ぜひ手に取って読んでいただきたい。
医療ホワイトニングと 非医療ホワイトニングとの違いを徹底解説! 増補改訂版 わかる!使える! はじめての医療ホワイトニング
新井聖範・中島航輝・長尾龍典・著/ 五十嵐 一・池田 寛・石井宏明・今井 遊・ 岩城正明・越前谷澄典・大槻克彦・落合久彦・ 小野瀬弘記・庄野太一郎・鈴木仙一・ 長谷川 孝・林 昭利 ・森本太一朗・ 脇田雅文・執筆協力 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 4,950円(本体4,500円+税10%)・72頁 評 者 浅賀勝寛 (埼玉県・浅賀歯科医院) 本書は、ホワイトニング治療に関する基礎理論から実践的手技、さらには関連機器・薬剤の選定や術後管理に至るまでを包括的に解説した実用書である。これからホワイトニングの導入を検討している歯科医師にとっては明確な指針となり、すでにホワイトニングを日常診療に取り入れている臨床家にとっても、知識と技術の再確認、整理に役立つ構成となっている。 本書の冒頭では、医療ホワイトニングと非医療ホワイトニング(いわゆるセルフホワイトニング)との違いについて明確に定義されており、患者の誤解を招きやすい用語の乱用や、歯科医療従事者が陥りがちな認識のあいまいさに対し、臨床現場での説明指針を示している。この整理は、診療上のトラブル防止や、患者との信頼構築の観点からもきわめて有用である。 特筆すべきは、本書に収載された豊富な臨床症例である。コーヒー、紅茶、赤ワイン、喫煙による外因性着色から、加齢や薬剤による内因性変色、さらにはホワイトニング効果が得られにくい難症例まで幅広く網羅されており、それぞれに対する診断、治療計画、使用薬剤、患者説明に至るまでがていねいに解説されている。どの症例も、日常臨床で遭遇しうる実例として即応性が高く、現場に直結する知見が得られる構成となっている。 さらに本書では、歯のホワイトニングだけでなく、歯肉の審美的改善を目的とした「ガムピーリング」にも紙幅が割かれている。内因性メラニン色素沈着による歯肉の黒ずみに対して、薬剤(フェノール・エタノール)を用いたケミカルピーリングおよび炭酸ガスレーザーによるレーザーピーリングが紹介されており、審美補綴やホワイトニングとの組み合わせを検討するうえでたいへん参考となる。また、術前後の変化、適応症、術式上の注意点まで具体的に記されており、ガムピーリング未経験の歯科医師にも導入しやすい内容となっている。加えて、知覚過敏への対応法や、ホームホワイトニングおよびオフィスホワイトニングで使用される薬剤・照射器・測色器などの比較情報も掲載されており、導入時の製品選定や運用指針にも役立つ。また、ホワイトニング前後のセルフケアについても記載されており、知覚過敏の軽減や着色防止、歯質保護といった目的に応じて歯磨剤が整理・紹介されている。これらはホームケアの提案や患者対応に直結する有用な情報である。 書籍タイトルに「はじめての」とあるが、内容は初学者に限定されるものではなく、すでに医療ホワイトニングに取り組んでいる中堅からベテランの臨床家にとっても、知識と臨床戦略を再構築するための中核資料としての価値を有している。 審美領域における総合的なアプローチを志向するすべての歯科医療従事者にとって、いつもそばに置いて役立つ一冊である。
世界の潮流をつねに一歩先からリードする「PRD」が日本語で読める! 別冊ザ・クインテッセンス PRD YEARBOOK 2025 顔貌主導型デジタル補綴・修復シミュレーションの現在
岩田健男/山㟢長郎/和泉雄一・主席編集 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 7,480円(本体 6,800円+税10%)・200頁 評 者 築山鉄平 (福岡県・つきやま歯科医院) 評者が初めて雑誌「PRD」のオリジナルに触れたのは、2006年にタフツ大学歯学部歯周病科post-graduate courseに留学したときである。Dr. CortelliniとDr. Tonnettiらが世界で初めて包括的にGTR(Guided Tissue Regeneration、歯周組織再生誘導法)を臨床に成功へ導くための基準を提示された論文や、Dr. BuserやDr. Jovanovicらによるインプラント治療への応用技術のGBR(Guided Bone Regeneration、骨誘導再生療法)に関する論文が印象的だった。これらは1990年代に執筆され、30年経過した今、歯周病治療のスタンダードとして確立した治療法へと成熟した。 「PRD」が他の査読済み科学論文雑誌(peer-review journal)と大きく異なるのは、つねにイノベーティブな歯科医師らによって次世代の先端的な歯科治療や手技が提案されている点である。単に統計学的評価の有意差の議論にとどまらず、生物学的・機械工学的に正しいであろう基礎科学的仮説を理論化し、その延長上に想定される未来の歯科医療を描き続けている。きわめて先駆的な科学雑誌といえる。 その姿勢は現代の「PRD」にも脈々と受け継がれており、歯周病学・修復学・補綴学においていまだにカッティングエッジな医療を世界へ提案し続けている。これらが次の20年、30年の国際的スタンダードになるであろう。近年は日本人歯科医師による論文も多く、画期的であり非常に誇らしい。 そして「PRD」の掲載論文の品評会のような場が、3年に一度米国・ボストンで開催される学会ISPRD(International Symposium on Periodontics and Restorative Dentistry)である。留学中の2007年に初めて参加したISPRDで、評者は論文の世界でしか目にしないオールスターたちの競演に触れ、「これが世界か、メジャーリーグか」とワクワクしたのを覚えている。そのような夢舞台で登壇の機会を得るなど想像もしていなかったが、2025年のISPRDでは唯一の日本人スピーカーとして登壇できたことは望外の喜びであった。本別冊には、そのことを知る吉野宏幸先生(埼玉県開業)の指名で大橋智行先生(千葉県開業)が執筆したレポート記事も掲載されており、身に余る賛辞を含め、非常に臨場感があって素晴らしかった。 また、今回のISPRDから、40年近く「PRD」の主任編集者(editor-in-chief)を務めてきたDr. Nevins親子からDr. GustavoとDr. Oscarにバトンが渡り、会の雰囲気や「PRD」に投稿される論文の出身国もより多様になっている。 このような「PRD」誌から日本の読者に向けてセレクトされ和訳されたダイジェスト版の本別冊は、英語に馴染みがない読者にとっても情報の宝の山である。世界の潮流をつねに一歩先からリードする本別冊を多くの歯科医師に目を通していただき、真の患者利益を叶える未来の歯科医療に思いを馳せていただきたい。















